今回は、個別対応方式と一括比例配分方式の説明義務違反で税理士損害賠償となった裁判例を解説します。
東京地裁平成15年11月28日判決(Z999-0099)です。
(事案)
被告は、税理士として、原告から、平成7年度から平成12年度まで原告の法人税、消費税等の申告業務について委任を受け、確定申告を行った。
原告は、平成11年度まで、消費税等の確定申告において、課税売上割合が95パーセント以上であったので、控除税額は全額控除方式によって計算していた。
被告は、平成13年4月2日に原告の平成12年度の消費税及び地方消費税の確定申告をした際、課税売上割合が95パーセント未満(94.9パーセント)であったが、原告に対して説明・問い合わせをすることなく、控除税額の計算方法として一括比例配分方式を選択したので、平成13年度(平成13年2月1日~平成14年1月31日)の申告においても一括比例配分方式が強制適用されることとなった。
原告は、平成13年2月9日、所有不動産を21億5000万円で売却した。
原告は、平成13年度の申告において、一括比例配分方式を選択して申告をしたため、個別対応方式で申告した場合に比べ、1367万4100円多く納税せざるを得なかった。
(判決)
被告は、原告の債権者である整理回収機構から原告が不動産の売却を求められていることを知っていた。
原告は、消費税及び地方消費税の計算方式について、個別計算方式と一括比例配分方式を選択できる場合があり、選択方法によって税額が異なる場合があることを平成12年度申告時まで知らなかったし、被告税理士は一切説明しておらず、不動産売却について問い合わせもしなかった。
被告が平成12年度申告の際に原告に説明、問い合わせをしていれば、原告が本件不動産を売却していたことが伝えられ、消費税額を少なくするために個別対応方式が選択されたことは明白である。
⇒説明義務違反がある。(税理士敗訴)
これに対し、税理士は、
被告は、平成12年度の課税売上割合が94.9パーセントであり、わずか0.1パーセントのために膨大な区分作業を行うことは費用対効果の観点から、常識では考えられない、と主張しました。
しかし判決は、自らの事務を軽減するために簡便な方式を選択する場合には、その旨を委任者である原告に説明すべきであり、これを怠っている以上、被告の主張には理由がないとしました。
但し、3割の過失相殺がされています。
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税務では、複数の選択肢がある場面が多いですが、その際、有利不利の説明を怠り、税理士損害賠償となるケースがあります。
過去の裁判例では、税理士が複数の選択肢がある場合には、依頼者に最も有利な方法を選択しなければならないという有利選択義務が繰り返し判示されています。
また、依頼者と協議の上、不利な方法を選択する場合があると思いますが、その場合には、合理的でないため、後日、争いになった時、証拠がなければ税理士の説明と依頼者の承諾を証明することは困難です。
しっかりと証拠を残すようにしましょう。