被相続人が保険契約をした際の意思能力を調査しなかったことを理由として税理士が損害賠償請求を受けた東京地裁平成24年10月16判決を解説します。
(事案)
・T証券は、保険会社の代理店として、平成20年12月15日、被相続人から申し込みを受け、被相続人を保険契約者兼保険料負担者、原告や孫らを被保険者兼年金受取人とする合計3億円の年金型保険契約を締結した。
・被相続人は、平成20年12月19日死亡した。
・原告らは、被告税理士に対し、相続税申告手続きを依頼したが、税理士は、3億円の保険料返還請求権を相続財産ではないとして相続税申告をした。
・課税庁は、被相続人は意思能力がなかったとして、本件保険会社に支払われた3億円の保険料の返還請求権が相続財産に含まれるなどとして、相続税の更正及び加算税の賦課決定を通知した。
(判決)
・税理士が相続人に相続財産について聴き取りを行い、裏付けとなる資料の提出を求めたところ、Aは、不動産、有価証券、現金及び預金等の財産についての裏付けとなる資料とともに、本件保険契約についての資料として本件保険会社が本件保険契約に基づいて保険金の受給権が確定したことを知らせる支払調書の原本を示した。
・Aは、被相続人が原告の生活を心配し、原告の生活が長期間にわたり安定するように年金払の保険に加入したこと、本件保険契約が締結され、原告の今後を憂うことがなくなったと喜んでいたことなどを説明した。
・本件保険会社が原告らの受給権を確定させて本件保険契約の効力を認めている上、梅夫の語る内容は特に不自然なものではなく信用し得るものである。
・相続財産の価額は10億円を超えており、相続人らのために年金を遺す趣旨で3億円の契約を締結することがそれほど不自然であるとはいえないし、契約者が死亡直前まで意識が明瞭であることは十分あり得ることである。
・課税当局が保険契約の有効性を否認することができたのは、被相続人のカルテを取り寄せて分析を行った結果であるが、税理士にはこのような調査手段がない以上、税理士において本件保険契約の有効性に問題のあることを認識し得るような資料を入手し得たとはいえない。
→ 税理士勝訴
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以上です。
本件のように、税理士として注意義務を尽くし、不自然な点がない事案でも、損害賠償請求をされることがあることに注意が必要です。
その場合には、相続人らとどのようなやり取りがあったのか、について記録を残しておくことが重要となってきます。
特に、
・相続財産の認定、
・名義財産、
・課税要件としての居住の認定
など事実認定については、事実認定に使用した資料や事情聴取の内容のメモなど、可能な限り証拠を残しておくことが大切ということになります。
税理士損害賠償の場合、口頭のやり取りのみで、訴訟になった時の立証に苦労することがあります。
参考記事:税理士の相続税のミスによる損害賠償責任
・弁護士による税理士損害賠償SOS
弁護士法人みらい総合法律事務所では、税理士損害賠償のご相談を受け付けています。