不法行為に基づく損害賠償請求権の益金計上時期についての東京高裁平成21年2月18日判決(TAINS Z259-11144)です。
(事案)
平成16年4月に、X法人に対する税務調査で、架空外注費の損金計上が発覚した。
調査の結果、経理部長Aの詐取行為であることが判明した。
調査の結果、平成9年9月から平成16年3月までの間に、約1億9000万円詐取したことが判明したため、平成16年9月に損害賠償請求訴訟を提起し、同額の判決が確定した。
(争点)
損害賠償請求権を益金に計上すべき時期は、不法行為時か、その他の時期か?
(判決)
【原則】
本件各事業年度において詐取行為により被控訴人が受けた損失額を損金に計上すると同時に益金として損害賠償請求権の額を計上するのが原則
【例外】
本件各事業年度当時の客観的状況に照らすと、通常人を基準にしても、本件損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるとすれば、当該事業年度の益金に計上しない取扱いが許される
【あてはめ】
詐取行為は、経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際に乙が持参した正規の振込依頼書をチェックすれば容易に発覚する。
決算期等において、会計資料として保管されていた請求書と外注費として支払った金額とを照合すれば、容易に発覚。
【結論】
通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にない。
各事業年度において益金に計上すべき。
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以上です。
通常人を基準にして、
・本件損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、
・権利行使が期待できない
場合には、例外的に不法行為のあった時の事業年度に計上しないことができる、ということになりますが、あてはめでやや厳しめに判断されることに注意が必要です。
安易に「それは知り得なかったですね」と判断すると、誤ることがある、ということです。
なお、本件は社内の者でしたが、社外の「他の者」からの不法行為の場合には、法人税基本通達2-1-43があります。
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他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。
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参考記事:税務訴訟を弁護士に相談・依頼するメリット