税理士事務所のM&Aに関する所得税が争われた裁判例をご紹介します。
静岡地裁平成25年5月10日判決です。
個人で税理士業務を営んでいた譲渡人税理士が、その税理士業務を税理士法人に譲渡し、その対価を譲渡所得に該当するとして平成22年分所得税の確定申告を行ったところ、処分行政庁から上記対価は雑所得に該当するとして更正処分を受けた事案です。
譲渡する側としては、税理士業務は、事業を譲渡した、という意識になるのは当然のことだと思います。
その前提で、総合長期譲渡所得として所得税確定申告をしたものです。
ところが、裁判所は、譲渡対価は、「雑所得」である、と認定しました。
【理由】
●税理士の行う業務は、個々の税理士の人格識見をはじめ、その有する専門的知識、経験、法律的・経験的技能等に対する顧問先の信頼を前提に、守秘義務の下での顧問先の会計事情等についての率直な意見交換等に基づいて確立される個人的信頼関係に基礎を置くものである。
→一身専属性の高い業務というべきである。
→税理士業務は、他の税理士に譲渡できるような性質のものではなく、本件業務譲渡も譲渡人税理士が税理士法人に顧問先を紹介ないしあっせんしたものと解するのが相当である。
●各契約書の定めによれば、本件業務譲渡対価に譲渡人税理士が個人で経営していた税理士業に係る資産及び備品を引き継ぐことによる対価あるいはリース契約及び賃貸借契約の契約者としての地位を引き継ぐことによる対価に相当する部分が含まれていない。
●対価は、確実に税理士法人へ承継されると判断される顧問先を抽出し、その年間の顧問料等を合計した金額が4000万円と算定されたことから本件業務対価を4000万円と定めた。
●業務譲渡対価の算定に当たっては、譲渡人税理士の事務所で勤務していた事務員を引き継いで雇用することによる付加価値は加味していない。
●税理士法人は、業務譲渡対価を顧問先を紹介してもらう市場開発費として経理処理している。
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というものです。
本判例では、「税理士の業務は、一身専属性の高い業務」であることを強調して譲渡所得ではなく、雑所得であると判断されました。
国税庁の見解も同様です。
https://tinyurl.com/k747c35
しかし、この結論には疑問です。
税理士業務は、税理士法人が受託することもあり、その場合には、顧問先との関係は、対法人となり、担当税理士変更等もあるので、一身専属性はありません。
税理士法人が事業譲渡の形で事業を譲渡した場合との整合性をどう取るのか、という問題点があります。
最高裁昭和51年7月13日判決によると、「営業権とは、当該企業の長年の伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業利益を獲得する無形の財産的価値を有する事実関係である」とされています。
したがって、この定義に該当するような状況を整えれば、営業権の譲渡とされる可能性があるのではないか、と考えるものです。
もし、事務所のM&Aを検討されている先生がいらっしゃったら、本判決のような結論にならないよう、きちんと状況証拠を整えた上で行い、戦ってみましょう。
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