• お問い合わせはこちらから
メニュー

遺留分とは、どのようなものか?

最終更新日 2019年 06月28日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

※遺留分減殺請求権は、2019年7月1日以降に開始された相続では、「遺留分侵害額請求権」とされます。

遺留分とは

民法には遺留分制度があります。

遺留分制度とは、本来、被相続人は自分の財産を自由に処分できるはずのものであるところ、相続財産の一定割合について、一定の法定相続人に保障するための制度です。

そのために、被相続人は相続財産について、一定の制限がされています。

この遺留分制度は、遺族の生活保障と遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の精算などの意義を有しています。

そこで、遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護の調整を図る制度といわれています。

ただし、遺留分制度が効果を発揮するのは、遺留分の権利を有する相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合に限られ、相続人がその権利を行使しないときは、遺留分制度はその効力を生ずることはありません。

この点について、最高裁平成13年11月22被判決(民集55巻6号1033頁)は、「遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景として相続人の諸利益との調整を図るものである。

民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる」と判示しています。

遺留分は、全ての相続人に権利があるわけではありません。

兄弟姉妹を除く法定相続人である、配偶者、子、直系尊属に遺留分があります(民法第1028条)。

また、子の代襲相続人(再代襲を含む)にも遺留分があります(民法第1044条)。

胎児も生きて生まれたときは、遺留分を有します。

兄弟姉妹には遺留分がありませんので、兄弟姉妹に相続財産を残したくない場合には、遺言により、全ての財産を兄弟姉妹以外の者に与えることになります。

相続権を失うと、遺留分も失います。

したがって、欠格・廃除・相続放棄などがあると、遺留分を失うことになります。

遺留分制度では、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使することにより、その効果を生じます。

それまでは効果を生じません。

相続開始前に遺留分権利者が遺留分権を放棄するには、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法第1043条1項)。

家庭裁判所の許可が必要としたのは、被相続人の威圧などにより、遺留分放棄がされるのを防止するためです。

一旦、遺留分放棄の許可審判がされても、許可の前提となった事情が変化したような場合には、放棄許可審判を取り消すことができることとされています(家事審判法第78条1項)。

遺留分放棄は、相続放棄とは異なるので、遺留分放棄をしても、遺産分割により財産を取得することができます。

また、遺留分放棄をしても、他の共同相続人の遺留分が増加するわけではありません。

遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求)の行使方法

被相続人が贈与・遺贈などをした結果、遺留分に満たない遺産しか得ることができない遺留分権利者は、遺贈や贈与などの減殺を請求することができます(民法第1031条)。

遺留分減殺請求権が行使されるまでは、被相続人による贈与や遺贈などは有効であり、減殺請求権が行使されることによって、それらの効力が失われることになります。

遺留分侵害額請求権の場合には、遺留分に応じた金銭の支払いを請求する権利とされています。

遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)は、遺留分権利者、遺留分権利者が死亡した時の相続人、包括受遺者、相続分の譲受人、遺留分権利者から減殺請求権を譲り受けた者などです。

民法第423条には、債務者が無資力の場合に、債権者が債務者の権利を代わって行使することができるという「債権者代位権」が定められていますが、最高裁は、遺留分減殺請求権を行使上の一身専属権であるとして、債権者代位権の行使を否定しています(最高裁平成13年11月22日、民集55巻6号1033頁)。

遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)は、遺贈や贈与を受けた者に対して、内容証明郵便などを送付することによって行使します。

遺贈や贈与などを受けた者が死亡していたときは、その相続人に対して行使します。

被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合に、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申し入れをした、という事案において、最高裁平成10年6月11日判決(民集52巻4号1034頁)は、「特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解すべき」と判示しました。

遺贈や贈与を受けた者が、その目的物を第三者に譲渡していた場合には、価格弁償による減殺請求をすることになります(民法第1040条1項)。

この場合、第三者が遺留分侵害について悪意があった場合には、悪意の第三者に対しても遺留分減殺請求権を行使することができます(同条2項)。

遺留分減殺の順序

遺贈と贈与がある場合には、遺贈をまず減殺し、遺贈を全部減殺しても足りないときに贈与を減殺することになります(民法第1033条)。

では、死因贈与があったときは、どの順序で減殺されるのでしょうか。

この点、東京高裁平成12年3月8日判決(民法百選Ⅲ97)は、「死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するという点では贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法1033条及び1035条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与よりも先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である」と判示しています。

この判例よると、減殺の順序は、遺贈→死因贈与→生前贈与、ということになります。

次に、複数の遺贈がある場合には、遺贈者に特段の意思表示がない限り、遺贈の目的物全体についてそれぞれの価額の割合に応じて減殺することになります(民法第1034条)。

これに対し、複数の生前贈与がある場合には、相続開始時に近い贈与から減殺し、順次前の贈与への減殺していくことになります。

遺贈と贈与がある場合 まず遺贈を減殺し、足りないときに贈与を減殺する。

複数の遺贈がある場合 遺贈者の特段の意思表示がなければ、価額の割合に応じて減殺する。

複数の贈与がある場合 相続開始時に近い贈与から順番に減殺する。

死因贈与がある場合 法律の規定はないが、東京高裁平成12年3月8日判決は、遺贈→死因贈与→生前贈与の順番で減殺するとした。

遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)の効力

遺留分減殺請求権の行使がどのような効果を持つかに関し、最高裁昭和57年3月4日判決(民集36巻3号241頁)は、「遺留分減殺請求権は形成権であって、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属する」としています。

この結果、特定物が遺贈や贈与などされたとき時に遺留分減殺請求権が行使された場合には、遺贈や贈与などの全部が減殺されたときは遺留分請求権者の単独所有となり、一部が減殺されたときは受遺者ないし受贈者との共有となります。

この共有は、遺産共有ではなく、物件法の共有なので、共有状態を解消するには、遺産分割の手続ではなく、共有物分割の手続をとることになります。

特定物の遺贈や贈与などの全部が減殺されて遺留分権利者の単独所有となった場合には、相手方が、目的物の現物を返還する義務を負いますが、これに代えて、価額による弁償をすることによって現物返還義務を免れることができます(民法第1041条)。

また、一部減殺により共有状態になった場合にも、価額弁償によって共有状態を解消できると解されています。

価額弁償をする際の「価額」は、どの時点で算定するのか、について、最高裁昭和51年8月30日判決(民法百選Ⅲ94)は、「価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結時の時である」としています。

また、複数の特定物の贈与または遺贈が減殺されたときには、「受贈者又は受遺者は、民法1041条1項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである」(最高裁平成12年7月11日判決、民法百選Ⅲ98)とされています。

したがって、受贈者または受遺者は、特定物ごとに現物返還するか、価額弁償するかを選択することができることになります。

なお、価額弁償によって現物返還義務を免れるのは、単に価額弁償に意思表示をするだけでは足りず、「遺留分権利者に対し価額の弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければ」ならないとされています(最高裁昭和54年7月10日判決、民集33巻5号562頁)。

包括遺贈の場合には、特定物の遺贈または贈与の場合と異ならず、個々の財産について物権法上の共有状態になるとされています。

しかし、このように遺留分減殺請求権の行使により共有状態が生ずるとなると、その後の共有状態の解消のために、新たな紛争が生ずる可能性もあります。

遺留分制度が、遺族の生活保障と遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の精算などの意義を持つことから考えると、遺留分減殺請求権に物権的効果を発生させる必要はなく、価額賠償で十分ではないか、という意見がありました。

そこで、2019年7月1日以降に開始される相続については、遺留分減殺請求権の物権的効果を否定し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる「遺留分侵害額請求権」という制度に改めました。

この結果、遺留分権を行使することにより、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができることとされました。

しかし、すぐに支払えない場合もありますので、裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、遺留分侵害額請求権の行使により負担する債務の全部または一部の支払について、相当の期限を付与することができることとされています。

弁護士が経営者を全力でサポート!!
ご相談フォーム

出版物のご紹介