法人から個人への金員の移動がどの所得区分になるかについて判断された裁判例をご紹介します。
東京地裁平成23年5月31日判決です。
(事案)
・B社が、B社名義の不動産を売却し、その売却代金の一部を唯一の株主である原告の口座に振り込ませた。
・B社の代表者は、原告の娘。(原告はB社の役員ではなく株主のみの立場)
・税務署長は、振り込まれた金員はB社から原告に対する配当所得に該当するとして更正処分等をした。
・原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(争点は2つ)
(1)本件不動産等の譲渡による収益は、当初、B社に帰属したか、原告に帰属したか。
(2)B社に帰属した場合、本件金員の移動は、原告の配当所得といえるか。
(1)については、実質所得者課税の原則の「法律的帰属説」により法人に帰属するとされました。
「法律的帰属説」というのは、課税物件の法律上の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を決定すべきとする説です。
その上で、「配当」といえるかどうかについては、次のとおり判断しました。
・所得税法上の利益配当は、商法が前提とする、取引社会における利益配当の観念(損益計算上の利益を株主の出資に対して支払うこと)と同一の観念を採用しているものと解するのが相当であり、必ずしも、商法の規定に従って適法にされたものに限らず、商法が規制の対象とし、商法の見地からは不適法とされる配当も所得税法上の利益配当に含まれると解される(最高裁昭和35年10月7日判決)。
・(1)法人が、(2)その利益から、(3)その株主等に対し、(4)株主等たる地位に基づいて供与した利益は、その名目にかかわらずこれを利益の配当たる配当所得に含まれると解する・・・上記(2)については、一応の損益計算に基づいて会社に生じた積極財産を原資としているといえればよく、上記(4)については、株主に対し、取引上の債権債務関係など他の原因がないにもかかわらず供与されたものであればこれを満たすと解するのが相当である。
(結論)
配当所得と判断し、納税者が敗訴しました。
控訴棄却、上告棄却です。
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法人から個人に対する金員の供与の所得区分は、本件判決の判断枠組みを前提とすると、
・役員・従業員でその地位に基づいて供与した場合は給与・賞与・退職金。
・株主で法人の利益から取引上の債権債務関係など他の原因がないにもかかわらず供与の場合は配当。
・無関係の場合及び上記に当てはまらない場合は一時所得。
となるかと思います。
参考にしていただければと思います
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