家の前で遊んでいた5歳の娘が自動車にひかれ亡くなりました。示談交渉で、相手の保険会社は親が監督責任を怠ったとして過失割合について到底納得できないような数字を言ってきました。
私も妻も相手に対しては怒りしかなく、娘をこんな目にあわせた相手とは徹底的に闘うつもりですが、これから遺族である私たちができること、するべきことがあれば教えてほしいのです。
また、裁判になり長引くことも考えれば、やはり専門家である弁護士さんにお願いしたほうがいいのかと悩んでいます。
よきアドバイスをお願いします。
交通事故が発生した場合に、加害者は刑事上の責任と民事上の責任を負うことになります。
ここで、加害者側が過失割合を主張している場合には、事故状況について刑事手続でどのように認定されているかが重要になります。
なぜならば、民事手続における過失割合が問題となる場合、刑事手続の中で作成される実況見分調書、目撃者や加害者の供述調書が極めて重要な意味を有し、民事手続の事実認定においても刑事手続における事実認定と同一になることが少なくないからです。
したがって、加害者の刑事手続において、被害者参加を検討するなどして、遺族側の意見等が適正に検察官や裁判所に伝わるようにすることが重要であり、場合によっては目撃者を見つけることも必要になるかもしれません。
次に民事手続での損害賠償として請求できる項目には、主に以下のものが挙げられます。
①葬儀費
②死亡逸失利益
③慰謝料
④弁護士費用(裁判をした場合)
上記以外でも、即死ではなく、治療の後に死亡した場合は、実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費等を請求することができます。
また、損害賠償を請求するために必要な診断書、診療報酬明細書、交通事故証明書等の取得にかかった文書費等も、損害賠償関係費として請求できます。
では、上述の5歳の女児が死亡した場合の損害賠償額がいくらになるのかを具体的にみていきましょう。
弁護士が依頼を受けて交渉や裁判を行う場合、損害賠償額の算定については、日弁連交通事故相談センターが出している書籍「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(通称「赤い本」と言います)を使用しますが、この赤い本記載の基準を「裁判基準」といいます。
以下の金額は裁判基準によりますが、通常、保険会社が示談の段階で提示してくる金額は裁判基準より低い場合がほとんどですので、注意が必要です。
①葬儀費
原則150万円で、150万円を下回る場合は実際にかかった額となります。
②死亡逸失利益
死亡逸失利益の算定式は下記の通りです。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入とは、交通事故で死亡しなければ将来労働によって得られたであろう収入です。
幼児の場合、将来の収入額は不確定であるため、女性労働者の学歴計の全年齢平均賃金を基礎収入とします。
生活費控除とは、基礎収入から、生きていればかかったはずの生活費分を差し引くことです。
生活費控除率の目安は、被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合は40%、一家の支柱で被扶養者2人以上の場合は30%、女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合30%、男性(独身、幼児等含む)の場合は50%です。
したがって、5歳の女児の場合の生活費控除率は30%とします。
就労可能年数は、原則として67歳までとなります。
ただし、職種、地位、能力等によって、67歳を過ぎても就労することが可能であったと考えられる事情があるような場合には、67歳を超えた分についても認められることがあります。
ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合は将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引くことを「中間利息を控除する」という言い方をします。
6歳の男児の場合のライプニッツ係数についてですが、就労可能年数については、通常18歳から67歳までとするため、5歳の時点で損害賠償金を得るとすると、5歳から18歳までの期間について中間利息を控除する必要があります。
そこで、5歳の女児の場合のライプニッツ係数は、5歳から67歳までの期間のライプニッツ係数から、5歳から18歳までの期間のライプニッツ係数を差し引いた数値を使用します。
したがって、
19.0288(5歳から67歳までの期間のライプニッツ係数)-9.3936(5歳から18歳までの期間のライプニッツ係数)=9.6352
が5歳女児の場合のライプニッツ係数になります。
以上から、5歳女児の死亡逸失利益の計算式は以下のとおりです。
3,547,200円(賃金センサス平成24年女性学歴計全年齢平均賃金)×(1-0.3)×9.6352=23,924,587円
③慰謝料
被害者が一家の支柱の場合2800万円、母親・配偶者の場合2400万円、その他(子供、成人独身者、高齢者等)の場合2000万円~2200万円が相場です。
したがって、5歳の女児の場合として、2200万円を慰謝料とします。
両親など近親者の慰謝料も数百万円認められます。この場合には、本人の慰謝料が少し減額され、慰謝料合計額の調整が図られることになります。
④弁護士費用
弁護士に依頼し裁判により損害賠償を請求した場合、請求認容額の10%程度が弁護士費用として認められます。
この金額は実際に支払う弁護士費用とは無関係です。
上述した請求額は、
1,500,000円(葬儀費)+23,924,587円(死亡逸失利益)+22,000,000円(慰謝料)=47,424,587円
となり、これに、弁護士費用が約1割程度認められることになります。
そして、その総額から過失割合にしたがって、こちら側の過失が控除されることとなりますが、1割違うだけで約500万円の金額が変わることからもわかるとおり、過失割合が適正に認定されることが極めて重要であるといえます。
本件のような高額な損害額となる場合には、保険会社も過失割合等について強く主張してくることも少なくありませんので、交通事故に強い弁護士に相談することも検討すべきでしょう。