今回は、母親名義の食堂の収益について、母親に帰属するか、請求人(子)に帰属するか、について判断した国税不服審判所平成3年11月14日裁決(TAINS F0-1-1153)をご紹介します。
(事案)
請求人は、昭和61年分ないし昭和63年分の所得税について、給与所得があったとして確定申告した。
課税庁は、食堂の収益は請求人(子)に帰属するため、請求人の所得は給与所得ではなく、事業所得に当たるとして、所得税の更正及び過少申告加算税の各賦課決定をした。
請求人は、国税不服審判所に審査請求をした。
(裁決)
以下の事実を認定して、母親名義の食堂の収益は、請求人(子)に帰属するとしました。
・本件食堂の営業許可名義は、母親名義である。
・食堂の収益は母親が事業所得として申告していた。
・食堂の建物は母親名義であるが、改築費用2573万円については、請求人が借入をして工事費用を負担した。
・上記借入金の返済は、食堂の収入金で行われた。
・請求人は約20年食堂の営業に従事し、仕入れ交渉、契約、材料の調理など営業活動で主要な役割を果たしており、母親は高齢で日常的に営業活動に従事していなかった。
・売上金の管理は請求人の名義で行われていた。
===================
本件は、もともと母親が経営していた食堂について、明確に事業の承継が行われたことがないにもかかわらず、実態から、請求人を経営者と認定したものです。
実質所得者課税の原則の見解には、法律的帰属説と経済的帰属説がありますが、多くの裁判例では、法律的帰属説で判断されています。
法律的帰属説は、形式と実質が相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきとされています。
本件のような事例では、上記のように、様々な点を検討しないと適切に事実認定ができません。
以下のような事実関係を確認する必要があります。
・建物は誰の名義で所有又は賃借されているか
・売上金の管理は誰が行っているか
・仕入れ等の交渉、契約は誰が行っているか
・経営方針、人事等の決定は誰が行っているか
・重要な設備は誰が費用負担をしているか
国税不服審判所に対する審査請求・税務訴訟は、ご相談ください。