外国税額控除を漏らして税賠の裁判例を解説します。
東京高裁平成21年4月15日判決です。
(事案)
・被告税理士は、平成17年9月8日、原告が代表を務める会社の決算書類及び確定申告書の作成を報酬(決算料)12万円で受任した。
・原告個人は、平成17年8月5日に米国不動産を売却していた。
・被告税理士は、平成18年3月9日、原告の所得税確定申告書を作成提出したが、外国税額控除に関する明細書などを添付せず、外国税額控除を受けられなかった。
(争点)
・原告個人の所得税確定申告代理業務を受任したのはいつか。(平成17年中であれば、法人の申告の打ち合わせの際に、米国不動産売却の話が出た可能性がある)
・被告税理士は、原告から外国所得の話がなくても、原告に対し、「外国の所得はないか」と確認すべき義務があるか。(積極的に漏れなく確認する義務があるか)
(判決)
(所得税確定申告業務を受任したのはいつか?)
・平成18年2月3日、原告の平成17年の所得税確定申告書作成の依頼を受け、これを報酬2万5000円で受任した。
(平成17年ではないので、不動産売却の話が出た可能性は低い。)
・これ以降に外国不動産の売却についてのやり取りがあったかどうかが問題となる。
⇒ない。⇒ 税理士は、外国での収入を知らなかった。
(積極的に外国での収入を確認する義務があるか?)
・確定申告を依頼された税理士は、正確な申告をするためには、一般的に依頼者より所得状況の聞き取りを行う義務がある。
・税理士が受任した際にどの程度の聞き取りを行うべきかの具体的な範囲・程度については、もとより具体的事案に応じて決せられるべき。
・被告税理士が、平成18年2月3日の打ち合わせの際に、原告に対し、過去の確定申告書を見せながら、前年の申告以外に収入がないことの確認を求めて聞き取りを行ったものであり、原告からそれら以外の説明がないため外国の財産について認識し得ない状況下では、さらに被控訴人において「国外においても所得があるか」と具体的に指摘した聞き取りまですべき義務があると認めることはできない。
⇒税理士勝訴
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以上です。
(ポイント)
・税理士が受任した際にどの程度の聞き取りを行うべきかの具体的な範囲・程度については、具体的事案に応じて決まるのであり、一般的に決まっているものではありません。
・契約書を締結していれば、受任時期が争いになることはなかったと思われます。
・所得税確定申告を受任した場合に報告及び資料の提出を求める事項について、雛形を作成し、受任時に交付しておく業務フローにする方法もあります。
・契約書に一切の収入について報告し、資料を提出する義務を依頼者に課す方法もあります(責任分担規定)。
・申告書を提出する前に、メール等で依頼者の収入を列挙し、「上記以外で譲渡した資産や収入は一切ないか?」と尋ねておく方法もあります。
いずれにしても、大量に所得税確定申告業務を行う中で、このような事案でも税理士損害賠償請求の発展し、訴訟にまでなってしまう、ということです。
各事務所において、証拠化に工夫が求められるところです。
・弁護士による税理士損害賠償SOS
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