重加算税取消裁決をご紹介したいと思います。
国税不服審判所平成10年5月28日裁決です。
(事案)
請求人は、次男が滞納している相続税の支払いにあてるため、所有する土地ABCの3物件を売却した。
売却代金の合計額は7755万2000円であり、このうち約7000万円が次男の相続税等にあてられた。
請求人は、税理士に依頼して譲渡所得に関して確定申告書を提出したが、C物件にかかる所得金額のみを記載し、他の2物件は記載しなかった。
税務調査の結果、重加算税賦課決定がされた。
請求人は、国税不服審判所に審査請求をした。
(裁決)
譲渡代金は請求人の振替納税口座として利用している公表預金口座に全額入金され、その後次男の相続税等の納税にあてられており、代金授受及び使徒につき隠蔽仮装はない。
申告漏れとなつたA物件及びB物件の譲渡に係る売買契約書の作成及び所有権移転登記は、C物件と同様にいずれも適正に行われている。
調査担当職員に対して、申告漏れとなつたA物件及びB物件の譲渡の事実を隠ぺいするような、虚偽の答弁、虚偽資料の作成・提出及び書類の隠匿・廃棄等の行為が認められず、本件調査を困難ならしめるような特段の行為がなかつた。
本件確定申告書に、申告漏れとなつたB物件に係る売買契約書が添付されているが、少なくとも次男に隠ぺいする意図があつたならば、B物件の売買契約書を税理士に渡すはずもないことから、本件申告は、Tの何らかの思い込み又は誤認に基づいて行われたと見るのが自然
→ 隠蔽または仮装なし → 重加算税取消
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以上です。
3つの不動産があり、そのうちの1つの不動産分だけをつまみ出して申告をした場合、税務調査があってそれが判明すると、重加算税指摘になると思います。
しかし、重加算税の賦課要件には、隠蔽又は仮装があり、この要件が満たされない限り、重加算税の要件を満たしません。
本件では、預金口座の利用について事実を隠そうとする意図が見られないこと、売買契約の履行状況も名義を借用するなど仮装行為がないこと、調査時にも虚偽答弁など隠蔽仮装の意思が窺われるような行為がないこと、確定申告書に申告から除外したB物件売買契約書を添付するなど隠蔽仮装の意思と矛盾する行動が見られること、などから、隠蔽又は仮装を否定しました。
一見、重加算税やむなしと思えるような事案でも、隠蔽又は仮装の要件を満たさないことがありますので、この点は税理士がよく吟味することが求められると思います。
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