はじめに
過少申告があった場合に、税務調査で指摘され、修正申告をし、または更正を受けると、基本税率としては、10%の過少申告加算税、延滞税が課されます。
しかし、調査がある前に気づいて修正申告書を提出した場合には、その申告が、「調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」は、過少申告加算税の税率は5%となります(国税通則法第65条1項)。
そして、法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)第1の1(注)には、「臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。」と記載されています。
そこで、税務調査の事前通知があった後に、過少申告に気づいた場合には、実地調査の前に修正申告書を提出し、10%の過少申告加算税を回避する、という方法をとる場合があります。
しかし、実地の調査前に修正申告書を提出したにもかかわらず、10%の過少申告加算税が課された裁決例があります。
令和5年12月7日裁決です。
事案
請求人は、平成29年ないし令和2年において、インセンティブ報酬を受けていた。
請求人は、インセンティブ報酬に係る給与所得を申告していなかった。
調査担当職員は、令和4年9月6日から同月15日までの間に、D社から所轄税務署長に対し提出された外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書を基に作成された資料の内容を確認した。
調査担当職員は、令和4年9月15日、請求人に対し、本件各インセンティブ報酬について確認したい旨電話連絡をした。
請求人は、令和4年9月19日、税理士法人に対し、
・税務署から突然電話がかかってきて、本件各インセンティブ報酬について確認したいと言われた。
・インセンティブ報酬が複数年申告漏れになっていることが電話連絡の原因だと思う。
旨説明した。
税理士法人は、令和4年9月26日、請求人からの依頼を受け、修正申告書を提出した。
調査担当職員は、令和4年9月30日、税務署を来訪した請求人及び本件代理人の事務員に対し、本件各年分の本件各インセンティブ報酬に関する聴取を行い、請求人が本件親会社から本件各インセンティブ報酬を得ていることなどを確認した。
裁決
1 判断基準
修正申告書の提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」というのは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと解するべきである。
そして、上記段階が到来していたか否か、「納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告書を提出したものでない」といえるか否かについては、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情等を総合考慮して判断すべきである。
2 事実認定
本件各修正申告の時点において、本件調査担当職員による調査は、その後の調査が進行し本件各申告が本件各インセンティブ報酬を計上しない不適正なものであることが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたというべきであり、また、本件電話を受けて本件代理人に問合せ等を行っていた請求人については、やがて更正に至るべきことを認識した上で本件各修正申告を決意し、本件各修正申告書を提出したものと認められる。
?よって、本件各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」に該当しない。
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以上です。
ポイント
この裁決により、「調査の事前通知があった場合において、実地調査前に修正申告を提出しても10%が課されるのか」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
上記裁決の判断基準は、端緒把握説(東京地裁昭和56年7月16日判決)によっていますが、ポイントは、
・税務職員側の認識と客観的状況
・納税者側の認識
の2つです。
本裁決では、上記2つに関し、条件を満たしたため、更正予知に該当するとして納税者の請求を棄却しました。
しかし、不納付加算税の事案ではありますが、署内調査により、源泉所得税の納税の告知に至る可能性が高い状況にあったものの、納税者側において自主的に調査して不納付を発見したと認定して、処分取消をしたものがあります(令和3年1月20日裁決)。
この点を誤解して、諦めることのないよう、しっかりと理解しておくことが肝要だと思います。