骨盤と脊柱、左腕ひじ関節を骨折し、医師の診断では骨盤骨変形と脊柱の運動障害が残るだろうと言われています。
後遺症等級はまだ決定していません。
ご相談したいのは、交通事故での逸失利益についてです。
私は現在、43歳の公務員ですが、公務員の場合、職場復帰しても減収がないので、逸失利益が認められないという話を聞きました。
本当でしょうか?
また、今後実務をしていく上での不利益がないか心配しています。
公務員の場合、民間企業の従業員と比較して、勤務先が安定しており、身分保障が手厚いため、定年までは従前どおりの雇用条件が維持される可能性が高く、逸失利益が争われる傾向にあります。
しかしながら、他方で昨今の公務員改革では、能力主義・成果主義の適用範囲が拡大してきているため、公務員であれば安泰だという考えは必ずしも妥当とはいえないとも思います。
実際、裁判例でも、公務員を含む、事故後も減収が認められないケースにおいて、①昇進・昇給等における不利益、②業務への支障、③退職・転職の可能性、④勤務先の規模・存族可能性、⑤本人の努力、⑥勤務先の配慮、⑦生活上の支障等具体的な要素を加味した上で逸失利益の肯否を認定しております。
そこで、上記考慮要素について、もう少し詳細に解説致します。
①昇進・昇給等における不利益
事故後昇進・昇給等の遅れが生じていること、事故により昇進試験を受験できなかったこと、勤務先が将来の幹部候補生と考えていたが、事故による後遺障害のためその可能性がなくなったこと等、昇進・昇給等における不利益は経済的不利益の発生を強く推認させる事情であるため、このような事情があれば、逸失利益は肯定される方向に傾きます。
もっとも、将来の昇進・昇給等における不利益については、将来予測という事柄の性質上、証拠から直接認定することが困難であり、後遺障害の部位・内容・程度やこれにより業務に支障が生じている事実から推認することが多いです。
②業務への支障
裁判例では、逸失利益を肯定する要素として、家庭科の教師が視力低下、視野欠損のため授業の際のミシンの糸通し、縫い目の検査等に拡大拡大鏡が必要となったこと等、後遺障害の部位・内容・程度と被害者の業務の具体的内容との対応関係を踏まえ、後遺障害による支障を業務の内容に応じて具体的に指摘されています。
また、後遺障害により従前の業務に支障が生じたため、配置転換を余儀なくされたことを指摘するものもあります。
仮に配置転換が直接的に減収につながらないとしても、後遺障害により従前の業務に支障が生じて継続することができず配置転換を余儀なくされた場合には、本人の経験・実績・意欲を十分に発揮できる業務に従事できなくなる結果、本来得られたはずの収入を得られない可能性が高まるということができます。
③退職・転職の可能性
後遺障害により勤務継続が困難になり、退職すると収入が途絶えますので、当然に減収が発生することになります。
また、後遺障害を有する者は、その部位・内容・程度にもよるものの、再就職の際に不利にとなり、再就職ができたとしても健常者よりも雇用条件が劣る可能性が考えられます。
したがって、現在の勤務先での勤務継続が不確実で被害者に退職・転職の可能性があることは、将来の減収の発生を推認させ、逸失利益を肯定する要素となります。
④勤務先の規模・存族可能性
勤務先の規模、業績、雇用環境や勤務先を取り巻く状況等も、勤務継続の不確実性という観点から逸失利益の肯否を検討する要素となります。
この点、公務員の場合、冒頭で述べたように、民間企業の従業員と比較して、勤務先が安定しているため、逸失利益を否定し又は減少させる要素になりうるというといえるでしょう。
⑤本人の努力
逸失利益を肯定し又は増加させる事情として、本人の努力が指摘されることもあります。
例えば、痛み等の症状に耐えながら勤務を継続していること、症状を軽減させ、あるいは悪化を防ぐための努力をしていること、業務上のハンディキャップをカバーするための努力をしていること、さらには、職種を変更し、あるいは努力して事故前より業務自体をレベルアップさせていること等の場合には、たとえ減収がなかったとしても、逸失利益を肯定する裁判例があります。
⑥勤務先の配慮
事故後も減収がないのが、勤務先の配慮や温情によるものであることもあり、このような場合には、逸失利益を肯定する要素として指摘されます。
これは、勤務先の経営状況等によっては、そのような配慮や温情が継続する保証がなく、その場合には、減収が具体化・現実化することになるからです。
なお、公務員の場合には、被害者の生活保障について、勤務先の配慮や温情といった恩恵的・裁量的な救済ではなく、制度的救済が確立していることがあり、このような制度により減収がない場合には、逸失利益を肯定する要素として指摘されることがあります。
⑦生活上の支障
人の労働は、勤務時間や勤務場所の範囲内のみで行われるものではなく、通院はもちろんのこと、休養や余暇というそれ自体は私生活の領域に属する労働力の再生産糧があって初めて可能になると考えることもできます。
したがって、後遺障害による生活上の支障が間接的にであれ労働に影響を及ぼすなどして経済的不利益を生じさせる場合には、これを逸失利益の肯定し又は増加させる事情として考慮することも許される場合があります。
以上のように、公務員だからといって、必ずしも逸失利益が認められないわけではなく、上記考慮要素に該当する事情が認められれば、逸失利益が認められる可能性もあります。