大阪地裁令和元年10月25日判決(TAINS Z269-13330)のご紹介です。
柔道整復師の専門学校に支払った授業料が個人事業の必要経費になるかどうかが争われた事例です。
(事案)
個人で整骨院を開業する納税者が、柔道整復師養成の専門学校に通学し、その授業料等を事業所得の必要経費に算入して平成25年分及び平成26年分の所得税等の確定申告をしました。
税務署長は、本件支払額は家事上の経費に該当し、必要経費に算入されないとして、更正処分及び過少申告加算税を賦課しました。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(判決)
【判断枠組み】
●(個別対応の費用かどうか)本件支払額は、原告が免許を取得するために本件学校に対して支払った学費等の納入金であって、原告が本件各年分に行っていた事業により得る収入に直接対応する支出ではないため、事業による収入を得るため直接に要した費用(個別対応の費用)でないことは明らかである
●(期間対応の費用かどうか)ある費用が事業所得の金額の計算上、期間対応の費用に該当し、必要経費として控除されるためには、当該費用が、所得を生ずべき業務と関連し、かつ、その遂行上必要なものであることを要するものと解される
●業務との関連性及びその遂行上の必要性の有無については、
(ア)当該業務の具体的な内容、性質等を前提として、
(イ)事業者が当該費用を支出した目的、
(ウ)当該支出が、当該業務に有益なものとして収入の維持又は増加をもたらす効果の有無及び程度(その判断に当たっては、当該支出が、当該業務に係る収入の維持又は増加ではなく、むしろ所得に含まれない人的資本の価値の維持又は増加をもたらすものであるか否かも考慮すべきである。)
等の諸事情を考慮して判断することが相当である。
【当てはめ】
●原告は、本件各年当時、自らは免許を有さずに柔道整復に該当しないカイロプラクティック等を行うとともに、柔道整復師を雇用して柔道整復を行わせるという形態の事業を営んでいた
●自らが免許を取得して柔道整復を行うことで本件接骨院の経営の安定及び事業拡大を図ることを目的として本件支払額を支出したものということができる
●しかしながら、本件支払額は、本件各年当時において、前記の形態の事業による収入の維持又は増加をもたらす効果を有するものではない
●原告が本件各年後に柔道整復を業として行うことにより収入を維持又は増加させる効果を有するとしても、その事業は、原告が、施術所の開設には不要な業務独占資格である免許を自ら取得した上で柔道整復を行う点において、前記の形態の事業と大きく異なったものとなる一方で、本件支払額は、業務独占資格を獲得するという所得に含まれない人的資本の価値増加を得る効果を有するものであるということができる。
●そうすると、本件支払額は、本件各年当時における原告の所得を生ずべき業務と関連し、かつ、その遂行上必要なものであると認めることはできない。
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以上です。
個人事業で整骨院を営む者が、今後の業務の維持・拡大のために柔道整復師の専門学校に支払った授業料の必要経費性が否定されたものです。
業務に関連するか、といえば、関連するわけですが、裁判所は、「個別対応」、「期間対応」についてそれぞれ検討の上、これを否定しました。
うっかり必要経費に入れないように、個別の検討が必要なところだと思います。
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