相続・遺産分割の弁護士費用の相場~費用を払えない場合はどうする?
相続・遺産分割の弁護士費用の相場は、主に相談料・着手金・報酬金の設定で異なります。
相場としては、相談料として1時間あたり5千円程度、着手金として20万円~30万円、その他に依頼内容および依頼者の経済的利益に応ずる報酬金(3%~16%)です。
遺言書作成や相続人調査、相続放棄等、トラブルがなく書類作成・収集の代行だけで済みそうなケースでは、5万円から20万円ほどと安くなります。
反対に、遺言執行のように状況によってはかなり煩雑になるケースや、遺産分割協議・調停に介入して解決を図るべきケースでは、経済的利益に応じて40万円以上になることもあります。
目次
相続・遺産分割の依頼にかかる弁護士費用の内訳
相続や遺産分割の依頼にかかる弁護士費用は、計5種類の費目から成り立ちます。それぞれの費用および計算方法は次の通りです。
相談料 | 1時間もしくは30分あたりで計算 相場:1時間あたり5千円~6千円 (無料対応している事務所も有) |
着手金 | 弁護士・法律事務所および依頼内容により異なる 相場:20万円~30万円 |
報酬金 | 依頼者が得る経済的利益に応じて計算する 相場:30万円~(経済的利益の0.5%~16%※) ※利益が大きくなるほど割合が下がる |
実費 | 依頼内容を達成するために最低限必要な費用 例:郵便切手代、裁判所が定める申立手数料等 |
日当 | 弁護士の出張に要する費用 相場:1回あたり1万円から5万円 |
弁護士費用は依頼先によって異なりますが、費用体系を定める際は、平成16年4月1日に廃止された日弁連報酬等基準(旧規定)が現在も参照されています。
実際にかかる費用については、平成8年に弁護士を対象として行われたアンケート調査「市民のための弁護士報酬の目安」の結果も参考にできます。
相談料
相続や遺産分割について弁護士に依頼するには、状況を伝え、今後の流れ等を教えてもらうための相談が必要です。相談料の目安は、旧規定より1時間あたり5千円から6千円程度です。
ただし、現在では、無料相談を受け付けている弁護士もいます。
着手金
相続や遺産分割について弁護士に依頼する場合、初めに着手金がかかります。
着手金の相場は、あまり問題のケースでは、旧規定より20万円から30万円程度です。
なお、遺産が高額に及ぶケースや、特殊事情がある場合、自社株式・不動産等の取扱いで慎重になるべき資産があるケースでは、上記相場より高額になる可能性があります。
報酬金
相続や遺産分割について弁護士が解決した時は、依頼者が得た経済的利益の大きさに応じ、割合で決められた報酬がかかります。
報酬金の相場は、旧規定では以下とされています。
・300万円以下:経済的利益の16%
・300万円超3000万円以下:経済的利益の10%+18万円
・3000万円超3億円以下:経済的利益の6%+138万円
・3億円超:経済的利益の4%+738万円
・300万円以下:30万円
・300万円超3000万円以下:経済的利益の2%+24万円
・3000万円超3億円以下:経済的利益の1%+54万円
・3億円超:経済的利益の0.5%+204万円
実費
弁護士が相続等の依頼内容を達成するにあたり、書類作成や収集・裁判所で決められた費用などの実費は必要です。
上記実費は、報酬金に含まれる場合と別途請求になる場合があり、次のような費目があります。
・調停を申し立てる時の印紙代
・書類収集の際にかかる交付手数料
・交通費・通信費
日当
相続や遺産分割について依頼した弁護士が出張する場合、出張にかかる費用が日当として生じます。
費用の相場は、依頼先および出張の内容によって異なるものの、1回あたり1万円から5万円です。
分野別│相続・遺産分割の弁護士費用の相場
相続や遺産分割の弁護士費用は、相談内容の分野に応じて大きく変動します。
基本的には、関係者間で特にトラブルがないケースでは安く、トラブルもしくはトラブルの原因になりかねない要素がある場合は高くなります。
比較的安く済むケースから順に弁護士費用の相場を挙げていくと、以下のようになります。
相続人調査・相続財産の調査
相続人や相続財産について調査を依頼するケースでの弁護士費用の相場は、旧規定によれば実費込みで5万円から20万円程度です。
ただし、下記のような事情がある場合は高額になります。
・把握できているだけでも相続人の数が多い
・被相続人(亡くなった人)の結婚・離婚回数が多い
・改正原戸籍(手書きの戸籍)の調査も必要になる
・預金口座が多数、広大な土地を所有している等
遺言書作成
遺言書作成を依頼する場合の弁護士費用の相場は、旧規定によれば10万円から20万円程度です。
複数ある遺言方式の中で最も信頼できる「公正証書遺言」を作成するケースでも、平成8年のアンケート調査でも、遺産の価額を5千万円とする設例で、10万円前後が回答全体の約50%、20万円前後が30.2%を占めています。
なお、公正証書遺言作成の費用体系によっては、公正証書作成手数料として、加算されることもあります。
その他、実費として公証役場に支払う費用が必要です。
遺言書作成について上記相場を超えて高額化するのは、下記のようなケースです。
・相続人や相続財産の関係が複雑
・遺言の指定内容が複雑
・特殊な指定をする(弁護士を遺言執行者にする等)
遺言執行・遺言執行者の就任
相続開始後に遺言書の内容を実現する「遺言執行」を依頼する場合の弁護士費用の相場は、遺産の価額に応じて30万円からとなります。
弁護士に遺言執行者として就任してもらう場合の費用相場は、遺産の価額に応じ、40万円以上となるのが一般的です。
旧規定に基づく相場は、弁護士費用の内訳で紹介した基準に沿い、計算できます。
……弁護士費用=4千万円×1%+54万円=94万円
相続放棄
相続放棄の手続きを依頼する時の弁護士費用の相場は、5万円から10万円程度です。報酬体系や依頼時の状況によっては、申述書(裁判所に提出する書類)の作成代行費用として、別途5千円から1万円程度かかります。
なお、相続放棄について次のような事情がある場合は、上記相場を超えて高額化する可能性があります。
・相続人調査、相続財産の調査を要する
・連絡がとれない相続人がいる
・相続放棄の是非について親族の間で判断が分かれている
・相続の承認・限定承認・放棄とは?
遺産分割協議
遺産分割協議について依頼する時の弁護士費用の相場は、着手金として20万円から30万円、報酬金は依頼者の経済的利益に応じて40万円程度からです。
旧規定に基づく相場は、弁護士費用の内訳で紹介した基準に沿い、次のように計算できます。
・着手金:20万円
・報酬金:168万円
・合計:188万円(相談料その他除く)
遺産分割調停
遺産分割調停について依頼する時の弁護士費用の相場は、着手金は同じく30万円以上、報酬金は依頼者の経済的利益に応じて60万円程度からです。
旧規定に基づく相場は、弁護士費用の内訳で紹介した基準に沿い、計算できます。
・着手金:20万円
・報酬金:2500万円×10%+18万円
・合計:288万円(相談料その他は除く)
遺留分侵害額請求
共同相続人や受遺者に対する「遺留分侵害額請求」を依頼する時の弁護士費用の相場は、着手金として20万円から30万円程度から、報酬金として依頼者の経済的利益に応じ40万円程度からです。
別途、請求開始時に送る内容証明郵便の作成費用として、旧規定によれば3万円から5万円程度かかります。
基本的には、遺産分割協議・調停を依頼する時と同じく、交渉や裁判所での対応を想定した費用がかかると考えて差し支えありません。
遺留分侵害額請求にあたり、次のような事情がある場合には、高額化します。
・依頼者と請求相手の関係が相当に悪化している場合
・請求相手と連絡がとれない場合
・その他の特殊事情がある場合
・簡単に遺留分を請求する方法【5ステップ】
弁護士費用が払えない場合の対処法
弁護士費用が払えない場合は、依頼範囲を狭めて節約する・分割払いを指定する等の対処があります。
その他、経済的条件に関わらず弁護士を利用できるように設けられた立替え制度も検討できます。
分割払いを相談する
相続等にかかる弁護士費用は、必ずしも一括払いとは限りません。
分割払いにも柔軟に対応してくれる弁護士および法律事務所が大半です。
心配がある時は、初回相談時に支払い方法の種類を聞いておくとよいでしょう。
調査・情報収集は出来る範囲で先にやっておく
弁護士費用は依頼する範囲で決まるため、高額に及んで払えない可能性を不安視する時は、出来るだけ自分でやると良いでしょう。
自力でやれる範囲として考えられるのは、相続人や相続財産の調査や、遺品整理を通じたその他の情報収集です。
方法が分からなくても「代行ではなく、相談料を払ってやり方をアドバイスしてもらう」「自分でやった内容をチェックしてもらう」といった弁護士費用の節約術があります。
法テラスの民事法律扶助による立替えを活用する
相続等について弁護士に依頼する人の状況によっては、法テラスの民事法律扶助により、弁護士費用を立替えてもらえる可能性があります。
対象となるのは、収入要件および資産要件が一定以下である人です。
上記立替えにより発生する返済金は、分割払いが出来るほか、失業する等の一定の要件を満たせば返済免除となります。
弁護士に依頼するメリット・他士業との比較
相続・遺産分割に関して、弁護士はオールマイティに活動できます。
手続きも交渉も一括で依頼できることで、単純な事務作業によるストレスから、人間関係について覚える苦痛まで、相続人の負担を大きく減らせます。
自分でやる場合、他士業に依頼する場合と比べても、ワンストップで安定感のある仕事をこなせるのはメリットです。
相続・遺産分割の手続きから解放される
弁護士に依頼する最大のメリットは、何かと手間がかかる相続等の手続きからの解放です。
通常、相続や遺産分割の手続きは、遺言書の捜索・各種調査・共同相続人への連絡・銀行や法務局での手続き……と長い道のりになります。
居住地から実家への移動や、電話の手間も無視できません。
弁護士に依頼すれば、調査から書類収集、連絡、そして遺産の名義変更まで、一括で全て進めてもらえます。
ただし、自分で行わなければならない手続きもありますので、何もしなくていい、というわけではありません。
「任せたから知らない」ということではなく、弁護士と一緒に手続きを進めていく、という気持ちが大切です。
親族との協議・交渉によるストレスから解放される
人間関係が複雑になっているケースでの弁護士のメリットとして、協議や交渉による精神的ストレスからも解放される点も挙げられます。
遺留分や遺産分割の割合に関する争いがないとしても、疎遠になっていたり、昔いざこざがあったりした場合、相手方である親族・関係者と連絡を取るのは苦痛があります。
相続に関して争いがあれば、解決への焦りも絡んでますます苦しくなります。
弁護士は、その資格において訴訟代理権を持ち、話し合いの段階から依頼人に代わって相手方とやりとりできます。
弁護士に依頼することで、最低でも接触による精神的苦痛から解放されるだけでなく、解決の長期化によるストレスもなくなる見込みがあります。
他士業には出来ない多彩な活動ができる
相続や遺産分割について相談できる士業は複数存在しますが、オールマイティに活動できるのは弁護士のみです。
確かなのは、トラブルがなく、相談内容も一定の分野に絞られる場合、他士業の方が比較的安価になる点です。
とはいえ、弁護士以外の士業は扱える分野が限られるため、完全な解決を見るとは限りません。問題が上手く特定できない場合や、相続等について全く分からない場合、トラブルの原因になりかねない要素がある時は、弁護士に相談するのがベターです。
▼各士業の対応範囲(相続・遺産分割の場合)
取扱分野 | 弁護士 | 司法書士 | 行政書士 | 税理士 |
各種調査 | 〇 | 〇 | △ | 〇 |
交渉・調停・訴訟の対応 | 〇 | × | × | × |
遺言書作成 遺産分割協議書作成 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
相続登記 (不動産の名義変更) | 〇 | 〇 | × | × |
その他のトラブル対応 | 〇 | × | × | × |
相続税・準確定申告 | × | × | 〇 |
おわりに│弁護士費用に見合う実力は初回相談で見極められる
弁護士費用がある程度の高額に及ぶと分かれば、支払う額に応じた解決満足度が得られるかどうかが心配です。
また、個別のケースでの費用が分からず、予算の不透明さから依頼を見合わせてしまう場合も多いのではないでしょうか。
弁護士費用に見合う実力、期待できる解決満足度は、初回相談で見極める他ありません。
相談内容をコンパクトに整理し、見積りが知りたいと伝えるのを忘れないようにして、まずは弁護士と会ってみることをおすすめします。
・遺産分割を弁護士に相談する理由とメリット&デメリット