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生命保険は遺留分の対象に「原則」ならない

最終更新日 2019年 09月25日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

「生命保険は遺留分の対象になりません?」

生命保険の募集人から、「生命保険は遺留分の対象にならないから、遺留分対策として有効です。たくさん契約しましょう」と言われて勧誘されることがあります。

これは、正しいでしょうか?

結論としては、正しい部分はあるが、不正確である、ということになります。

正確には、

・生命保険金そのものは、遺留分侵害額請求権の対象にならない。

・しかし、場合によって、生命保険金が相続財産に持ち戻される場合がある

・その結果、相続財産が増加して、遺留分が増加する

ということになり、結果的に遺留分の対象になったのと同じような結果になる場合がある、ということです。

このあたりは正確に知っておかないと、間違った遺留分対策をしてしまうことになってしまうので、最後まで読んでください。

生命保険は遺留分の対象になるか

生命保険と遺留分に関する問題としては、

・生命保険金は、遺留分の対象になるか

・生命保険金の受取人の変更は、遺贈または贈与にあたるか

などがあります。

それぞれ判例があるので、ご紹介します。

生命保険金は、遺留分の対象になるか

生命保険金が相続財産かどうかが争われた事案において、最高裁昭和40年2月2日判決は、「生命保険金は、保険金受取人が自らの固有の権利として取得するものであって、保険契約又は被保険者から承継して取得するものではない」として、相続財産ではない、と判断しました。

したがって、まず、生命保険金自体は、相続財産として遺留分の基礎財産となるものではない、ということになります。

この点、相続税法で生命保険金がみなし相続財産とされていることと異なる解釈となります。

生命保険金の受取人の変更は、遺贈または贈与にあたるか

次に、生命保険金の受取人の変更は、遺贈または贈与にあたるかどうかが争われた裁判例をご紹介します。

被相続人が、自己を被保険者とする生命保険契約を契約しているときに、死亡保険金の受取人を被相続人から相続人に変更する行為が遺留分減殺請求権の対象となる遺贈または贈与にあたるかどうかが争われた事案があります。

これについて、最高裁平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069頁)は、遺留分減殺請求の対象にはならない、と判示しました。

したがって、この場合にも、遺留分の対象となりません。

結果的に生命保険が遺留分の対象になる場合がある

では、生命保険は遺留分対策として万全か、というと、そういうわけではありません。

養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権またはこれを行使して取得した死亡保険金が、民法第903条1項(特別受益)に規定する遺贈または贈与に係る財産にあたるかいなかが争われた事案があります。

この事案において、最高裁平成16年10月29日判決(百選Ⅲ61)は、特別受益に該当する遺贈または贈与にかかる財産にはあたらない、と判示したうえで、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」としました。

生命保険金請求権が特別受益に準じて持ち戻しの対象になる、ということは、どういうことかというと、それによってみなし相続財産となって、遺留分侵害額請求権の計算の基礎となる財産が増加するので、遺留分侵害額が増加する、という結論になります。

したがって、その意味で、生命保険は、遺留分対策として万全ではない、ということになります。

相続税申告後に遺留分侵害額が確定した場合の処理

相続税の申告をした後に遺留分侵害額が確定した場合は、すでに提出した申告書の計算の前提となる取得財産が増加または減少することになります。

取得財産が減少した場合は、相続税額も減少しますので、遺留分侵害額が確定した日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求をすることができます(相続税法第32条1項3号)。

反対、取得財産が増加する場合には、相続税額も増加しますので、修正申告をすることになります(相続税法第31条1項)。

以上のように、生命保険と遺留分の関係については、法的に難しい面を含むので、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

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