遺言書を撤回、変更できるか?
遺言書は、一度書いてしまうと、撤回や変更はできないのでしょうか。
それとも撤回、変更することができるでしょうか。
民法によると、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部または一部を撤回することができます(民法第1022条)。
前の遺言を撤回するための遺言は、遺言の方式に従っていればよいので、前の遺言と同一方式である必要はありません。
したがって、公正証書遺言を、後で自筆証書遺言により撤回することも可能です。
遺言を撤回する方法は、いくつかあります。
・遺言書の破棄
・撤回文言の記載
・法定撤回
の3種類があります。
遺言書の破棄
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。
遺贈の目的物を破棄したときも同じです(民法第1024条1項)。
遺言書を破棄したかどうかは、行為の有する一般的な意味に照らして、遺言の効力を失わせる意思の現れとみることができるかどうかによって判断します。
過去の判例では、赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為が遺言の撤回と解釈された事例があります(最高裁平成27年11月20日判決、平成28年重判13事件)。
なお、公正証書遺言については、原本が公証役場に保管されていますので、遺言者が所持している正本などを破棄しても、遺言書を破棄したことにはなりません。
公正証書遺言については、後の遺言書により撤回するか、目的物を処分または破棄することにより撤回することになります。
撤回文言の記載
後の遺言書に前の遺言を撤回する旨の文言を記載する方法です。
前の遺言で、「私の不動産を長男に相続させる」と記載した後、後の遺言で、「平成●年●月●日付け遺言により、不動産を長男に相続させる旨の遺言を撤回する」と記載する方法です。
これにより、前の遺言の不動産を長男に相続させる部分の遺言が撤回されたことになります。
法定撤回
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
遺言の後に遺贈などの目的物を処分して抵触した場合も同様です(民法第1023条)。
たとえば、前の遺言で、「私の不動産を長男に相続させる」と記載した後、後の遺言で、「私の不動産を次男に相続させる」と記載するような場合です。
また、前の遺言後、不動産を第三者に売却するような場合です。
これらの場合、前の遺言の不動産を長男に相続させる部分の遺言が撤回されたことになります。
撤回行為の撤回
遺言を撤回した後に、その撤回した行為(後の遺言等)を「撤回する」という遺言をしたときは、後の遺言は撤回されるが、それにともなって前の遺言が撤回されるわけではありません(民法第1025条)。
つまり、後の遺言を撤回しても、前の遺言は復活しない、ということです。
したがって、この場合には、再度遺言をする必要があります。
ただし、遺言書の記載に照らして遺言者の意思が原遺言書の復活を希望するものであることが明らかなときは、1025条の法意に鑑み、遺言者の意思を尊重して原遺言の効力が復活する、とした判例があります(最高裁平成9年11月13日判決、民集51巻10号4144頁)。