相続・遺産分割における兄弟姉妹のトラブルと解決法
親の相続が発生した、遺産分割をする時、兄弟姉妹間でトラブルを起こることがあります。
亡くなった親の財産を兄弟姉妹で分割する場合、その割合は法律上平等とされています。
それにも関わらず「長男が財産を独占する」「生前贈与や遺言のせいで不公平になる」といったトラブルに見舞われた場合には、相続財産の調査と法律に基づく判断により、相手方に毅然と主張することで解決可能です。
なお、兄弟姉妹でのトラブルは、必ずしも意見対立だけとは限りません。疎遠になって連絡が取れず、遺産分割以前の状態で止まってしまうことがあります。
上記のような相続トラブルの原因と解決法を知る上で、まずは相続法の定めから理解を深めましょう。
目次
法律で定める兄弟姉妹の遺産の取り分
被相続人の子の取り分は、何人いようと兄弟姉妹間で平等です。
死亡により相続権を失った人が含まれる場合、その子が代襲して相続権を得る場合もあります。
加えて、子にはそれぞれ最低限の取り分である「遺留分」が認められます。
兄弟姉妹の主張に違和感を覚えたら、まずは法律で定められる遺産の取り分(法定相続分)および遺留分を確認しましょう。
兄弟姉妹の全員が存命の場合
兄弟姉妹の全員が存命かつ相続権を失う事由がない場合、その取り分は公平です。
被相続人の前妻・前夫の子や、認知した子であっても、兄弟姉妹として血縁関係があれば、遺留分も含めて平等に相続権が認められます。
【例】父が亡くなり、妻である母・子である兄弟姉妹3人の計4人で遺産分割する場合
妻の取り分 | 2分の1 (遺留分として4分の1) |
子の取り分 | 各6分の1 (遺留分として各12分の1) |
兄弟姉妹の一部が死亡している場合
兄弟姉妹の一部が死亡している場合、存命の兄弟姉妹らで公平に分割できます。
同じく、前妻・前夫の子や、認知した子であっても、相続権の割合に変動はありません。
なお、死亡している兄弟姉妹に子がいる場合、代襲相続によって、その子が親の相続権を承継します。
【例】父母が立て続けに死亡し、母の遺産を子である兄弟姉妹3人(※うち長男は既に死亡/その子である甥が2人いる場合)で分割する場合
存命の兄弟姉妹の取り分 | 各3分の1 (遺留分として各6分の1) |
死亡した長男の子(甥) の取り分 | 各6分の1 (遺留分として各12分の1) |
兄弟姉妹の一部が相続権を失っている場合
兄弟姉妹の一部が相続権を失っている場合、残りの兄弟姉妹らで公平に分割します。
取り分に変動が生じるのは、代襲相続の可能性がある時です。相続放棄によって権利が失われている場合、代襲相続は発生しません。
虐待や非行による相続廃除、遺言書の偽造等による相続欠格の場合は、代襲相続が発生します。
【例】父母が立て続けに死亡し、母の遺産を子である兄弟姉妹3人(※うち長男は遺言により相続廃除/その子として甥が1人いる場合)されている場合
長男の取り分 | なし |
長男以外の 兄弟姉妹の取り分 | 各3分の1 (遺留分として6分の1) |
甥(長男の子)の取り分 | 3分の1 (遺留分として6分の1) |
・相続の承認・限定承認・放棄とは?
兄弟姉妹でよくある相続トラブルの原因
兄弟姉妹でよくある相続トラブルは、ある程度定型化できます。
次のような典型的な状況に心当たりがあれば、問題が起きているとみなし、弁護士に相談する等の対処が必要です。
・亡親が生前使っていた預金口座の残高が、同居する兄弟姉妹に使われている。
・長男だけひいきされ、学費や結婚式の費用を援助されていたのが納得できない。
・晩年、近距離別居して介護していたのに、他の兄弟姉妹と取り分が同じなのが不満。
・遺言書に「長男に全財産を相続させる」とあり、他の兄弟姉妹も含め納得していない。
・疎遠になっている兄弟姉妹と連絡がつかず、いつまで経っても遺産分割できない。
相続財産の範囲が不明
亡くなった人の遺産は大なり小なり多岐に渡り、どこまでが相続財産の範囲なのか特定できないケースが多々あります。
全て調査し終えた後でも「後から通帳が見つかった」「実は多額の生前贈与があった」等といった事態になるのは珍しくありません。
上記のようなケースでは、相続財産の範囲を正確に知る兄弟姉妹が、他の兄弟姉妹達に事実を伏せたまま、遺産の独占・使い込みを行う可能性が考えられます。
もしもの時は、入出金明細から改めて遺産の全容を調査し、取り戻したいと考えるのが自然です。
・相続財産には、どのようなものがあるか?
教育・結婚等のための生前贈与
子が2人以上いる場合、うち一部だけが教育・結婚のため多額の資金提供を受け、そのまま援助者である親が亡くなってしまうことがあります。
法律上は既に廃止されているはずの家督相続制の考え方を受け継ぐ家庭に多い事例です。
現在の民法では、兄弟姉妹らには平等に相続権が認められており、上記のような生前贈与のあり方は到底納得できません。
そこで、遺産に贈与の価格を持ち戻して考えるべきと主張する側と、受贈者(受遺者)との間でもめるケースが見られます。
・特別受益とは?
介護や生活扶助の寄与
平均寿命が長い我が国では、晩年身体や判断能力につき不自由になった家族を、その子が支えるケースが多々あります。
資産状況によっては、子から親に経済的支援を行ったり、家業の手伝いをしたりすることもあるでしょう。
上記のように親の生活を支えた子にとっては、兄弟姉妹達よりも多く遺産相続できないと不公平に感じられます。
そこで、生前の寄与を主張する子と、その寄与の度合いに理解がなく平等な遺産分割にこだわる子とのあいだで、兄弟姉妹同士の相続トラブルに発展する場合があります。
・寄与分とは?
遺言書の内容が公平でない
遺産分割の割合は、亡くなる前に遺言で指定できます。指定できる内容は自由であり、必ずしも法定相続分(法律で決められた相続権の割合)に沿うとは限りません。
場合によっては、長男・長女を著しく優遇する内容だったり、晩年一緒に暮らすようになった内縁の配偶者に多額の遺贈をする内容だったりすることもあります。
上記のような内容は、親との関係を続けてきた子にとって、到底納得できるはずがありません。
生前に遺言について話し合いがなかった場合はなおのこと、兄弟姉妹間での争いのもとになります。
一部の兄弟姉妹と連絡がとれない
相続開始後に有効な遺言書が見つからなかった場合は、相続権を有する人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
そのため、死亡連絡や葬儀日程の通知と共に、兄弟姉妹を含む親族らに集まってもらわなくてはなりません。
ところが、核家族化がかなり進行した現代では「兄弟姉妹であってもほとんど連絡をとらない」「居場所すら分からない」といったケースが珍しくありません。
相続開始を機にようやく音信を再開しようとしても上手くいかず、遺産分割協議がストップしたまま、気まずい状況になってしまうケースがあるのです。
兄弟姉妹の配偶者が関与してくる
兄弟姉妹に配偶者がいると、各々が相続等で取得する財産は、夫または妻と一緒に意思決定して使うのが普通です。
各々の家庭で金銭管理について配偶者の方に発言権があると、本来の相続人の代わりに配偶者が出てきて「自分達はこのくらいの取り分がいい」と言い出しかねません。
法律上、被相続人の子の配偶者には、遺贈がない限り、遺産分割の割合に関与する権利はありません。
そう主張しようとしまいと、義理の兄弟にあたる配偶者が遺産分割協議・遺言執行に関わってくることで、混乱してしまうケースが見られます。
兄弟姉妹で起きた相続トラブルの解決法
兄弟姉妹で起きる相続トラブルの解決は、相続法および遺産分割に必要な情報の精査が要です。
具体的には、次のポイントが挙げられます。
・遺留分、寄与分、特別受益等の制度を知る
・遺言書がある場合、その効力について適切に判断する
相続財産を調査する
トラブル防止のため心がけたいのは、相続開始後のなるべく早い段階から遺産の調査に着手することです。
遺品整理しながら口座情報・登記情報を探すのもひとつの方法ですが、適切な調査手法として、次のようなものがあります(一例)。
・証券保管振替機構への開示請求
・市区町村役場での名寄帳・課税台帳の閲覧(不動産の調査)
・個人信用情報機関への開示請求(負債の調査)
遺留分を主張する
被相続人の子らには、遺言や遺産分割協議でも侵害できない「遺留分」が認められます。
取り分が不公平であったり、遺産の独占・使い込みが判明したりした時には、遺留分を侵害したものとして金銭での支払いを求めることが可能です(遺留分侵害額請求)。
自分以外の兄弟姉妹に対する遺留分の主張は、内容証明郵便を送付し、その後は弁護士を代理人として話し合うのが適切です。
加えて、遺留分の主張にあたっては、次の点に留意しなければなりません。
・遺贈と生前贈与・死因贈与がある場合は、遺贈から先に請求する必要がある
・他の兄弟姉妹に迫られても、遺留分放棄には応じない
・相続開始前の遺留分放棄は家裁の許可がない限り無効
・簡単に遺留分を請求する方法【5ステップ】
寄与分・特別受益について判断する
被相続人に対する無償での療養看護は「寄与分」、一定の要件に該当する兄弟姉妹への生前贈与は「特別受益」として、各々の遺産の取り分で考慮できます。
心当たりがあり、兄弟姉妹間でトラブルになっている時は、下記の要件から寄与分・特別受益について判断しましょう。
寄与分の要件
被相続人に対し無償で療養看護その他の労務を提供し、それによって被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合
※寄与の時期・方法および程度・相続財産の額・その他一切の事情を出来るだけ立証し、取り分を判断する必要がある
特別受益の要件
遺贈または婚姻・養子縁組・生計の資本のいずれかとしての生前贈与があった場合
※遺言で特別受益の持戻しをしない旨が指定されている場合、相続分での考慮は不可
遺言書の効力について判断する
遺言書は民法で方式の定めがあり、また、内容や作成状況によっては無効と判断されます。兄弟姉妹で遺言書の内容に不満を持つ人がいる場合、トラブル解決のため効力を適切に判断しなければなりません。疑義がある場合は、遺言無効訴訟によって裁判で判断してもらうことも可能です。
下記で挙げるのは、遺言書が無効になる典型的な例です。
・方式違背(自筆証書遺言の訂正・削除の方法が守られていない等)
・認知症その他の理由により遺言能力がない状態で作成されている場合
・遺言書を作成する過程で錯誤、詐欺、脅迫等があった場合(内容を指示されていた等)
・内容が不明確で、読む人によって判断が分かれる場合
兄弟姉妹間でトラブルが起きた時は弁護士に相談を
兄弟姉妹間で相続トラブルが起きた場合、調査を含め、なるべく早い段階で弁護士に相談しましょう。
相続手続きに必要な手順(相続財産の範囲確定・親族への連絡)の円滑化だけでなく、法的に認められる主張をストレスなく行うのに必要です。
これらのメリットがあることで、自力で限界まで対応するのに比べ、公平な遺産分割が実現する可能性が高まります。
調査・連絡がスムーズに進む
ほとんどのケースで共通する弁護士依頼のメリットは、相続人および相続財産の調査や、必要な通知・連絡がスムーズに進むことです。
自力で行う場合は、交通費や電話代がかかるだけでなく、必ずしも思惑通りに進むとは限りません。
戸籍謄本の読み方が分からない・適切な財産調査の手順が分からない等の理由で、トラブルが激化する中で進捗がないことすら考えられます。
相続や遺産分割を専門とする弁護士は、調査や親族への連絡のフローに長け、連絡がつかないケース等での追加調査についても心得があります。
不要な手間をかけることなく、相続トラブルの初動で必要な対処を任せられるのは安心です。
遺産の取り分について適切な判断・主張が出来る
遺産の適正な取り分の判断は、相続法の規定だけでなく、個別の事情も考慮して行わなくてはなりません。
相続や遺産分割に長けた弁護士は、直近の解決事例や家族関係・家業の状況から、依頼人を含む兄弟姉妹らの取り分を適正に判断できます。
さらに、遺産の使い込み、寄与分や特別受益が認められるケースでは、調停・訴訟を見据えた立証手段も用意し、適切に取り分を主張できるのもメリットです。
兄弟姉妹間の相続トラブルでは、それぞれが対等な関係であるだけに、法的に正しい取り分を主張しても相手が受け入れない場合が考えられます。
弁護士を代理人とするだけでも誠意ある対応が期待できる点で、安心できます。
もめ事の相手への連絡によるストレスから解放される
兄弟姉妹で相続トラブルに発展した場合、もともと心理的距離が近い関係でもあることから、連絡や話し合いによる精神的ストレスは大きくなりがちです。
弁護士に依頼すれば、上記ストレスからは解放されます。
代理人として書面での通知や交渉を全面的に担ってくれるだけでなく、直接話し合う機会があったとしても、丁寧なフォローがあるためです。
自力で兄弟姉妹とのトラブルに対応する場合、ストレスから「早く終わらせたい」という気持ちが勝ってしまい、不利な結果になることも珍しくありません。
弁護士に介入してもらい精神的苦痛を避けることは、遺産の取得分で損をしない効果にも繋がります。
おわりに│兄弟姉妹間の相続トラブルは弁護士に相談を
兄弟姉妹間でトラブルになった場合、自力で対応すると問題が長期化しかねません。
法定相続分・遺留分・寄与分・特別受益等について正しい主張をしても、相手が応じなかったり、連絡を遮断されたりする可能性があるためです。
遺産分割調停や訴訟を見越しても、自分の主張をどう立証するかが問題になります。
弁護士に相談すれば、調査・連絡が円滑化するだけでなく、適正な主張・立証を精神的ストレスなく毅然と行えます。トラブルの予感がある段階からでも、まずは相談してみましょう。
・遺産相続を弁護士に相談する12のメリットと注意点