6月17日に公表された国税不服審判所の裁決の中から、重加算税賦課決定が取り消された事例をご紹介します。
令和元年10月4日裁決です。
従業員による詐取行為が法人の行為と同視されて重加算税が課せられるケースがあると思いますが、その際の適法性判断に参考になるものです。
(事案)
●主に建物の総合管理の請負を業とする法人の従業員が、自分の妻を外注先とする架空外注費を請求する請求書を作成し、自社に提出した。
●上記請求書に従って法人が外注費を支払った。
●税務調査により、本件外注費が否認され、当該過少申告は、従業員による隠蔽又は仮装により行われたものであるとして、重加算税賦課決定がされた。
●請求人は、国税不服審判所に審査請求をした。
(裁決)
【結論】
●従業員の行為は、法人の行為と同視できないとして、重加算税賦課決定を取り消した。
【理由】
●本件従業員は、法人の経営に参画することや、経理業務に関与することのない一使用人であったと認められる。
●本件仮装行為は、法人の業務の一環として行われたものではなく、本件従業員が私的費用に充てるための金員を法人から詐取するために独断で行ったものであると認められる。
●本件従業員に対する法人の管理・監督が十分ではなかったが、それを本件仮装行為を発覚できなかったことをもって、本件仮装行為を請求人の行為と同視することは相当ではない。
====================
法人の代表者以外の者が行った隠蔽又は仮装行為で重加算税を賦課される場合のポイントは、その者が行った隠蔽又は仮装行為を
【法人の行為と同視できるか」
という点になります。
そのための判断基準が、
・その者の地位
・その者の権限
・法人の業務として行ったか
・使用者の管理・監督
・使用者が知り得たか
など、ということになります。
本件では、上記の点を検討し、「同視できない」という結論になっています。
反対に、令和元年6月20日裁決では、
●専務取締役が
●外注先に対して架空の請求書を発行するよう依頼した
事案において、
●相応の地位と権限がある
●法人の業務として行った依頼行為
●代表者から取引先との交渉を一任されていた
という理由から、法人の行為と「同視できる」とされています。
最後に、国税庁の見解をご紹介しておきます。
「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月 大阪国税局 法人課税課、TAINS H250400課税処分留意点、179頁)
「代表権を有する者が行った不正行為は会社の行為となるが、その他の会社関係者が行った不正行為の結果、過少申告が生じた場合であっても、その不正行為を会社の行為と同視して重加算税を賦課できる場合がある。従業員であっても、会社の主要な業務を任され、長期にわたる不正や多額な不正など会社が通常の注意をすれば容易に発見できる不正行為を管理監督しなかったために、これを見過ごし、結果としてこれを起因とする過少申告が生じた場合には、会社の行為と同視することができる」
重加算税の適法性に疑問が生じた場合には、ご相談ください。
重加算税、国税不服審判所に対する審査請求・税務訴訟は、ご相談ください。