税理士が裏付け資料を確認せずに申告書を作成したことが注意義務違反であるとして損害賠償請求をされた裁判例をご紹介します。
山形地方裁判所鶴岡支部平成19年4月27日判決です。
(事案)
・原告は、クリーニング業を主たる業とする株式会社であり、グループ企業7社がありました。
・原告は、グループ会社の本部機能を担っており、そのために要する費用を、管理費としてグループ会社から徴収していました。
・管理費の徴収に当たっては、事前に、当該グループ会社と原告との間でロイヤリティー契約を締結することはせず、決算書作成の過程で、原告代表者が、税理士が作成した仕訳帳を見て、当該グループ会社の当期の利益額を確認し、その場で管理費額を決定し、出金伝票と支払用の小切手を切るという方法が取られていました。
・税務調査において、管理費及び特別管理費について説明を求められ、実費相当額であることの裏付け資料の提出を求められましたが、裏付け資料を提出することができませんでした。
・その結果、修正申告をしました。
・原告は、顧問の公認会計士及び税理士が適切な助言を怠ったことにより、損害が発生したとして、損害賠償請求をしたという事案です。
【判決】
(事実認定)
税理士は、管理費の徴収にはロイヤリティー契約を締結することを提案したが、原告代表者から、「グループ会社の管理には経費がかかっており、自分が決めている管理費は、かかった経費相当額である。」旨説明され、それ以上契約締結を勧めることはしなかった。
税理士は、原告代表者に対し、管理費として認められるのは、実費相当額のみであることも説明したが、原告代表者は、「原告内部には経営分析のための資料があり、それによれば、管理費として計上している額以上の実費がかかってる。」旨返答し、裏付け資料の有無を問われると、「資料はあるが、原告の色々な経費の中に紛れていて取り出すことは難しく手間がかかる。」旨返答して、丙税理士に対し裏付け資料を見せることは一度もなかった。
税理士は、原告専務取締役の協力の下、総勘定元帳等からC社のための経費及びグループ会社の共通経費を拾い出す作業をしているところ、たとえ原告代表者が資料の提出を拒否したとしても、最終的には原告専務取締役の協力を得るなどして、資料の開示を受ければ、原告が計上した管理費及び特別管理費が実費相当額であったか否かを明らかにすることは可能であった。
(あてはめ)
被告は、原告の管理費及び特別管理費の計上について、それを裏付ける客観的資料がない限り、経費として控除の対象にならないことを認識していながら、資料による裏付けをすることなく、漫然と原告代表者が計上した額に基づき税務申告をし、そのために原告が修正申告をせざるを得なくなったと認めることができる。このことからすれば、被告には、本件各税務顧問契約における注意義務に違反した債務不履行があったといえる。
原告代表者は、税務に関して専門知識を有する者ではないのであるから、税務の専門家である税理士としては、その説明が客観的根拠により裏付けられるか否か確認する必要はあった。
管理費及び特別管理費については、極めて高額であり、これが税務署から否認された場合には、顧客である原告等8社に大きなリスクを負わせてしまう危険を孕んでいる。
総勘定元帳等を丹念に調べれば、管理費及び特別管理費として認められるもの、認められないものの区別は可能であった。
被告が何ら資料の徴求をせず、資料はあるという原告代表者の説明を漫然と信じ、その有無を現実に確認しなかったことは、本件各税務顧問契約における注意義務に違反した。
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以上です。
税理士は、強制的な調査権限がない以上、顧問先から資料提出を拒否されればそれ以上、資料の確認ができないことからすれば、少々厳しすぎる判断という印象があるかもしれません。
しかし、管理費及び特別管理費が極めて高額であることからすれば、税務調査があった場合にはその根拠を問われることは容易に予測可能です。
専務取締役の協力を得れば資料を確認することができたと認定していることからすれば、専務取締役に対して資料の提出を求めることはしておいた方が良かったと言えます。
また、総勘定元帳を丹念に調べれば確認可能であったという点も善管注意義務違反の判断に影響を与えているものと考えられます。
顧客に大きな税務リスクがある場合には、リスクの内容をよく説明した上で、その説明を証拠化しておくことが重要です。
・弁護士による税理士損害賠償SOS
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