家族で行っている事業による収益が誰に帰属するかが争われた津地方裁判所令和2年10月1日判決をご紹介します。
(事案)
・鉄道軌道保守工事業(A)を、原告、原告の父(乙)で行い、原告の母(丙)が経理を担当していた。
・原告は、収入を除外して過少な申告をしたとして、課税庁から更正、重加算税賦課決定等を受けた。
・原告は、当該収入は、父(乙)に帰属するとして争った。
(判決)
・事業所得は、事業から生ずる収益の帰属する者が納税義務者となり、消費税についても、当該資産の譲渡等に係る対価の帰属者が当該資産の譲渡等を行った者として納税義務者となるもので、誰に収益ないし対価が帰属するかについては、実質上、誰がその収益ないし対価を享受するかによって判断すべきであるから(所得税法12条、消費税法13条1項)、当該事業における名義のみならず、A(屋号)の実態、事業に必要な資産の調達状況、事業における収支の管理状況などの事業の運営に関する諸事情を総合考慮し、実質的に自己の計算において事業を経営し、その収益ないし対価を享受していると認められる者が誰であるかを判断すべきである。
・本件事業は、その発端は、乙(父)の人脈で獲得した事業であり、乙が連絡先となっていたり、取引先との会議に出席するなどしたことにより、取引先の中には乙が経営者であると認識する者もいたが、原告が経営者であり、乙は顧問やアドバイザーであると認識する者もいたし、原告が会議等に出席することにより、原告に本件事業が任されたと認識する者もいた。
・現場での具体的な指示は、Aの現場責任者である原告が主に行い、従業員の給与等は、原告と乙が相談をして決め、従業員の採用は、乙及び原告が各々で決めていた。
・原告は、本件事業において利用されていた事務所や資材の置き場となる本件土地の取得に当たり、購入資金を金融機関から自らの責任において借り入れ、原告名義で売買契約を結び、所有権移転登記をしている。
・原告は、本件事業に利用する本件重機についても、自ら選定をし、原告の責任において金融機関から借り入れを受けた上で購入している。
・本件事業における収益については、iの創業当初から一貫して原告名義の口座に振り込まれている。
→以上より、Aの事業による収益ないし対価の帰属先は、原告であると判断される。
重加算税の点については、原告が経理を母(丙)に任せていたことから、母による隠蔽又は仮装は原告の行為と同視できるとして、重加算税賦課決定を適法としました。
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以上です。
親子で事業を営んでいるような場合において、事業による収入が誰に帰属するのか、迷う場合があると思います。
そのような場合において、本判決が参考になります。
本判決では、
・事業の名義
・資産の調達状況
・収支の管理
・人事労務管理
を判断要素としました。
国税不服審判所平成3年11月14日裁決は、次の要素を判断基準としています。
・建物は誰の名義で所有又は賃借されているか
・売上金の管理は誰が行っているか
・仕入れ等の交渉、契約は誰が行っているか
・経営方針、人事等の決定は誰が行っているか
・重要な設備は誰が費用負担をしているか
これらの要素を参考にして、所得の帰属者を判断していくとになるかと思います。
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