今回は、代表取締役が取締役を辞任したことから支給した退職給与について、退職の事実がないとして否認された裁決例をご紹介します。
令2年12月15日国税不服審判所裁決です。
(事案)
請求人の代表取締役及び取締役を辞任した元代表者が、辞任後も継続して請求人の事業運営上の重要事項に参画していたとして、みなし役員に該当するから、実質的に退職したとは認められないとして、支払った退職給与が否認された事案。
(否認の理由)
・経営会議に出席していたこと
・金融機関と交渉していたこと
・新規事業の決定に関与していたこと
(裁決)
国税不服審判所は、以下の理由により処分を取り消しました。
・法人税法第2条第15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨が、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあることからすると、上記の「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。
(経営会議への出席)
・経営会議に出席したとの申述がある。
・本件経営会議において、請求人の経営方針・予算・人事等の事業運営上の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたこと及びその内容や方法を示す客観的証拠はない・
・本件申述においても、いつどのような内容の指示や決定を行ったかという具体的な状況については明らかとはいえない。
・したがって、本件申述をもって、本件辞任後の本件経営会議における、本件元代表者による請求人の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示等の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
(金融機関との交渉)
・請求人は、本件辞任の日から平成28年3月31日までの期間において、金融機関から新規融資を受けていないと認められ、実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もない。
・本件辞任の約3か月後である平成25年3月7日に、その連帯保証人が本件元代表者から当時の代表取締役であるFに変更されたことが認められるところ、この事実は、本件辞任に対応した措置が金融機関との間で具体的に執られたことを示すものである上、Fが請求人の代表者としての自覚と責任のもとに自ら決定したことを推認させるものといえる。
(新規事業の決定)
・請求人は、平成27年3月頃にY社から太陽光発電設備を購入していると認められるところ、当該購入は、本件辞任から約2年4か月後のことであり、そもそも、本件辞任後間もない時期に、請求人が太陽光発電事業を新規に開始することを決定したとは認められず、その他、本件元代表者が、本件辞任後に、請求人の事業運営上重要な新規事業を決定したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
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以上です。
顧問先の役員が退任して退職給与を支払う場合や分掌変更による退職給与を支払う場合には、退職給与が否認されないよう助言をすると思いますが、上記のような事案では、税務調査で否認されるリスクがある、ということです。
分掌変更退職給与を含め、検討すべき事項には、以下のようなものがあります。
(1)事業運営上の重要な意思決定に関与しているか。
(2)営業面で重要な役割を果たしているか。
(3)金融機関との交渉に重要な役割を果たしているか。
(4)資金調達に重要な役割を果たしているか。
(5)経営会議に参加して意見を表明しているか。
(6)支出や経費、財務、設備投資に関し、意見を表明する等重要な役割を果たしているか。
(7)稟議書等を決裁しているか。
(8)人事に関与しているか。
(9)株主や取締役会構成員として以上に役員報酬や従業員給与等の決定に関与しているか。
(10)取締役会構成員として以上に予算作成に関与しているか。