交通死亡事故の損害賠償額を計算する場合は、請求できる損害の項目を漏れなく挙げていくことが必要です。
交通事故により死亡した場合に発生した損害のことを「人身損害」といいます。
人身損害は、「財産的損害」と「精神的損害」に分けられます。
「財産的損害」とは、交通事故により被害者が死亡したことにより発生した財産上の損害をいます。財産的損害は、さらに「積極損害」と「消極損害」に分けられます。
「積極損害」とは、交通事故により被害者が死亡した場合に、支払いを余儀なくされた金額のことです。
項目としては、事故後死亡するまでにかかった治療費、付添看護費、通院交通費、死亡した場合の葬儀費、損害賠償請求関係費、弁護士費用などがあります。
「消極損害」とは、交通事故により被害者が死亡した場合に、被害者が得られなくなった金額です。
項目としては、死亡逸失利益があります。
死亡逸失利益とは、被害者が交通事故によって死亡したことによって、将来労働により得られたはずの収入を得られなくなったために失われる利益のことです。
「精神的損害」とは、交通事故によって被害者や遺族が受けた苦痛、悲嘆等をいいます。
精神的損害を緩和するために支払われるのが慰謝料です。
被害者本人の慰謝料は、死亡事故の場合相続人が請求することができます。また、被害者本人の慰謝料とは別に、配偶者などの近親者は、固有の慰謝料を請求することができます。
では、上述した主な損害賠償の項目である治療費、付添看護費、通院交通費、葬儀費、損害賠償請求関係費、弁護士費用、死亡逸失利益、慰謝料の具体的な金額がどの程度になるかをみていきましょう。なお、弁護士が依頼を受けて交渉や裁判を行う場合、損害賠償額の算定については、日弁連交通事故相談センターが出している書籍「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(通称「赤い本」と言います)を使用しますので、以下の金額も右書籍に基づいています。
治療費
死亡するまでにかかった治療費や入院費など、必要かつ相当な実費全額が認められます。
付添看護費
入院中に付添看護が必要な場合は、そのためにかかった費用が認められます。職業付添人
の場合は実費残額、近親者付添人の場合は1日につき6,500円が目安となります。
通院交通費
被害者が通院に要した交通費が認められます。症状によりタクシー利用が相当とされる場
合以外は電車・バスの料金、自家用車の場合は実費相当額(ガソリン代など)となります。
また、近親者が被害者の付添のために要した交通費や宿泊費も損害として認められる場合
もあります。裁判例をみると、被害者の症状が重篤であったり、近親者が遠方から来ている場合などに認められる傾向にあります。
葬儀費
原則150万円で、それを下回る場合は実際に支出した額となります。
損害賠償請求関係費
損害賠償を請求する際には、診断書、診療報酬明細書、交通事故証明書等の資料が必要に
なります。それらの文書を取得するためにかかった費用は、必要かつ相当な範囲で認めら
れます。
弁護士費用
弁護士に依頼し裁判で損害賠償を請求した場合、請求認容額の10%程度が認められます。
これは実際にかかった弁護士費用とは無関係です。
死亡逸失利益
下記の計算式で算定されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、交通事故に遭い死亡しなければ将来労働により得られたであろう収入です。
生活費控除とは、生きていれば必要であったはずの生活費分を、基礎収入から差し引くことです。生活費の控除率の目安は、被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合40%、一家の支柱で被扶養者2人以上の場合30%、女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合30%、男性(独身、幼児等含む)の場合50%です。
就労可能年数は、原則として67歳までとします。
ただし、職種、能力、地位等によって、67歳を過ぎても就労することが可能であったと考えられる事情がある場合には、67歳を超えた分についても認められることがあります。
ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合、将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
慰謝料
被害者が一家の支柱の場合は2800万円、母親・配偶者の場合は2400万円、その他
(子供、成人独身者、高齢者等)の場合は2000万円~2200万円が相場です。
加害者に、故意もしくは重過失(ひき逃げ、無免許、飲酒、著しいスピード違反など)または著しく不誠実な態度等がある場合には、慰謝料が相場より増額されることもあります。