国税不服審判所平成23年12月14日裁決です。
本件は、違法な税務調査の事案として取り上げられることが多いのですが、結論として、国税不服審判所は、税務調査の違法性を否定しています。
つまり、税務調査の違法を理由として処分を取り消したのではない、ということです。
本件は、以下が争点と結論です。
争点1 請求人が請求人の外国子会社に対する傭船料として未払金に計上した費用の負担額及び当該外貨建の未払金に係る為替差損額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができるか否か。
→ 算入できない。
争点2 請求人及び請求人の外国子会社と造船会社との間で船建造契約に係る船体価額を値上げするとした合意は、仮装の取引であるか否か。
→ 仮装の取引ではない。(取消)
争点3 請求人及び請求人の外国子会社と造船会社との間で船建造契約に係る船体価額を値上げするとした合意は、仮装の取引であるか否か。
→ 仮装の取引ではない。(取消)
争点4 更正処分に、理由附記の不備の違法があるか否か。
→ 理由附記の不備の違法がある。
争点5 請求人及び請求人の外国子会社が費用に計上した購入費は資産に計上すべきものであるか否か。
→ 費用である。(取消)
争点6 原処分庁が行った調査手続が不当か否か。
→ 本件更正処分等に係る税務調査手続をもって、直ちに違法又は不当なものとまではいうことができないから、当該税務調査手続の違法又は不当を理由に、本件更正処分等を違法又は不当として取り消すことはできない。
以下は、争点6に絞って解説します。
(前提)
「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている」(最高裁昭和48年7月10日決定)
(裁決の判断基準)
課税処分は、それが全く調査に基づかずにされたか、又は調査に重大な瑕疵があるため、全く調査に基づかずにされたのと同視し得べき場合に限って、当該課税処分自体が違法になるものと解される。
(威圧的な調査と認定された事実)
請求人の社屋に臨場した調査担当者が、応対した請求人の従業員らに対して、怒りをあらわにしたり、隣室で開催中の会議に支障を来たすほどの怒声を発したりした様子がうかがわれる
請求人の担当従業員に調査担当者の認識に添った内容の確認書を作成させたり、一部客観的事実に反する内容の回答を引き出したりした様子がうかがわれる
当該税務調査において、調査担当者の認識に沿う方向に進めようとして、いささか強引で、威圧的・誘導的な手法に訴える場面があった様子がうかがえる
(違法ではないとされた事実)
本件の臨場調査は、主に請求人の会議室で行われており、密室状態で行われたものではない
請求人においては、原則として経理グループに所属する従業員が複数名で調査に立会っていたと認められるのであって、当該税務調査が税務職員の権限を背景とした威圧的な雰囲気の下で行われたとしても、請求人において組織的に対応できる機会は十分に存した
(結論)
そうであるとすれば、本件更正処分等に係る税務調査手続をもって、直ちに違法又は不当なものとまではいうことができないから、当該税務調査手続の違法又は不当を理由に、本件更正処分等を違法又は不当として取り消すことはできない。
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以上です。
もちろん、税務調査の違法性が認定された事案(京都地裁平成12年2月25日判決)もあります。
この事案は、
・女性従業員の個人のバックを奪って内部を確認
・本店2階の居宅に駆け上がって寝室のタンスの中を掻き回す
・客の前でレジの中を調べる
などがありました。
本件でも、密室状態で複数人の調査官が1人に対して威圧的な態度で怒鳴ったりしたら、違法と判断されたかもしれません。
税理士としては、威圧的な調査があった場合には、統括官、税務署長への抗議、納税者支援調整官に対する苦情申し立て等が検討すべき場合があるでしょう。
https://www.nta.go.jp/about/introduction/shokai/kiko/nozeishashien/index.htm