「備えあれば憂いなし」ということわざがあります。
歴史上、これまで人間はさまざまな危険や災難を経験し、知恵と知識で工夫して備えてきました。
そうした備えの中のひとつに「保険」があります。
保険の歴史は古く、古代ローマの時代にさかのぼるといわれています。
日本では、明治維新の頃に欧米の保険制度を導入して、現在の保険の仕組みができたようで、かの福澤諭吉が著書の中で「生涯請合」(生命保険)や「火災請合」(火災保険)、「海上請合」(海上保険)の仕組みを紹介しています。
というわけで、今回は交通事故と保険の関係について解説していきたいと思います。
そもそも、自動車に関する保険にはどんな保険があるのか? 交通事故にあったとき、どのように使えばいいのか? 保険の特約とは? などを知っておくことで、保険を有効に活用することができます。
交通事故と保険について学ぶことで、まさかのときに備えましょう。
【自賠責保険と任意保険の関係とは】
自動車に関係する保険に、「自賠責保険」と「任意保険」があります。
運転免許を取得している方は、ご存じでしょう。
では、この2つの保険は一体どのような関係で、どのように使われるのでしょうか?
<自賠責保険>
・自賠責保険は、正式名称を「自動車損害賠償責任保険」といい、自動車やバイクを使用する際に、すべての運転者が加入を義務づけられている損害保険です。(自動車損害賠償法第5条)
強制加入のため、強制保険とも呼ばれます。
・法律で定められたものなので、違反すると当然に罰則が科せられます。
違反者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。(自動車損害賠償保障法86条の3)
・自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するために作られた保険です。
そのため、人身事故にのみ適用され、自動車が壊れるなどの物損事故には適用されません。
・じつは、自賠責保険には支払限度額があります。
死亡による損害の場合3000万円、傷害による損害の場合120万円、介護を要する後遺障害の場合4000万~3000万円、その他の後遺障害の場合、1級から14級の後遺障害等級に応じて3000万円~75万円です。
「自賠責法別表第1」
第1級 4000万円
第2級 3000万円
「自賠責法別表第2」
第1級 3000万円
第2級 2590万円
第3級 2219万円
第4級 1889万円
第5級 1574万円
第6級 1296万円
第7級 1051万円
第8級 819万円
第9級 616万円
第10級 461万円
第11級 331万円
第12級 224万円
第13級 139万円
第14級 75万円
<任意保険>
・任意保険は、文字通りドライバーが任意で加入する保険です。
・任意保険は平成9年に保険が自由化されて、さまざまな内容の保険があります。
・契約によって保険金額や補償内容が異なります。
対人賠償だけではなく、対物賠償もあるので、物損事故にも対応できます。
ところで、自賠責保険は必要最低限の保障のため、実際の自動車事故では自賠責保険だけではカバーしきれないケースが多く発生します。
たとえば、頭部を強く打ったことで寝たきりの植物状態になったり、脊椎損傷で下半身に麻痺が残ったりした場合、将来の介護費用が1億円を超える場合がざらにあります。
しかし、自賠責保険の保証は最大で4000万円です。
残りの6000万円は、どうしたらいいのでしょうか?
誰に請求すればいいのでしょうか?
誰が支払ってくれるのでしょうか?
そこで必要になってくるのが任意保険です。
任意保険は、自賠責保険でカバーしきれない部分を補うものなので、自動車事故による損害賠償金額が自賠責保険金額を上回る場合にのみ、その上回る部分について支払われます。
仮に、自動車で事故を起こし被害者を負傷させてしまった場合、その損害賠償額が300万円とすると、傷害の場合の自賠責保険金の限度額は120万円です。
つまり、120万円は自賠責保険から、残りの180万円は任意保険から支払われることになります。
ちなみに、被害にあわれた方の場合、自賠責保険の期限が切れるなどしていて自賠責から支払いがない場合でも、任意保険からは、自賠責保険で支払われたはずの金額を差し引いた額しか支払われないので注意が必要です。
詳しい動画解説「自賠責保険と任意保険の関係は?」
詳しい動画解説「交通事故に適用される自動車保険の任意保険とは?」
【被害者が不利にならないための保険のポイント】
では次に、交通事故の被害者の方が保険について間違いやすいポイントや判断が難しいケースについて何点か解説していきます。
〇「交渉相手は加害者が加入している保険会社の担当者」
まず、交通事故の被害者の方が理解しておくべきことがあります。
それは、「自分自身が損害賠償を立証し、自分で加害者側に請求しなければならない立場にある」ということです。
自分は被害者なのだから、「警察が何とかしてくれるだろう」、「保険会社が何とかしてくれるだろう」、と考え他者に依存する姿勢では後々、痛い目にあいます。
被害者の方が交渉していく具体的な相手は、加害者の加入している保険会社の担当者になることがほとんどです。
これは、任意保険には、示談代行のサービスがついていることが多いためです。
保険会社の担当者は、あなたの味方ではなく交渉相手です。
しかも彼らは保険のプロです。
そのことを、よく理解しておいてください。
〇「保険会社への報告をマメにしよう」
交通事故の被害者の方にとって保険会社は交渉相手ですが、一方でマメに報告をするべき相手でもあります。
特に事故直後のケガの治療中は、この報告をきちんと行う必要があるのです。
被害者の方に対しては、最終的には損害賠償金が支払われます。
しかし、支払までには期間を要するため、いったん、被害者の方に対してはケガの治療中に、治療費の費用、(医療機関までの)交通費、休業補償などが支払われます。
この費用は「内払い金」であり、この費用を差し引いて損害賠償金が最終的に支払われるのです。
ケガの治療中には、治療には費用がかかり、さらに収入が減ることが多いため、被害者の方にしてみれば治療中の内払い金というのもとても重要になります。
この内払い金は、被害者の方のケガの状況、治療の必要性、休業が必要なことなどを保険会社に理解してもらうことで支払われるものです。
そのために、保険会社に対して、治療状況の報告を正確かつマメに行う必要があるのです。
〇「保険会社が治療費の支払いの打ち切りの通告をしてきたら…」
交通事故によるケガの治療で、被害者の方がとまどうケースがあります。
それは、治療中にも関わらず、保険会社が治療費の支払いの打ち切りを通告してきたときです。
治療費の支払い打ち切りと言われると、もうこれ以上、治療をしてはいけない、という意味に受け取れますが、そうではありません。
これはいったん、保険会社としては治療が終わったと判断しました、ということです。
ただし、その後、治療が必要だと分かった場合は費用をお支払いします、という意味なのです。
ですから、主治医と相談し、治療が必要であれば継続してください。
この時の治療にかかった費用は、後日、保険会社と交渉することになります。
ただし、過失相殺(被害者側にも過失があった場合、その分を相殺すること)がある場合、治療費が全額認められるわけではありませんので、適切な治療に努めることが大切です。
〇「加害者が自賠責保険に入っていなかった場合どうする?」
万が一、加害者が強制加入であるはずの自賠責保険に加入していない場合、どうすればいいのでしょうか?
そうした場合は、「政府保障事業」という制度を利用するとよいでしょう。
これは、無保険者が事故を起こした場合や、ひき逃げのように加害者がどこの誰か分からない場合に、自賠責保険と同額の補償をしてくれる制度です。
損害賠償金が一切支払われないとすると、被害者にはあまりに酷なので、被害者を救済するために、「自動車損害賠償保障法」において政府保障事業という制度が設けられており、政府からの保障を受けることができるようになっているのです。
〇「加害者が任意保険に入っていなかった場合どうする?」
損害額が自賠責保険の上限額を超える場合、加害者が加入している任意保険から超えた部分の支払いがされます。
しかし、もし加害者が任意保険に加入していなくて、しかも支払う資金がない場合は、どうしたらいいのでしょうか?
このような場合には、被害者自身が加入している自動車の任意保険の「人身傷害補償保険」を使うことになります。
また、「無保険者傷害特約」をつけていれば、これを使うことができます。
これらについては、次に詳しく解説していきます。
「被害者が自分の保険を確認したほうがいい理由」
通常、交通事故の被害にあったときは、加害者側の保険を使うことになります。
しかし、被害者ご自身が契約している自動車保険の中にも使えるものがあります。
加害者側の保険を使った上で、更に自分の保険からもお金が出る場合があるのです。
これを知らない方、もしくは忘れてしまっている方がいます。
せっかく保険料を支払っているのですから、もらえるものはしっかりともらい、交通事故による被害を少しでも回復しなければなりません。
損をしないためにも、ご自身の契約している保険を必ず確認するようにしましょう。
「搭乗者傷害保険」
契約した被保険自動車に搭乗中の人が、その被保険自動車の運行中の自動車事故により死傷した場合に支払われる保険です。
「搭乗中の人」とは、被保険自動車に乗っていたすべての人をいい、運転者に限らず、家族、他人の区別もありません。
相手がいない自損事故の場合も対象になります。
内容としては、死亡保険金、座席ベルト装着者特別保険金、後遺障害保険金、重度後遺障害特別保険金、重度後遺障害介護費用保険金、医療保険金(治療費)などがあります。
搭乗者傷害保険は、自賠責保険や、加害者からの損害賠償金の支払いを受けている場合でも請求することができます。
「人身傷害補償保険」
人身傷害補償保険とは、被保険者が、被保険自動車や他の自動車に搭乗中の自動車事故、または歩行中の自動車事故により傷害を被った場合に、約款で規定された基準に従って算定された損害額が支払われる保険です。
仮に、被害者にも過失がある場合、「過失相殺」によって加害者からは自分の過失割合を差し引いた賠償金しか支払ってもらえません。
しかし、「人身傷害補償特約」があれば、自分の過失割合に対応する分についても、一定限度で支払ってもらえる場合があります。
つまり、被保険者の損害賠償責任の有無や過失の程度を問わず支払いを受けることができる点が最大の特徴です。
この場合、ご自分の任意保険だけでなく、同居のご家族や、独身の場合には実家のご両親の任意保険も確認しましょう。
じつは、自分の任意保険だけでなく、家族などの任意保険からもお金が出る場合があるのです。
また、自宅に複数の自動車があり、それぞれ任意保険をかけている場合には、すべての確認が必要です。
これらの保険を使う場合、保険代理店に確認するだけでは不十分です。
口頭での確認や回答では、間違えている例が過去、実際に何度もありました。
必ず事故当時のパンフレットや保険証券などを確認してください。
「交通事故における人身傷害補償保険とは?」
「弁護士費用特約」
交通事故の損害賠償を請求する際に、弁護士に依頼する場合は、その弁護士費用や裁判費用が一定限度で支払われるものです。
被害者ご本人が保険会社と示談交渉するのと、弁護士が交渉するのとでは損害賠償金額がかなり変わってくることがほとんどなので、弁護士費用特約がある場合は有効に使うべきです。
通常、支払金額は、ひとつの事故で被保険者1名に対し300万円を限度とし、法律相談費用については別途10万円を限度とする契約がほとんどです。
ちなみに、人身事故に限らず、物損の場合も対象になります。
また、支払いを受けるためには、事前に任意保険会社の同意が必要となります。
「無保険者傷害特約」
無保険者傷害特約をつけていれば、加害者が任意保険に入っていななくても、保険金が支払われる可能性があります。
「対物賠償保険」
被保険自動車によって他人の財物に損害を与えてしまい、被保険者が損害賠償責任を負うときに支払われる保険です。
他人の自動車に損害を与えてしまった場合の支払内容は、修理費、買換費用、代車料、評価損、休車損害などです。
建物やガードレール、電柱、街灯などに損害を与えてしまった場合は、復旧費用が支払われます。
また、店舗を壊してしまったりして、営業ができなくなってしまった場合の営業損失なども支払われます。
「車両保険」
被保険自動車に損害が生じたときに支払われる保険です。
対象となるのは、他車との衝突・接触、盗難、落書き、火災・水害等の自然災害、相手がいない自損事故も含まれます。
全損の場合、被保険自動車の事故時の市場販売価格相当額が支払われます。
また、カーナビなどの付属品も対象になります。
このように、交通事故の被害にあった場合には、加害者側の保険の内容ばかりでなく、自分の任意保険についても十分確認することが重要です。
いざというとき、保険会社は親切に教えてくれない場合があります。
保険を正しく活用するためにも、正しい知識は自分で学ぶことも大切です。
それこそが、交通事故被害から自分を守る最良の術です。
ただ実際、交通事故に関する保険は難しく複雑な部分が多くあります。
また、被害に遭われた方や遺族の方は精神的、肉体的につらい状況にあることを考えれば、手続きや交渉は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
また、弁護士に相談するのは気が引ける、不安があるという方は、本サイトでも交通事故に関するあらゆるご相談を受け付けています。
ぜひ、これらを有効に活用していただき、交通事故の不安を解消して安心を手に入れていただきたいと思います。