遺留分を請求されたら、こう対処する!|弁護士による相続SOS
目次
この記事を読むと、次のことがわかります。
ある日突然、内容証明郵便で、「遺留分減殺請求」あるいは「遺留分侵害額請求」をされる場合があります。
初めての経験で、どうしたらよいかわからないでしょう。
遺留分を請求されたら、被相続人からもらって自分の財産だと思っていたものを取り戻されてしまう可能性がある、ということです。
そこで、この記事では、遺留分を請求されたら、どう対処したらいいのかについて、弁護士が専門的見地から、包括的かつ網羅的に説明していきます。
この記事を読むと、次のことがわかります。
☑遺留分とは何か
☑遺留分を請求されたら、どうなるのか
☑遺留分の計算方法
☑遺留分を放棄させる方法
☑遺留分を請求された時の対処法
☑遺留分紛争で弁護士は何をしてくれるのか
ぜひ、最後まで読んでください。
遺留分とは何か
遺留分の請求が来た場合の対処法を考えるには、まず、遺留分について理解しておかなければなりません。
遺留分については、法的に複雑であり、理解が難しい面があります。
そこで、まずは遺留分制度について説明をしておきたいと思います。
自分の財産をどうするかは、本来、自分で決めることができます。
生前に売却するのも自由ですし、誰かに贈与することも自由です。
死ぬまで持っていて、遺言で誰かに遺贈することもできます。
遺言で、相続人に対して遺産分割方法を指定することもできます。
しかし、それには、一定の制限がかけられています。
被相続人が唯一の財産である自宅の土地建物を配偶者に遺贈したような場合、他の相続人は、その土地建物の一定割合を取り戻して自分の財産にすることができる、という制度があります。
これが遺留分です。
相続人の生活保障等のために、被相続人の財産処分が一部制限されるのです。
この記事を読んでいるあなたも、被相続人から生前贈与を受け、あるいは遺言により財産を取得したことと思います。
しかし、遺留分を請求されたら、その請求が正当なものである場合には、取得した財産の一定割合を返さないといけなくなる、とういうことです。
しかし、遺留分の請求が来た場合の全てにおいて、そうなるわけではありません。
拒否することができる場合もあります。
どのような場合でしょうか?
最後まで読んでいただければと思います。
【参考記事】
遺留分とは、どのようなものか?
遺留分権利者でなければ拒否できる
遺留分の請求は、内容証明郵便で来るのが通常です。
遺留分の請求をされたら、まずは、誰から請求が来たのかを確認します。
もし、請求してきた人が兄弟姉妹だった場合には、遺留分の請求を拒否することができます。
なぜなら、遺留分の権利は、兄弟姉妹にはないからです。
したがって、被相続人が、自分の財産を兄弟姉妹に渡したくない、という場合には、遺言を作成して、兄弟姉妹以外の人に遺贈し、あるいは相続させればよい、ということになります。
弁護士が代理人としてついていれば、そのような間違った請求は来ませんが、兄弟姉妹が自分で勘違いして送ってくる可能性もあります。
中には、自分が相続できると思い込んでいる人もいます。
次に遺留分の権利は譲渡することができます。
遺留分権利者が、遺留分を請求する権利を譲渡していれば、元の権利者は、請求することができません。
次に、遺留分の権利は、生前に放棄することができます。
ただし、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。
被相続人が生前に多くの財産を贈与したなどの理由により、相続に関しては何も要らない、という趣旨で家庭裁判所に遺留分放棄の許可申立などをすることがあります。
遺留分放棄の許可を受けていれば、遺留分を放棄したわけですから、遺留分を請求することはできなくなります。
遺留分放棄の許可審判件数は、次のとおりとなっています。
平成27年度 1,176件
平成28年度 1,180件
平成29年度 1,015件
平成30年度 950件
【出典】裁判所司法統計による検索
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search
遺留分放棄は、被相続人の住所地の家庭裁判所に対して申し立てます。
管轄裁判所は、こちらで調べられます。
【出典】裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/index.html
必要書類や書式の記載例については、以下のページを参考にしてください。
【出典】裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_26/index.html
次に、相続放棄をした場合も、遺留分を請求することができません。
相続放棄は、相続開始を知った日の翌日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立をします。
相続放棄をすると、当初より相続人ではなかったことになります。
したがって、相続人の権利として認められる遺留分の権利も発生しない、ということになります。
次に、遺留分は、いつまででも権利を行使できるわけではなく、一定期間行使しないと、権利が消滅してしまいます。
具体的には、次の期間が経過すると、遺留分を請求する権利が消滅します。
①遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間
②遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても、相続開始の時から10年
以上のように、遺留分の権利者でなかったり、遺留分が消滅していたりしている場合には、遺留分の請求をされたとしても、拒否することができます。
遺留分の計算は、どうするか?
遺留分の権利を持っている人から、期間内に請求が来た場合には、対応しなければならなくなります。
しかし、遺留分を侵害していなければ、対応の必要はありません。
では、遺留分の計算は、どのようにするのでしょうか?
まず、遺留分の基礎となる財産の計算についてです。
次のように計算します。
遺留分の基礎となる財産=相続開始時の積極財産+贈与-債務
相続開始時の財産が含まれるのは当然ですが、それに生前贈与された財産が加算されます。
この贈与については、相続法改正によって、どこまでの財産が含まれるか、が異なっています。
相続法改正により、2019年7月1日以降に開始される相続は、次のようになります。
(1)まずは、相続人に対する特別受益としての贈与の場合です。
①特別受益に該当する贈与であり、
かつ、
②相続開始前10年間にされたものに限り、
その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入します。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、10年より前にされたものであっても、遺留分算定のための財産の価額に算入することとなります。
(2)次に、相続人以外の者に対する生前贈与の場合です。
相続開始前の1年間にされたものに限り、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入します。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、1年より前にされたものであっても、遺留分算定のための財産の価額に算入することとなります。
以上が、遺留分を請求された場合の遺留分計算の基礎となる財産の計算方法です。
次に、遺留分を請求してきた人が、どの程度の割合の遺留分割合を持っているか、を計算します。
遺留分の割合は、次のようになっています。
①直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の相続財産の3分の1
②その他の場合 被相続人の相続財産の2分の1
同じ立場の人が何人もいる場合は按分計算します。
たとえば、相続人が長男、次男の場合、被相続人が長男に全ての財産を遺贈したとします。
その場合、次男は遺留分を請求できるわけですが、遺留分の割合は被相続財産の2分の1で、長男と次男で按分するので、2分の1に対する2分の1、ということになりますので、弟の遺留分割合は、4分の1、ということになります。
その上で、遺留分権利者が得た財産などを差し引く必要がありますので、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、遺留分の計算は、次のようになります。
遺留分算定の基礎財産×(総体的遺留分率×遺留分権利者の法定相続分の割合)-当該遺留分権利者の特別受益額-遺留分権利者が相続によって得た財産の額+遺留分権利者が負担すべき相続債務の額=遺留分侵害額
遺留分を請求された時の対処法
上記のように計算して、遺留分権利者に請求すべきものがある、ということになれば、遺留分の請求をされたら、対応をしなければなりません。
では、どのように対処したら、良いでしょうか?
(1)遺留分の基礎財産を評価する
まず、計算の基礎となる遺留分の基礎財産を評価します。
金銭や預金だけであれば評価は必要ありませんが、不動産や動産などの場合には、その財産の価値が問題になります。
遺留分問題を解決する際に、遺留分権利者に金銭を支払うことで解決するのであれば、評価が高ければ支払い金額が多くなって遺留分権利者に有利になり、評価が低ければ、支払う金額が少なくなってあなたに有利になるのです。
そこで、いかに遺留分の基礎財産の評価を低くするか、ということになります。
(2)遺留分権利者への特別受益を探す
次に、遺留分の計算では、遺留分権利者に対する特別受益があれば、それを差し引くことになりますので、特別受益がないかどうか、過去に遡って調査することになります。
特別受益というのは、被相続人から共同相続人に対して、①遺贈され、または②婚姻や養子縁組のために贈与され、もしくは③生計の資本として贈与された財産のことです(民法第903条1項)。
過去に被相続人から遺留分権利者に対してまとまったお金や不動産などが贈与されていないかどうか、調べましょう。
【参考記事】
特別受益とは?
(3)支払期限の許与を申し立てる
相続法改正前は、「遺留分減殺請求権」といって、遺留分減殺請求権を行使すると、たとえば、不動産の場合には、当然に共有状態になってしまう、というようなことがありました。
その結果、不動産の共有状態を解消するには、更に「共有物分割訴訟」等で解決をしなければならない、ということになっていました。
しかし相続法改正により、2019年7月1日以降に開始する相続では、「遺留分侵害額請求権」となり、金銭請求のみが可能となりました。
しかし、遺産が不動産の割合が大きかったりすると、即時に金銭の支払いができない場合もあります。
そこで、裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、遺留分侵害額請求権の行使により負担する債務の全部または一部の支払について、相当の期限を付与することができることとされました。
遺留分を請求されたら、弁護士は何をしてくれるのか
遺留分を請求されたら、紛争状態に突入するので、素人ではなかなか解決は難しくなります。
弁護士に依頼して解決をすることが必要な場合が多いでしょう。
では、遺留分を請求された場合に、弁護士は何をしてくれるのでしょうか。
【参考記事】
遺留分を弁護士に相談する7つのメリットと2つの注意点
(1)法的に正しい助言をくれる
遺留分の紛争は、法律紛争です。
そして、弁護士は、法律の専門家です。
したがって、弁護士に遺留分問題を相談すると、法的に適切な助言をしてくれます。
本やインターネットを読んだだけでは、誤解もありますし、間違った知識で対応してしまうと、損をしてしまう場合もあります。
特に、不動産などがある場合には、その評価額が争いになる場合が多くあります。
評価を間違ってしまうと、大きく損をする可能性もあります。
遺留分を請求されたら、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
(2)代理人として、交渉・裁判を担当してくれる
遺留分を請求された場合に、弁護士に依頼をすると、本人に代わって、相手方と交渉してくれます。
また、裁判になった際にも、本人に代わって裁判所に出廷し、書面を作成し、適切な主張をしてくれます。
あなたの負担は大きく減ることになるでしょう。
(3)あなたに有利に解決してくれる
弁護士は、依頼者の味方です。
双方を公平に解決しようとするのではなく、できる限り依頼者に有利に事件を解決しようとします。
そのために、法律知識と、それまでの経験をフル動員します。
一人で悩んでいるよりも、経験豊富な弁護士の知識を味方につけることをおすすめします。
このように、遺留分を請求された場合に、弁護士は、
(1)法的に正しい助言をしてくれる。
(2)代理人として、交渉・裁判を担当してくれる。
(3)あなたに有利に解決してくれる。
など、メリットがありますので、一度弁護士に相談してみましょう。