今回は、税理士が顧客のために、どこまで書類を準備する義務を負うかが争われた損害賠償事案について解説します。
最高裁平成7年6月23日判決です。
(事案)
原告個人は、所有する不動産を昭和60年5月から昭和61年9月まで5回にわたり、約3600万円で売却。
原告個人は、売却代金を娘が設立したA社の経営するジャズ喫茶の店舗賃貸借資金に投入した。
店舗賃貸借名義及び設備購入の領収書名義は、A社。
原告個人は、設備投資に関して、租税特別措置法31条、37条の買換資産の特例(買換資産の特例)の適用を受けられなかった。
被告税理士が適切に助言指導をしていれば買換資産の特例が受けられたとして損害賠償請求。
(判決)
税務申告のための被告の税務指導は、昭和61年9月以降に始まった。
上記時点では、すでに事業用資産の譲渡及び買換資産の取得が完了。
領収書の名義の問題については、被上告人である税理士は、遅くても昭和61年10月ころには、原告に対して指摘・指導をしていたが、自ら領収書の名義を変えるよう代行するなどの行為はしなかった。
税理士は、事実を歪曲するような書類を準備するまでの債務は負担せず、むしろ、原告が買換特例の適用を受けるために十分な書類を取り揃える必要があり、税理士の契約上の義務としては、右の名義の点の指摘・指導で十分であると言え、その指摘・指導の時期が遅すぎたと認めるに足りる事情は何ら存しない。
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結論としては、当然というべきです。
本件では、税理士が領収書の名義について顧客に指摘・指導をしていたことが認定されましたが、ここの立証が難しいケースも多いので、証拠化は常に心がける必要があります。
また、本件のような場合に、安易に領収書の名義を書き換えたりすると、別の問題として、懲戒処分を受ける可能性があります。
過去事例では、以下のような事例がありました。
被処分者は、関与先であるA社の法人税の確定申告にあたり、開催されていない臨時株主総会において、決算期が5月から3月に変更されたと偽装することによって、4月および5月に生じた収益を除外し、所得金額を圧縮した事実に反する申告書を作成した。
注意が必要です。
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