今回は、取締役の退職給与について、功績倍率法ではなく、一年当たり平均額法が採用された裁判例をご紹介します。
東京地裁令和2年3月24日判決(TAINS Z888-2350)です。
(事案)
原告会社は、肉用牛の飼育、肥育及び販売事業等を行う株式会社。
本件取締役の勤続年数は17年(争点となりましたが)。
平成19年4月~平成24年12月までの役員報酬は月額25万円。
平成25年1月11日に最終月額報酬を100万円とする遡及増額決議を行った。
支給退職給与は2億7000万円。
税務署長による更正処分は、役員退職給与の適正額は6250万0672円であり、2億0749万9328円は、不相当に高額な部分の金額に該当するとした。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(判決)
(前提)
役員退職給与の適正額の算定方法としては、平均功績倍率法が採用されるのが裁判例の傾向であることはご存じかと思いますので、この部分は省略します。
本件では、平均功績倍率法は採用せず、一年当たり平均額法を採用しています。
どのような場合に一年当たり平均額法を採用するかについて、判決では、
一年当たり平均額法は、「最終月額報酬額が当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映しているとはいえないなど、功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には・・・合致する合理的な方法となり得る」としています。
そして、「功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情」については、次のように判示しています。
●本件元取締役は、遅くとも平成19年4月以降、役員報酬として月額25万円の支給を受けていたが、・・・退任の後である平成25年1月11日に、役員報酬の遡及的な追加支給がされ、その最終月額報酬額は、月額25万円の4倍に上る月額100万円とされたものである(本件遡及増額)。
●これは、専ら本件役員退職給与の額の算定根拠を整える目的で決定及び支給されたものといわざるを得ない。
その上で、一年当たり平均額法を採用し、次のように計算しました。
「1年当たり役員退職給与額の平均額及び本件役員退職給与適正額は、それぞれ、192万2538円(1円未満切上げ)、3268万2976円となり、本件役員退職給与の額2億7000万円のうち、上記の本件役員退職給与適正額を超える2億3731万7024円が不相当に高額な部分の金額となる。」
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ポイントしては、
・最終月額報酬額が当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映していると認められる場合は、役員退職給与の過大性の計算は、平均功績倍率法で行う。
・最終月額報酬額が当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映しているとはいえないなど、功績倍率を用いた方法によることが不合理であると認められる特段の事情がある場合には、一年当たり平均額法で計算する。
・平均功績倍率法での役員退職給与を高額にする目的で最終報酬月額のみを増額すると、上記特段の事情として認定され、平均功績倍率法が排斥される可能性が高い
ということになります。
税理士として、「最終報酬月額を増額すれば高額の退職金を出せますよ」などと、くれぐれも助言しないように注意しましょう。
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