相続人がいない時は、どうなるか?
相続財産管理制度
遺言書がなく、相続人がいるかどうかも明らかでない場合には、どうしたらよいでしょうか。
まず、戸籍を調査して、相続人がいることは判明したけれども、相続人がどこにいるかわからない場合には、不在者財産管理制度(民法第25条以下)の問題となるか、あるいは失踪宣告(同法第30条以下)の問題となります。
そうではなく、相続人がいるかどうか明らかでない場合には、相続財産管理制度(民法第952条以下)の問題となります。
ここで、相続人がいるかどうか明らかでない場合とは、戸籍上の相続人がいない場合、戸籍上の相続人がいても、その全員が相続放棄をした場合、相続欠格や相続人廃除によって相続資格を失った場合をいいます。
相続財産全部の包括受遺者がいる場合には、相続人がいなくても、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有しますので、相続財産管理制度は適用がありません。
このような場合には、まず、相続財産は、「法人」となります(民法第951条)。
この法人を「相続財産法人」といいます。
そして、相続財産法人についての利害関係人(相続債権者、受遺者、特別縁故者予定者、相続債務者)または検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します(民法第952条)。
相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人は、相続財産管理人の代理人として、委任の規定に従い、財産の管理・清算を行います。
相続財産管理人とは?
家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、公告してから2ヵ月以内に相続人の存在が明らかにならない場合は、相続財産管理人は全ての相続債権者および受遺者に対して、2ヵ月以上の期間を定めて債権を申し出るよう公告を行います(民法第957条1項)。
債権申出期間が満了した後、相続財産管理人は、次の順序で弁済や配当を行います(同条2項)。
①優先権を有する債権者
②申出をし、または知れている債権者
③申出をし、または知れている受遺者
④期間内に申出がなく、または知れなかった相続債権者および受遺者
申出期間が満了をしても相続人の存在が明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産管理人または検察官の請求により、6ヵ月以上の期間を定めて、相続人があるならば、その期間内に権利を主張すべき旨の公告を行います(民法第958条)。
この期間内に相続人の出現がなく、または出現しても相続を承認しないときは、相続人の不存在が確認します。
相続人不存在の確定により、相続人の相続権は失権し、あわせてそれまでに相続財産管理人に知れなかった相続債権者および受遺者も権利も失権します(同条の2)。
相続人の失権前に、相続人が現れて相続を承認した場合には、相続財産は、相続開始時から相続人に帰属していたことになり、相続財産法人は相続開始時に遡って消滅します(民法第955条)。
ただし、この間に相続財産管理人が行った権限内の行為は有効となります(同条但し書き)。
相続財産法人の清算
相続人捜索の公告期間の満了後3ヵ月以内に、特別縁故者から請求があったときは、家庭裁判所は、相当と認めるときは、特別縁故者に対し、相続財産の全部または一部を分与することができます(民法第958条の3)。
「特別縁故者」というのは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者です(同条)。
長年苦楽をともにした事実上の養子や養親、療養看護をしつつも経済的には別個独立の生活していた他人などが認められることになります。
特別縁故者からの分与の手続が終了後(認められたときと認められなかったときを含む)、なお残余財産がある場合には、国庫に帰属します(民法第959条)。
これにより、相続財産法人は消滅し、相続財産管理人の代理権も消滅します。
特別縁故者の税務関係
特別縁故者は、分与審判が確定すると相続財産を取得しますが、これは相続による取得ではなく、相続財産法人からの贈与となります。
相続税法は、分与の審判が確定したときの財産の時価に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなされ(相続税法第4条)、相続税が課税されることになります。
申告期限は、分与の審判があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内とされています(相続税法第29条1項)。