名義借りの土地を真実の所有者名義に戻した時に贈与税を課税された事案です。
東京地裁昭和43年10月5日判決(TAINS Z053-2256)です。
(事案)
原告Xと妻Aは夫婦であったところ、昭和23年9月13日、Xが土地の譲渡を受けるに際し、当時原告が電気工事請負業の債務が多額であったことから、差し押さえを免れる目的で、妻A名義で所有権移転登記をした。
その後、昭和36年5月4日、妻A名義の土地を原告を買主とし、売買を原因とする所有権移転登記がされた。
課税庁は、昭和38年11月30日、妻Aから原告に対し、土地を贈与したとして、贈与税及び加算税を賦課した。
原告は、課税処分の無効確認訴訟を提起した。
(裁判所の判断)
本件土地は昭和23年9月13日以降今日に至るまで原告の所有であり、ただ登記簿上でAの名義を使用していたにすぎないこと、従つて昭和36年5月4日の登記による本件所有権の移転は、実質的な所有者への名義の回復をしたものに他ならず、なんら実体上の権利の変動を伴つてはいないものであるということができる。してみれば、本件課税処分は、権利の変動がないのに拘らず、これありと誤認してなされたものであり、右誤認がないとすれば、本件処分はなされなかつた関係に立つものであるから、右の誤認は重大なかしに該当するといわなければならない。
行政処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定にかしがある場合、その処分が無効であるとするためには、そのかしが重大、かつ客観的に明白でなければならず、行政処分のかしが、客観的に明白であるということは、処分関係人の知、不知とは無関係に、かつ、権限ある国家機関の判定をまつまでもなく、何人の判断によつても、ほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかであることを指すものと解するのが相当である。そして、この見解によると、本件誤認のかしが明白であるか否かは、被告側において、より詳細な調査を行なつたとしたならば、判明したであろうような事情(それが被告側の怠慢によつて明らかとされなかつた場合であると否とを問わず)をも基礎として判断すべきではなく、権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何人が認定してもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかな処分当時の事情にもとづき判断すべきこととなるものと解すべきである。
その上で、本件かしは、「明白ではない」として、納税者敗訴判決をしました。
控訴棄却、上告棄却です。
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まず、税務判例を読み慣れた先生には、違和感があると思いますが、それは、おそらく、本件が処分取消訴訟ではなく、課税処分の無効確認訴訟であるからだと推測します。
処分取消訴訟であれば、処分に重大なかしがあれば、取消の結論になると考えられるためです。
出訴期間を経過していたのか、何らかの事情があったと推測します。
本件では、土地の所有名義を真実の所有者に回復した事案ですが、このような行為をする際には、課税関係について、とても悩みます。
諸事情の総合考慮による事実認定なので、裁判所がどう事実認定をするか正解に判断できず、正解をを導き出すのが困難であるためです。
そこで、個別通達に該当するかどうか、慎重に検討することになります。
また、その上で、将来の税務調査による否認の可能性があること、その場合、課税処分の不利益があること、その場合でも税理士に対して損害賠償をしないこと(債務免除)の一筆をもらっておくことが大切です。
個別通達のURLを記載しておきます。
名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて(直審(資)22 直資 68 昭和39年5月23日)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm
「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」通達の運用について(直審(資)34 直資 103 昭和39年7月4日)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm