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弁護士法人みらい総合法律事務所

麻酔科医の所得区分(税務訴訟)

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
 代表社員 弁護士 谷原誠

最終更新日 2024年7月29日

今回は、事業所得と給与所得の区別に関する裁判例をご紹介します。

東京地裁平成24年9月21日判決です。

(事案)

●納税者は、麻酔科医で、複数の病院から得てい個人の所得を麻酔科医師業の業務委託に基づく事業所得であるとして所得税の確定申告をしていたものです。

●税務署は、これを給与所得であると認定し、更正処分をしました。

●納税者は、各病院から手術室における麻酔を受託しており、麻酔医療を実施するか否かを含め、麻酔医療という役務を提供するにつき、病院の誰からも指揮命令・監督を受ける立場にないと主張しました。

(判決)

<一般論>

●事業所得の本質は、自己の計算と危険において独立して反復継続して営まれる業務から生ずる所得である点にあり、給与所得の本質は、自己の計算と危険によらず、非独立的労務、すなわち使用者の指揮命令ないし空間的、時間的な拘束に服して提供した労務自体の対価として使用者から受ける給付である点にあると考えられる。

●事業所得に該当するか、給与所得に該当するかは、以下の点を総合的に考慮する。

・自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているかどうか、すなわち経済的活動の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰属するか

・費用が収益を上回る場合などのリスクを誰が負担するか

・遂行する経済的活動が他者の指揮命令を受けて行うものであるか否か

・経済的活動が何らかの空間的、時間的拘束を受けて行われるものであるか否か

<事案への当てはめ>

●納税者に対しては、原則として定額の報酬が支払われている。

●医療行為等に対する対価として患者や公的医療保険から病院に支払われる診療報酬の金額の多寡に応じて納税者に対する報酬が変動する報酬体系にはなっていない。

●麻酔業務から生ずる費用は、基本的に病院が負担しており、納税者は費用が収益を上回る危険を負担していない。

●納税者は、麻酔を担当する前日に、病院からファクシミリ送信の方法により、患者数や各手術の内容等の情報の提供を受けてこれに従っていたことが認められ、このような麻酔という業務を行う対象、場所、時間など業務の一般的な態様について病院の指揮命令に服していたものと認められる。

●納税者の業務は、病院の経営する病院内で術中麻酔管理等を行うことであったこと、病院においては他の非常勤職員と同様に出勤簿で納税者の勤務時間を管理していたことがそれぞれ認められ、は病院の空間的、時間的拘束に服していたと認められる。

<結論>

●所得税法28条1項に規定する給与所得に当る。

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以上です。

個人の所得が事業所得に該当するか、給与所得に該当するか、判断に迷う場面もあると思います。

大きなポイントは、

○自己の計算と危険において独立して反復継続して営まれる業務から生ずる所得か。

(事業所得)

○自己の計算と危険によらず、非独立的労務、すなわち使用者の指揮命令ないし空間的、時間的な拘束に服して提供した労務自体の対価として使用者から受ける給付であるか

(給与所得)

という点になります。

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