決算未確定の状況において、「仮」申告書を提出した場合において、当該申告が法律上有効かどうかが争われた大阪高裁昭和53年6月29日判決(税務訴訟)をご紹介します。
(事案)
納税者(原告、被控訴人)は、国税局から強制調査を受け、帳簿類を押収されたことから、決算の確定ができず、昭和47年度分(昭和47年4月1日から同48年3月31日までの事業年度分。以下、これに準ずる。)法人税確定申告及び昭和48年度分法人税確定申告ができない状態であった。
そこで、税務署長に対し、申告期限延長申請をしたところ、控訴人は同年5月30日本件各申請を却下する旨の各処分をした。
そこで被控訴人は処分取消訴訟を提起した。
訴訟に先立ち、被控訴人は、税務署に対して相談したところ、「できる範囲で概算して申告せよ。」との教示があったことから、被控訴人の昭和47年度分法人税につき昭和48年10月1日「添付書」と題する書面の添付された「仮申告書」と題する書面を、被控訴人の昭和48年度分法人税につき、昭和49年5月31日「確定申告書」及び同年6月7日「添付書」と題する書面をそれぞれ提出した。
「添付書」には、各申告書は一部省略あるいは概算の決算に基づく申告で、将来押収された書類が返還された場合、修正申告もしくは更正の請求の必要性が起こると予想される旨の記載があった。
(関係法令)
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法人税法第74条
内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
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(判決)
「仮」申告書と表示されている点を除けば、いずれも法人税法施行規則に定められた法人税確定申告書の書式を用いて、法人税法74条所定の記載事項が記載されている、適式の確定申告書である。
その内容の点でも、申告者である被控訴人において、帳簿類等が押収されていて正確な決算ができない事情にあつたとはいえ、可能な限りでの決算資料に基づいて算出計上した概算の決算に基づく数字を記載し、可能な範囲の必要書類を添付したものであるということができる。
右各申告書によつて、その時点での各年度分の税額を確定して還付金の還付を受ける意図を有していたものとみうることも明らか。
将来、決算資料の押収が解かれるなどすることによつて決算の誤りが判明したときは、右各申告書を基礎としつつ修正申告や更正の請求等の所定の手続をとることをも意図していたことが明らかである。
右各申告書の提出は、いずれも、被控訴人が当該年度分についての法人税の確定申告をする意思に基づいて適式にしたものであり(前記のような概算の決算に基づく確定申告も法の許容する適法な申告とみうることは、国税通則法施行令6条1項3号の規定に照らして明らかである。)、控訴人においてもこれを右の趣旨の申告書として受理したものということができ、有効な確定申告というべきである。
※訴訟の結論としては、有効な申告書である以上、申告期限延長申請の却下処分を争う訴えの利益がないとして、却下。
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以上です。
本件では、概算による申告を有効としました。
しかし、以下のような裁判例もあります。
平成19年1月16日福岡地裁判決です。
「決算がなされていない状態で概算に基づき確定申告がなされた場合は無効にならざるを得ないが、会社が、年度末において、総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に決算を行って決算書類を作成し、これに基づいて確定申告した場合は、当該決算書類につき株主総会又は社員総会の承認が得られていなくても、確定申告は無効とはならず、有効と解すべきである。」
概算による申告を無効としています。
そこで、原則として決算を確定させて申告をすることとし、決算が確定していなかったとしても、総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に決算を行って決算書類を作成し、これに基づいて確定申告した場合は、有効な確定申告となる可能性があります。
そして、概算による申告は原則として無効であるが、本件のような特別の事情がある場合は概算申告でも有効となる可能性がある、という整理になると思います。