交通死亡事故で、慰謝料を請求できるのは誰?
大切なご家族を交通事故で亡くしてしまう場合があります。
そのような場合、ご家族としては、深い悲しみの海に沈むわけですが、同時に、法律上の問題が発生してきます。
加害者の刑事処分の問題と加害者に対する損害賠償の問題です。
ここでは、大切なご家族を交通死亡事故で亡くしてしまった場合の法律問題について説明していきます。
目次
交通死亡事故の刑事事件について
交通死亡事故が起こった場合、加害者の刑事処分の問題と加害者に対する損害賠償の問題が発生します。
まず、加害者の刑事事件について説明します。
交通死亡事故が発生した場合には、刑事事件の問題が発生します。
自動車で人をひいて、死亡させた場合には、過失運転致死罪が成立します。
酒に酔っていたような場合は、危険運転致死罪です。
死亡事故という重大な結果が生じていますので、加害者が逮捕されるケースもあります。
警察は、事故の状況などを捜査したうえ、事件を検察庁に送致します。
そして、検察庁が起訴・不起訴を判断し、起訴した場合には、公判手続が始まることになります。
刑事事件は、国家が加害者に対して、どのような刑罰を科すか、という問題であり、国家と加害者が当事者です。
被害者は、直接の当事者ではありませんので、刑事事件に深く関与することはできません。
しかし、被害者の遺族が、加害者に対してどのような処罰を望むか、という「処罰感情」は、警察や検察庁での供述調書に記載され、裁判でも参考にされます。
また、被害者の遺族は、裁判所の許可を得て、刑事裁判に参加することができます。
「被害者参加制度」というものです。
被害者参加する場合には、被告人に直接質問したり、被害者遺族として意見を陳述したりすることもできます。
具体的な方法については、弁護士に相談しながら参加していった方がよいでしょう。
また、刑事事件との関わりで重要なことに、示談交渉のタイミングがあります。
刑事事件が続いている最中に、慰謝料の示談を成立させてしまうと、「慰謝料の支払いにより、遺族の被害感情がある程度慰藉された」として、加害者の刑事処分が軽くなる可能性があるのです。
そのため、私たちは、ご遺族の処罰感情が強い場合には、刑事事件中は示談交渉を拒否し、刑事事件が終了した後で示談交渉を開始するようにしています。
交通死亡事故の慰謝料は誰が請求できるか?
交通事故の被害者が死亡した場合、加害者に慰謝料など損害賠償請求をすることができます。
この場合、損害賠償請求権を取得するのは、被害者本人です。
しかし、被害者は死亡して、実際に請求することができません。
この場合には、被害者が死亡の直前に「死亡による損害賠償請求権を取得し、死亡によって、損害賠償請求権が相続される」と理解されています。
そこで、交通死亡事故において、加害者に対して、損害賠償請求できるのは被害者の相続人ということになります。
では、交通死亡事故の場合、誰が相続人になるのでしょうか。
相続人に配偶者(夫、妻)と親、兄弟姉妹、子がいる場合、まずは、配偶者がいる場合は、配偶者は常に相続人になり、他の相続人と共に損害賠償請求権を相続することになります。
配偶者以外の相続人の場合には、どの順番で相続するか、順位が決まっています。
第一順位の相続人は子です。
子がすでに死亡しており、子の子供(被害者の孫)がいれば、「代襲相続」が発生しますので、孫が第一順位で相続人になります。
つまり、子や孫がいれば被害者の配偶者は一緒に相続人になることになり、それ以外の親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
この場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1です。
子が2人いる場合は、4分の1ずつです。
第二順位の相続人は親(父や母)です。
ただし、子がいない場合です。
子がいない場合には、親が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になりません。
この場合でも、被害者の配偶者は、親と一緒に相続人になります。
この場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、親が3分の1です。
親が2人いる場合は、6分の1ずつです。
第三順位は兄弟姉妹です。
子も親もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
子や親がいる場合には、兄弟姉妹は相続人にはなりません。
兄弟姉妹がその時点で死亡している場合には、兄弟姉妹の子が同順位で相続人になります。
被害者の配偶者は一緒に相続人になります。
この場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
このような相続による損害賠償請求権の承継の他、近親者は、相続とは別に、固有の慰謝料請求ができる場合があります。
⇒家族が交通事故に遭った場合に遺族がすべきこと、してはいけないこと
交通死亡事故における過失相殺について
交通死亡事故では、被害者が死亡しており、被害者本人の供述を得ることができません。
ということは、事故の状況についての供述としては、加害者と目撃者のものしかないことになります。
加害者としては、当然、自分の罪を軽くするために、事故の状況としても、自分に有利に供述する傾向にあります。
したがって、死亡事故の裁判では、過失割合について激しく争われることもあります。
過失相殺とは、交通事故において被害者側に過失がある場合、過失割合に基づいて損害賠償額を減額することです。
たとえば、損害賠償額が1億円であるとして、被害者の過失が10%だとすると、1000万円が減額され、遺族には9000万円が支払われることになります。
死亡事故では、損害賠償額が高額賠償となりますので、過失割合は、とても重要な要素となってくるのです。
そこで、目撃者がいないような場合には、警察が立て看板を立てて目撃者を探すようなことをします。
また、近時では、防犯カメラ映像が有力な証拠となったり、ドライブレコーダーが証拠となることもありますので、遺族としても、それらの点を確認しておくことも必要となってきます。
交通死亡事故の慰謝料額の計算方法とは
では、交通死亡事故の場合、遺族は、加害者に対し、いくら損害賠償を請求できるのでしょか。
死亡事故の場合に被害者の遺族が保険会社に請求できる主な項目は、大きく分けると以下の通りです。
葬儀関係費
逸失利益
慰謝料
弁護士費用(裁判をした場合)
上記以外でも、即死ではなく、治療の後に死亡した場合は、実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費等を請求することができます。
葬儀関係費
葬儀関係費は、自賠責保険では定額で60万円です。
任意保険会社が示談金として提示してくる場合は、120万円以内が大半です。
裁判を起こした時に認められる葬儀関係費の相場は、150万円以内が原則です。
墓石建立費や仏壇購入費、永代供養料などは、個別で判断されることになります。
逸失利益
被害者は、事故がなくて生きていれば、将来的に働いて収入を得るはずです。
その収入を死亡事故により得られなくなるわけですから、それが損害となります。
これが「逸失利益」です。
交通死亡事故の場合には、その時点で100%所得がなくなるので、労働能力を100%失うことになります。
そこで、「労働能力喪失率」は100%です。
また、生きていれば生活費にお金がかかるはずなので、生活費としてかかるであろう割合を差し引くことになります。
これを「生活費控除」といいます。
以上を前提として、死亡事故の場合の逸失利益の計算式を記載すると、以下のようになります。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
※基礎収入は前年の年収です。
※ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合は将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
※生活費控除率の目安は以下の通りです。
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 40%
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 30%
女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 30%
男性(独身、幼児等含む)の場合 50%
死亡慰謝料
死亡事故によって、被害者は瞬間的に多大の苦痛を味わいます。
その精神的苦痛に対する損害賠償金が「死亡慰謝料」です。
死亡慰謝料については、過去の判例の積み重ねにより、相場があります。
交通死亡事故の慰謝料のおおよその基準は、次の通りです。
交通死亡事故では、被害者の慰謝料と近親者の慰謝料があります。
裁判を起こしたときは、原則として、以下の基準に従って判決が出されます。
交通死亡事故の場合の慰謝料は、被害者の家庭における立場によって異なります。
被害者が一家の支柱の場合 2800万円
被害者が母親・配偶者の場合 2500万円
被害者がその他の場合 2000万~2500万円
しかし、上記はあくまでも慰謝料の基準です。
実際には、色々な事情があり、加害者が飲酒していたり、赤信号無視があったりといった悪質な事情があると、慰謝料が相場より増額されることもあります。
慰謝料増額は、被害者側から主張しないと、裁判所は認めてくれませんので、弁護士に相談し、慰謝料増額事由がある場合には、積極的に主張していくことをおすすめします。
遺族が交渉して適正な金額を勝ち取れるか
死亡事故の示談交渉は、初めから弁護士に依頼する人も多くいますが、自分で交渉しよう、という人も中にはいるでしょう。
しかし、保険会社は、なかなか適正な金額を提示してはくれません。
遺族が頑張って調べて、「判例はこうなっているはずだ」と主張しても、保険会社の担当者は、「その事例は本件とは異なります。
当社で出せるのはこの金額です」と言って、なかなか譲歩してくれないものです。
それもそのはず。
被害者の言いなりに賠償金を支払っていると、保険会社の利益がどんどん減ってしまうからです。
保険会社は、賠償金の支払を抑えれば抑えるほど、利益が増える構造になっているのです。
保険金の払い渋りも、その構造が原因だといえるでしょう。
しかし、弁護士が被害者の代理人として出てきたときは、別です。
なぜなら、弁護士相手の場合、適正な金額を提示しないと裁判を起こされ、
(1)適正な金額を払わざるを得なくなり
(2)自分の方も余計な弁護士費用がかかり
(3)裁判になる
と、後で説明するような、損害賠償以上の支払が発生してしまうためです。
そのために、弁護士が代理人として登場すると、保険会社はある程度譲歩して示談をまとめようとするのです。
場合によっては裁判も
交通死亡事故で示談交渉しても、保険会社が適正な金額を提示してくれない場合あります。
そのような場合には、どうしたらよいでしょうか。
法治国家である以上、最後は裁判で決着をつけることになるでしょう。
裁判というと、あまり気が進まない、という人もいるかと思います。
しかし、交通事故の裁判は、それほど大変な負担はなく、かつ、メリットもあります。
まず、被害者の遺族が裁判所に足を運ばないといけないことは、ほとんどありません。
弁護士が代行してくれるからです。
また、交通事故で裁判を起こし判決までいった場合、判決では損害賠償額の他に、その損害賠償額の約10%程度を、交通事故と相当因果関係のある損害として、「弁護士費用相当額」として上乗せします。
したがって、裁判を起こすことによって、本来自分で負担しなければならない弁護士報酬を一部加害者に負担させることができる、ということを知っておきましょう。
裁判を起こさずに、加害者側の保険会社に、「弁護士費用を負担しろ」と言っても、まず難しいでしょう。
裁判を起こすメリットです。
また、死亡事故の場合には、事故の日から、賠償金に対し、遅延損害金が付加されます。
このように、裁判にはメリットもありますので、場合によっては、思い切って裁判を起こしていくことも検討した方がよいでしょう。
交通事故の裁判では、治療費や慰謝料、逸失利益など、各損害項目の合計で賠償金が計算されますので、各損害項目を漏れなく主張することが大切です。
したがって、交通事故で裁判を起こすときは、できる限り、交通事故に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。