今回は、分掌変更退職給与が認められなかった裁判例をご紹介します。
東京地裁平成29年1月12日判決(TAINS Z267-12952)、控訴棄却、上告棄却です。
(事案)
乙は、原告会社において平成16年5月28日から平成23年5月30日まで代表取締役の職にいた。
乙は、平成23年5月30日に取締役に再任されたが、甲が代表取締役に選任され、乙は代表取締役を退任した。
乙の月額報酬は、代表取締役を退任する前の205万円から約3分の1に相当する70万円に引き下げられた。
原告は、乙の退職慰労金を5609万6610円とする旨の決議をし、損金に参入した。
後日の税務調査により指摘を受け、原告は、修正申告をしたが、その後、本件退職慰労金は損金に参入されるべきであるとして更正の請求をした。
税務署長は、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(判決)
役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的には退職したと同様の事情にあると認められるときは、その分掌変更等の時に退職給与として支給される金員も、従前の役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有する限りにおいて、退職給与に該当する。
その上で、判決では、退職の事実を否定するにあたり、次の事実を認定しています。
●乙は、原告の代表取締役を退任した後も、常勤の相談役として毎日出社をし、退任前と同じ代表取締役の執務室の席において執務をしていた
●甲の席は乙の席の隣に設けられ、乙と甲が共同して原告の経営に当たる執務環境が整えられていた
●代表者の甲は、原告の売上げや粗利、従業員の成績の管理、棚卸し、従業員からの報告事項、夏季賞与の査定やその支払のための借入れ、冬季賞与の査定、マシニングの管理や設置などについて、案件ごとに乙に確認を求め、その助言に従って業務を実施するなどしていた
●税務調査において、代表取締役を退任した後も退任前と同様の業務を継続しており、甲に対し引継ぎとして仕事を教えている旨述べている
●代表取締役を退任した後も、代表者会議への出席を継続し、出席をしなくなった営業会議及び合同会議についても、各会議の議事録に甲が決裁印を押した後のものを確認した上で「相談役」欄に押印していた
●10万円を超える支出について必要となる決裁のための稟議書についても、原則として甲が決裁欄に押印した後に「相談役」欄に押印をしていた。
●乙は、原告の資金調達等のため、多数回にわたり、単独でE銀行結城支店の担当者との面談や交渉をしており、同銀行の担当者も、原告の交渉窓口で原告の実権を有するのは乙であると認識し、交渉等のために原告を訪問するに当たり、乙に対し面談の約束を取り付けていた
(結論)
乙は、原告の代表取締役を退任した後も、引き続き相談役として原告の経営判断に関与し、対内的にも対外的にも原告の経営上主要な地位を占めていたものと認められるから、甲が代表取締役に就任したことにより乙の業務の負担が軽減されたといえるとしても、本件金員の支給及び退職金勘定への計上の当時、役員としての地位又は職務の内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められない。
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以上です。
今回の判決で指摘された内容から、顧問先への助言で参考になるポイントは、以下です。
・毎日出勤しない
・代表取締役の時の執務室は使わない
・現代表取締役と同列とみなされる机の配置にしない
・経営上の重要な意志決定に関与しない
・人事に関与しない
・経営上の重要な会議に参加しない
・議事録を決裁しない
・支出に関し、決裁しない
・金融機関などとの交渉に関与しない
なお、顧問先に助言をしたら、助言をしたことを証拠化しておくことをお忘れなく。
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