運転手に対する給与の支払いを外注費にしたところ、税務調査で否認された裁判例を解説します。
運送業の顧問先を持っている税理士は、相談を受けることがあるのではないでしょうか。
札幌高裁令和2年11月12日判決です。
(事案)
控訴人(原告)は、牛乳の集荷事業及び北海道内における一般貨物自動車運送業を営む株式会社である。
控訴人は、一般従業員とは別に「償却制社員」と呼ばれる運転手を設定し、運転手の出来高に応じて、金員を支給していたが、給与でないことを前提として、源泉所得税等を徴収しなかった。
課税庁は、税務調査の結果、給与であると認定し、納税告知処分等を行った。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(判決)
(1)独立性、代替性
控訴人では、償却制社員が担当業務を他の運転手に依頼することが許容されていると認められる。
これによれば、控訴人の償却制社員は、雇用契約社員と比較して独立性を有していたといえる。
もっとも、本件において、控訴人の償却制社員が他の運転手に仕事を依頼することが常態化していたとは認められない。
償却制社員は、雇用契約社員と異なり、ジョルダー、パレットローラー、ベバストヒーター、スタッドレスタイヤ等運送業務に不可欠な用具を自ら所有していることが認められる。
これは、控訴人の償却制社員が雇用契約社員と比較して独立性を有していることを示す事情といえる。
控訴人では、償却制社員はトレーラーヘッドの償却が終了するまでは専属の運転手として控訴人の運送業務を行うことが予定されていた。
本件各運転手は、いずれも貨物自動車運送事業の許可を得ておらず、独立した事業者として運送事業を行える立場になかった。
以上の点を総合考慮すると、独立性の程度は大きいとはいえない。
(2)時間的・空間的拘束
控訴人は運転手に対し、業務の端緒として集荷先や荷物の数量、到着時間や積込みに関する指示が記載された運行指示書や発注書を送付して指示を行っていた。
業務の前後で点呼を行うとともに、業務遂行の支障となる事情がある場合には当該運転手に委ねずに他の運転手や外注先に依頼していた。
控訴人は、運送業務が終わった後も、本件各運転手に対し、雇用契約社員と同様、タコグラフのチャート紙のほか、乗務の開始・到着の場所や時刻、乗務キロ数や荷物の内容といった業務の結果に関する事項のほか、「労働時間」や「拘束時間」といった欄のある乗務日報を提出させていた。
本件各運転手には、原告から、雇用契約社員と異ならない程度の指揮監督が及び、かつ、原告から時間的・空間的拘束を受けていたものというべきである。
(結論)
自己の危険と計算によらず、控訴人の指揮命令に服して労務を提供していたというべきである。
したがって、本件各金員が所得税法28条1項の給与等に該当しないとの控訴人の主張は認められない。
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以上です。
上記裁判例においては、特に、独立性を有していたか、時間的・空間的拘束を受けていたか、という点を重視して、運転手が指揮監督関係にあるかどうかを判断しています。
給与か外注費かを判断するについては、下記最高裁判決の基準に当てはめて検討することになるかと思います。
(ア)空間的、時間的な拘束を受けているか
(イ)継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしており、当該所得がその対価として支給されるものか
(ウ)使用者の指揮命令に服しているか
(エ)用具等を使用者から提供されているかどうか
(オ)危険負担や費用負担の所在
などといった要素を考慮して総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和56年4月24日)。
消費税基本通達1-1-1は、「出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分」の判断基準です。
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(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
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