取締役会議事録及び株主総会議事録がないことから、退職慰労金支給決議がないとして、税務調査で損金算入が否認された裁判例をご紹介します。
東京地裁平成27年2月26日判決(TAINS Z265-12613)です。
(事案)
・平成19年8月4日株主総会決議、同月10日取締役会決議(原告の主張、国側は否認)
・平成19年8月31日、退職慰労金の一部として、7500万円支払
・平成20年8月29日、退職慰労金の一部として、1億2500万円
・平成22年4月13日、税務調査開始
・平成22年6月3日、取締役会を開催し、本件退職慰労金の額を2億5000万円から2億2000万円に減額する旨の決議をした。
・平成24年8月7日付けの株主総会議事録及び取締役会議事録(税務調査の後に作成)
会社法361条により、退職慰労金の支給は、定款の定めがない場合には、株主総会決議によって定めなければならない、とされています。
税務署は、この規定を根拠に否認した、ということになります。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起しました。
(争点)
取締役会決議及び株主総会決議があったか。
議事録は作成されておらず、役員の手帳に、「5:00 家族 食事会」というメモがある程度でした。
課税庁は、議事録が作成されていないことが、取締役会決議及び株主総会決議がないことを強く推認させるものであると主張しました。
(判決)
裁判所は、会社として、退職慰労金を支給する意志決定をしたものと認め、納税者勝訴判決を出しました。
理由としては、
・原告は、本件計算書を平成19年8月10日に作成しており、本件計算書には、本件退職慰労金規程に沿った算定式、原告が本件役員に対して総額2億5000万円の退職慰労金を支給すること、本件退職慰労金を分割支給すること(7500万円を平成19年8月末日に支払い、残額を3年以内に支給すること)等が明記されている
・原告は、本件各金員を支給した際、L市役所に各分納報告書面を提出して、総額2億5000万円の退職慰労金を支給することを前提に総額を算定した上で、現実の支給額に応じて案分計算した住民税及び所得税を納付(源泉徴収)している
ということでした。
======================
この裁判例からわかるように、会社法の規定によって、取締役会決議や株主総会決議が要件となっている場合、その議事録がない場合には、決議自体が存在しないものと認定される可能性があります。
最終的に、裁判で勝つかどうかは別として、少なくとも、法律の規定に則って議事録を作成し、会社に保存しておくことが望まれます。
そのために、税理士はその旨適時適切に助言することが大切です。
税務訴訟は、ご相談ください。