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遺産の分配割合・分配方法を判断するための知識

最終更新日 2023年 06月26日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

遺産の分配割合・分配方法を判断するための知識

相続が開始されたら、遺産分配のため遺言書捜索や調査を実施し、相続法に基づいて適切な分配割合・分配方法を判断します。

本記事で解説する下記の知識を押さえておけば、不公平なくスムーズに遺産の取り分を決められるでしょう。

・遺産分配前にやるべきこと
・遺産の分配割合・分配方法を決める手段
・法定相続分(相続人調査の基礎知識・遺産の分配割合の基準)
・遺産の分配方法(計4通り)
・遺産の分配・取り分に納得できない時の対処法

 

遺産分配前に必要な手続き

遺産を親族で分配しようとする時は、事前の状況確認が必要です。

分配方法の判断やトラブル回避のため、相続開始直後は「遺言書の捜索」と「相続財産及び相続人の調査」から実施しましょう。

遺言書の捜索│どこを探せばいいのか

相続開始後はすぐ遺言書の捜索を行いましょう。

有効な遺言書が発見できれば、その内容に従って遺産を分配することができます。

なお、遺言書の種類には「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」があります。下記の特徴を押さえ、遺品整理を兼ねて遺言者の自宅などを探し、公正証書遺言については最寄りの公証役場で閲覧・検索してみましょう。

▼遺言の種類と保管場所
・自筆証書遺言:遺言者の自筆で作成し、手元もしくは法務局で保管する
・秘密証書遺言:自筆もしくはワープロで作成して封印し、手元で保管する
・公正証書遺言:公証役場で作成し、原本は同役場、謄本は手元で保管する

発見した遺言書はその場で開封しない

遺言書が見つかった場合は、その場では開封しないよう注意しましょう。

公正証書遺言でない遺言の開封は、家庭裁判所で立会いのもと行う必要があり、そのための検認(民法第1004条第1項・同条第2項)の申立てが必要です。

自筆証書遺言・秘密証書遺言の検認を経ない開封は、科料に処せられる可能性があります。

 

相続財産の調査

亡くなった人名義の財産(相続財産)をある程度把握できていても、すぐに分配に着手するのは禁物です。

遺産の独り占めや分配のやり直しといったトラブルを避けるため、いったん調査し、その結果から財産目録を作成しましょう。

相続財産の調査は、不動産ならば法務局で登記事項証明書を取得し、その他の財産は預入先の金融機関や証券会社、保険会社などに照会する方法などで進めます。

相続不動産の所在地、各種財産の預入先が不明の場合でも、相続関係を証明する書類(戸籍謄本等)を用意すれば、次のように調査できます。
・預貯金:銀行名を特定、支店名・口座番号等を照会
・不動産:所在地域を特定、役場で固定資産税課税台帳・名寄帳を閲覧※
・株式・債券等:証券会社名を特定、口座及び預入資産を照会
・債務:債権者への個別照会、信用情報登録機関(JICC・CIC等)での照会
分配すべき相続財産には、債務も含まれます。返済中の住宅ローンなど、弁済できていない借入残高も念入りに調査しましょう。

相続人の調査

遺産の分配では、交流の有無に問わず、相続権を有する人全員の把握が必要です。共同相続人の一部がいない状態で分配を進めると、分配が無効になるためです。

相続人調査で必要なのは「亡くなった人の出生から死亡までの連続した全ての戸籍謄本」です。上記謄本上に記載された親族の戸籍も取り寄せ、同様の手順で相続人全員を特定していきます。

この過程では、戸籍上に記載された人の相続権の有無を判定するため、民法で定める法定相続の知識が欠かせません。

遺産の分配割合・分配方法を決める手段


遺産の分配について割合・方法を判断する手段は計3通りです。

優先すべきは有効な遺言書の内容ですが、作成されていなかった時は話し合い(遺産分割協議)で取り分を決めます。

法定相続人全員の合意が得られない場合は、家庭裁判所での調停・審判へと進んでいくことになります。

なお、状況によっては、遺言書があっても遺産分割協議を実施することができます。

▼遺産の分配方法(優先される順)
1.有効な遺言書による分配(遺言執行)
2.共同相続人との協議・合意による分配(遺産分割協議)
3.遺言書より遺産分割協議を優先した分配

有効な遺言書があれば内容に従う

有効な遺言書があれば、その内容に従い遺産を分配するのが原則です。

預貯金の払戻しや、不動産の名義変更手続きである「相続登記」については、遺言執行者(民法第1006条)で行えます。

なお、遺言書が有効とされるには、次の条件を具備しなければなりません。

▼遺言書が効力を持つ条件
・作成された時点で遺言者が15歳以上である
・認知症等の診断がなく、判断能力が低下していない状態で作成されている
・遺言の方式(民法第967条~第984条)に則って作成されている

遺言書がなければ遺産分割協議する

遺言書が見つからなかった場合、財産の分配は遺産分割協議によって行います。

協議で判断する分配方法及び分配割合については、合意できる限り原則として自由です。公平な分割を心がけたい時は、法定相続のルールに従うと良いでしょう。

もっとも、遺産分割協議後のトラブルや協議のやりなおしを避けるため、次の2点には要注意です。意見対立することなく平和的に話し合える場合でも、法定相続及び合意書面の作成に長けた弁護士の支援を得ると安心です。

▼遺産分割協議の注意点
・合意事項に効力をもたせるため、協議の最後に「遺産分割協議書」を作成する

遺言書があっても遺産分割協議が必要なケース

遺言書があっても、遺産分割協議で財産の分配を行う場合があります。

該当するのは、次のようにトラブルが起きていたり、相続人全員が遺産分割協議を望んでいたりするケースです。

・特定遺贈(遺言による財産指定での贈与)の放棄があった場合
・包括遺贈(遺言による割合指定での贈与)を受けた人が相続放棄した場合
・遺言書の一部または全部が無効と判断せざるを得ない場合(方式違背等)
・遺言書の内容につき、納得できず異議を唱える相続人がいる場合

遺産分割について詳しく知りたい人は、「遺産分割はどのようにするか」の記事も参考にしてください。

法定相続のルールと遺留分


相続人調査及び遺産の分配では、法定相続のルールの理解が不可欠です。

法律により相続権を有する「法定相続人」の組み合わせや、その相続権の割合である「法定相続分」は、家族構成によって異なります。

法定相続の判断方法を正しく理解して、特に遺留分を適切に計算できるようにすることは、遺産の分配をトラブルなく終えるための基本です。

▼法定相続人・法定相続分の早見表

法定相続人の組み合わせ配偶者の法定相続分血族相続人の法定相続分
配偶者のみ1分の1
配偶者+子2分の1同順位全体で2分の1
配偶者+直系尊属3分の2同順位全体で3分の1
配偶者+兄弟姉妹4分の3同順位全体で4分の1

法定相続人とは│相続権は誰にあるのか

法定相続人の組み合わせは「配偶者だけ」もしくは「配偶者と血族の組み合わせ」です。

相続権の発生に関する法律の定めを基に、下記の方法で判断できます。

▼法定相続人の判断方法
・配偶者がいれば、必ず相続権を得る(民法第890条)
・配偶者の有無に関わらず、子・直系尊属・兄弟姉妹のいずれかが平等に相続権を得る

相続順位とは│血族では誰が相続権を得るのか

法定相続人のうち、亡くなった人の血族にあたる人は、法律で定める相続順位が最も高い人です。子が最優先、子がいなければ父母や祖父母、上記直系がいなければ兄弟姉妹が権利を得ます。

▼血族の相続順位

第1位子(民法第878条)
第2位直系尊属(民法第889条1項1号)
第3位兄弟姉妹(民法第889条1項2号)

 

法定相続分とは│分配割合はどうなるのか

法定相続分は相続人の組み合わせで変化し、基本的には次の1・2のルールで判断します(民法第900条)。

  1. 1.配偶者相続人の法定相続分は、血族相続人の相続順位によって変化する
  2. 2.血族相続人の法定相続分は、同順位全体の割合を人数で割って計算する

配偶者相続人の法定相続分は、次のように、血族相続人の順位が高いほど増えます。

血族相続人の視点だと、亡くなった配偶者がいる場合、自分たちの順位に応じて権利の総量が減ります。

▼配偶者相続人の法定相続分

相続順位第1位(子)が血族相続人の場合2分の1
相続順位第2位(直系尊属)が血族相続人の場合3分の2
相続順位第2位(兄弟姉妹)が血族相続人の場合4分の3

遺留分とは│各人のため最低限確保すべき取り分

法定相続のルール上、配偶者・子・直系尊属には、遺言や遺産分割協議で侵害できない最低限の権利として「遺留分」が保障されています(民法第1042条)。

トラブル防止や対処のため、各人の遺留分の計算方法を理解しておきましょう。

▼各人の遺留分の計算方法
・遺留分算定の基礎となる財産価格を求める
・遺留分の合計額(=総体的遺留分)を求める
・総体的遺留分を法定相続分の割合で分配する
遺留分算定の基礎となる財産価格は、相続開始時に存する価値のある財産から債務を控除し、一定範囲の生前贈与を加算します。

加算する生前贈与は、相続人が特別受益としてもらい受けた分なら相続開始前10年以内、それ以外の場合は相続開始前1年以内の分です。

ただし、当事者双方が遺留分侵害を知って贈与した場合は、無期限で加算されます(民法第1044条1項・3項)。

総体的遺留分の算出方法は、総体的遺留分の基礎となる財産価格の2分の1が原則です。

例外的に、直系尊属のみが相続人となる場合は、同財産価格の3分の1とされます。

▼遺留分の早見表

法定相続人の
組み合わせ
総体的遺留分配偶者直系尊属
配偶者+子2分の14分の14分の1
配偶者+直系尊属2分の16分の26分の4
配偶者のみ2分の12分の1
子のみ2分の12分の1
直系尊属のみ3分の13分の1

 

遺産の分配方法│不動産相続の必須知識

不動産相続の必須知識
遺産を分配する時の方法は4通りです。

原則は「現物分割」や「換価分割」を行いますが、不動産等の現物のままだと分割できない財産は「共有分割」「代償分割」も視野に入れて分配方法を検討します。

4つの方法はいずれも一長一短であるため、メリット・デメリットを理解し、状況に合う適切な分配方法を選択しましょう。

現物分割:財産をそのままの状態で分配する

現物分割とは、財産をそのままの状態で受け継ぐ方法です。預貯金を分配割合に沿って払い戻したり、資産種類ごとに承継人を指定したりするやり方を指します。

分配割合さえ決まっていれば現物分割はシンプルな方法ですが、問題が起きがちです。

例えば「土地建物は長男・貯金は次男」とのように分けると、土地建物の評価額しだいで、著しく不公平となってしまうのです。

▼現物分割の特徴
・メリット:分配割合に応じて各人の単独名義となるため、資産活用及び運用が円滑
・デメリット:高額かつ可分性のない財産があると、不公平が起きやすい

共有分割:財産を複数人で共有する

共有分割とは、現物のまま、2人以上の相続人が共同で受け継ぐ方法です。

不動産相続であれば、登記上ひとつの土地建物につき、共有持分の登記申請を行う場合を指します。

共有だと、2つ以上に分割できない性質の財産を平等・公平に分けられますが、一方で分配後の取扱いに著しい支障が出る可能性があります。

基本的に各人が持分に応じた使用しか出来ず(民法第249条)、何らかの変更や売却の際に共有者の同意を逐一得る必要がある(民法第251条)ためです。

共有状態で時間が経過すると、他の持分所有者と連絡がとれなくなり、適切な維持管理すら出来なくなる恐れがあります。

▼共有分割の特徴
・メリット:可分性のない財産を対象に、簡単かつ平等に分配できる
・デメリット:分配後の財産につき、資産活用及び運用が制限されます

換価分割:財産の売却代金を分配する

換価分割とは、分配しようとする財産を売却し、その売却代金を分配する方法です。

証券であれば、口座の預入資産を売った利益を払い戻します。不動産であれば、業者と媒介契約を締結して買主を探してもらい、買主から振り込まれた代金を分配します。

空き家など、現物のまま活用する目処が立たない財産は、早々に換金した上で分配しやすくするとスムーズです。

ただし、円滑かつ迅速に売却手続きが完了する保証はありません。

売却に時間がかかって相続税の申告期限を過ぎても分配が完了しない、多額の手数料がかかる、そもそも需要が少なく売却できない等のトラブルが予想されます。

▼換価分割の特徴
・メリット:現金の状態で、シンプルに分割割合に従って分配できる
・デメリット:分配後の財産につき、資産活用及び運用が制限されます

代償分割:財産をもらった人が金銭を支払う

代償分割とは、現物のまま受け継いだ相続人が、その評価額について分配割合に応じた金銭で他の相続人に支払う方法です。

不動産や、会社経営の後継者がもらい受けるべき議決権付き株式等、可分性のない高額資産を売らずに分配しようとする時に用います。

問題になるのは代償金の確保です。

遺産もしくは個人資産に十分な現金がないと、代償金負担は困難です。そもそもの問題として、財産の査定額に誤りがあると、支払額が過大または過小となって不公平が生じてしまう点も指摘できます。

▼代償分割の特徴
・メリット:現物で保管すべき高額財産を、不公平感を生じさせずに承継できる
・デメリット:財産を適切に評価し、代償金として十分な額を用意する必要がある

遺産の分配・取り分に納得できない時の対処法

遺産の分配・取り分に納得できない時の対処法
遺産の分配に納得できない時は、法律上認められている正当な権利を主張し、協議や遺産分割調停・訴訟で解決を目指すべきです。

主張できる可能性がある権利として、ケース別に次のようなものが挙げられます。

▼生前贈与や遺言によって不公平が生じた時
……遺留分侵害額請求(民法第1046条)

▼他の相続人が結婚資金や教育資金の援助を得ている場合
……特別受益の持戻し後の分配(民法第903条)

▼介護、看護、生活の援助等の負担が大きかった場合
……寄与分の主張(民法第904条の2)

遺留分侵害額請求

多額の生前贈与が発覚したり、遺言書の内容が「全財産を○○に譲る」等と不公平になっていたりする場合、遺留分侵害額請求で最低限の権利を守れます。

侵害された額につき、相当の金銭の支払いを求められるのです(民法第1047条第1項)。

注意したいのは、消滅時効の存在です。

遺留分侵害となる相続開始および生前贈与・遺贈があったことを知ったときから1年以内に請求しないと、時効により権利が消滅してしまいます。

相続開始の時から10年が経過すれば、遺留分侵害額請求を開始しているか否かに関わらず、除斥期間の経過により権利が消滅してしまいます(民法第1048条)。

 

特別受益の持戻し

共同相続人が生前の援助もしくは遺贈で利益を得ている場合は、その利益を特別受益として持ち戻してから遺産の分配を始められます。

対象となるのは、婚姻もしくは養子縁組のため若しくは生計の資本として、生前贈与・死因贈与・遺贈を得た相続人がいるケースです。

特別受益の持戻しで注意したいのは、持戻しが認められないケースも存在する点です。

婚姻期間20年以上の夫婦間で持ち家の贈与や、亡くなった人が持戻し免除について有効な意思表示をしていた場合が該当します。

寄与分の主張

亡くなった人の生前の生活を支え、多大な負担のあった人は、その貢献を寄与分として主張し遺産を多くもらい受けられると考えられます。

介護や看護にあたっていたり、家業の手伝いをしたり、金銭管理や財産の維持に努めてあげたりしていた場合です。

寄与分の主張にあたって重要なのは、貢献を示す証拠の準備です。

介護労働の時間が分かる記録や、無償で家業を手伝っていた時の業務時間を証明するもの等、実際にどの程度の負担があったか客観的に分かる資料を集めなくてはなりません。

おわりに│遺産相続の分配で弁護士を必要とする理由

遺産の分配を始めようとする時は、事前に遺言書を捜索しましょう。分配後のトラブルを回避するため、相続人及び相続財産の調査も欠かせません。

この段階から、公平な分配のため、少なくとも法定相続人及び法定相続分に関する知識が必要です。

たとえ十分学んだつもりでも、次のようなポイントで悩むことになるでしょう。

・各種調査するための時間がなく、負担も大きい
・遺産分割協議書の文面や作成方法が分からない
・不動産の分割方法で迷う、複雑で分からない
・取り分で損をする可能性がある

 
不公平感のない遺産の分配を成功させるためのポイントは、親族関係や資産状況によって全く異なります。

親族間でもめ事があるか否かに関わらず、分配に先だって相続専門の弁護士に相談しておくと安心です。

 

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