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弁護士法人みらい総合法律事務所

税理士の相続税のミスによる損害賠償責任

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
 代表社員 弁護士 谷原誠

最終更新日 2024年10月21日

はじめに

相続が発生した時、相続税の申告が必要になる場合がありますが、相続人本人が自ら相続税申告を行うことは困難です。

そこで、税務の専門家である税理士に依頼をし、相続人に代わって財産評価や申告手続きを行ってもらうわけですが、税理士によるミスで、過大申告になり、あるいは、加算税・延滞税が発生することによって相続人に損害が発生するケースがあります。

このような、税理士の相続税のミスによって相続人に損害が発生した場合に、税理士がいかなる責任を負うのか、その損害賠償責任について解説します。

税理士による相続税申告ミスの具体例とその影響

助言のミス

税理士は、税務の専門家として、善管注意義務に基づき、依頼者に対して関連税法及び実務に関して、有益な情報および不利益な情報を提供することによって、依頼者が適切に判断できるようにしなければならないという説明助言義務を負っています。
この助言義務に違反して、①助言を怠り、または、②誤った助言をしたことによって相続人が損害を被った場合は、損害賠償責任を負担します。

例えば、海外に有する財産も相続税の課税対象になるのに、その助言を怠った場合、課税上もっと有利な遺産分割方法があるのに、不利な遺産分割方法を助言した場合、などがこれに該当します。

参考記事:税理士損害賠償請求事例を弁護士解説(助言義務)

財産評価におけるミス

不動産や非上場株式の評価が誤った場合、申告後に税務署から指摘を受けることがあります。不動産や非上場株式の評価は専門性が高く、ここでのミスが過少申告の原因となることがあります。修正申告の結果、多額の加算税・延滞税が発生する場合もあります。

三段論法のミス

相続税申告をするためには、相続税法関連法令や民法等の法令の解釈・事実認定・事実を法令に当てはめる、という法的三段論法を適用する必要があります。

このプロセスにおいて、

・法令解釈

・事実認定

・あてはめ

の一つでも間違いがあると、相続税申告に誤りが生じ、納税者に損害が発生する可能性があります。

特例・控除の適用漏れ

小規模宅地の特例による土地の評価額を減額できる特例について、条件を満たしていても税理士が見落とし、あるいは、要件を満たすことができたのに税理士が適切に助言をしないことによって要件を満たさず、特例等の適用ができなくなることがあります。

このような場合に、税理士の善管注意義務違反として損害賠償責任が発生するケースがあります。

申告期限の途過・納付ミス

税理士の業務懈怠や手続きミスにより申告期限を守れなかった場合、期限後申告となり、無申告加算税、延滞税が課せられます。また、相続税は原則として現金納付をしなければなりませんが、相続財産に不動産などが多く、現預金が少ない場合には、現金納付ができない場合があり、このような場合に備え、延納・物納という制度があります。

しかし、税理士が延納・物納に関する助言をしないことにより、相続人が相続税を納付できず、延滞税を課せられるケースもあり、この場合、税理士が損害賠償責任を負担する場合があります。

相続人の立場:損害賠償請求の手順

問題発覚後の初期対応

税理士の相続税のミスの発覚の端緒としては、
・税理士から説明を受ける。
・税務調査で発覚する。
・他の税理士から指摘を受ける。
・相続人が気づく。
などがあります。

まず、相続税申告を担当した税理士が後日、自らのミスに気づき、それを相続人に説明することにより税理士のミスが発覚することがあります。

次に、相続税申告の後、税務調査があり、その税務調査によって税理士のミスが発覚することがあります。東京地裁平成24年1月30日判決(判例時報2151号36頁)は、海外財産を相続財産から漏らした事例ですが、税務調査により海外財産の存在が発覚し、税理士が助言しなかったことが善管注意義務に反するかどうかが争われました。

次に、他の税理士から指摘を受けるケースがあります。相続税に関して依頼した税理士とは別の税理士が改めて相続税申告の内容を検討した結果、相続税を担当した税理のミスを発見するような場合です。

最後に、相続人が自ら税理士のミスを発見するケースもあります。

相続税申告は専門性が高く、相続人自らが税理士のミスを発見することは容易ではないのですが、たまたまテレビや雑誌で見た、知人から聞いた話と自分の場合が違う、などにより発覚する場合もあります。

交渉による解決

税理士の相続税のミスが発覚した場合、まずは相続人と税理士との間で話し合いをし、解決を図ろうとするケースが多いです。

しかし、税理士に善管注意義務があったか、それによる損害はいくらになるのか、相続人側の過失割合はないのか、など、税理士損害賠償問題は高度な法律問題です。

税理士が自らミスを認めて金額の話し合いになれば解決の可能性がありますが、そうでない場合は、解決が困難となります。

弁護士への相談と依頼

税理士損害賠償の問題は法律問題です。そこで、相続人は弁護士に相談することが多いです。

しかし、ここで注意すべき点があります。税理士損害賠償の問題は、弁護士全員が扱える問題ではない、という点です。税理士損害賠償請求事件は、
・税法の知識
・損害賠償法の知識
・税理士の業務プロセスの知識
がなければ、適切な攻撃防御ができない分野であり、弁護士の中でも専門性の高い分野です。

したがって、税理士損害賠償問題に直面した相続人及び税理士は、双方とも、税理士損害賠償問題に精通した弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

弁護士に依頼した場合は、多くの場合に、内容証明郵便により税理士に対して損害賠償の請求をし、そこから話し合いが始まります。

話し合いがまとまれば、合意書を締結して支払って終わりですが、交渉が決裂すると、裁判による解決となります。

税理士の立場:相続税ミスへの対応

ミスが発覚した際の初動対応

税理士は、前述のような経緯でミスが発覚した際には迅速に相続人に説明し、誠実に対応することが求められます。

但し、拙速に自らのミスを認めて全額賠償することはおすすめしません。

税理士損害賠償問題は、法律問題であり、税理士に法律上損害賠償責任が発生した場合に、責任がある限度において賠償責任があるに過ぎないためです。

税理士が自らの責任だと思ったとしても、法律的にみると、相続人の自己責任である場合もあるということを憶えておいていただきたいと思います。

そこで、法律上の責任の有無を検討するため、まずは事実関係を整理し、その事実関係に関連する証拠を収集するようにします。

税賠保険への報告

税理士職業賠償責任保険に加入している場合は、保険事故が発生した場合は保険会社に報告することが求められていますので、一報を入れておきます。

後日、報告書を税賠保険会社に提出することになりますが、事実関係を整理しないと報告書は書けないので、取り急ぎ一報だけ入れておくことになります。

参考記事:税理士職業賠償責任保険がおりない場合の対応

弁護士への相談・依頼

税理士損害賠償問題は、高度な法律問題となります。

したがって、安易に自分で解決しようとせず、税理士損害賠償問題に精通した弁護士に相談しながら、あるいは、代理人として依頼して解決するようにおすすめします。

参考記事:税理士がミスをして損害賠償請求を受けた時の対応を弁護士解説

判例から学ぶ:相続税業務における税理士損害賠償責任

法令調査の誤り

東京地裁平成26年2月13日判決は、相続税申告業務において、税理士は、相続人の1人がアメリカ合衆国に帰化しても日本国籍を喪失していないことを前提として制限納税義務者に該当するとして相続税申告をしたところ、税務調査により日本国籍を喪失していたことが発覚した事案です。

この事案で、裁判所は、「税務の専門家としては、一般人であれば相続人が日本国籍を有しない制限納税義務者であるとの疑いを持つに足りる事実を認識した場合には、相続人が日本国籍を有するか否かに ついて確認すべき義務を負う。」として、国籍法を確認せずに相続税申告をした税理士の損害賠償責任を認めました。

有利選択義務違反

東京地裁平成30年2月19日判決(TAINS Z999-0172)は、相続人間で遺留分に関する争いがある状態で相続人の一人から相続税申告業務を受任し、相続税申告をした事案です。

税理士は、未分割として法定相続分に従った相続税申告を行い、同時に「申告期限3年以内の分割見込書」を提出して後日の更正請求を可能にする手続きを行い、全員分の相続税を相続財産の中から支出しました。

依頼者は、自分が支出した他の相続人分の相続税額その他の損害を被ったとして損害賠償請求をした事案です。

この事案において、裁判所は、税理士としては、
(1)小規模宅地等の特例を適用することなく法定相続分に従った共同相続として申告を行い、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することにより、後日の更正請求を可能にしておく、

(2)遺留分減殺請求を考慮することなく遺言により全財産を相続したものとして申告し、小規模宅地等の特例を適用した上で、遺留分減殺が解決した後に更正請求をする、

のいずれかの方法を選択することになるものとした上で、本件のように(1)の方法を採用する場合は、後日依頼者に損害が発生する可能性があるので、リスクの存在について十分に説明した上で原告の同意を得て行う必要があったとして税理士の損害賠償責任を認めました。

延納手続の助言義務違反

東京高裁平成7年6月19日判決(判例時報1540・48頁)は、相続税の修正申告を受任した税理士が、相続人が納税できない場合に備え、延納許可手続の説明をしなかったことを理由して損害賠償請求を受けた事案です。

この事案において、裁判所は、「相続税の納付がいつ必要であるのかを相続人に説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には、延納許可申請の手続をするか  どうかについて意思を確認するのは、相続税の確定申告に付随する義務」であるとして、税理士の損害賠償責任を認めました。

まとめ

相続税申告のミスによる損害賠償は、相続人にとっても税理士にとっても大きな負担を伴います。税理士は、専門家としての責任を自覚し、正確な業務を遂行することが求められます。

税理士の相続税業務のミスで相続人に損害が発生した場合、税理士損害賠償問題は高度の法律問題となりますので、相続人・税理士双方とも、税理士損害賠償問題に精通した弁護士に相談・依頼して適切に解決を図るようおすすめします。

参考記事:税理士損害賠償に強い弁護士の探し方

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