中小企業の株の売買において、価額算定を誤ると、時価取引ではないとして、課税の対象になります。
この点について、「純然たる第三者間取引であれば否認されることはない」と言われることがあります。
しかし、これは不正確です。
この見解の根拠は、「法人税基本通達逐条解説」(税務研究会)の「9-1-14」に関する次の一節と思われます。
「なお、本通達は、気配相場の無い株式について評価損を計上する場合の期末時価の算定という形で定められているが、関係会社間等においても気配相場のない株式の売買を行う場合の適正取引価額の判定に当たっても、準用させることになろう。
ただし、純然たる第三者間取引において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、たとえ上記したところと異なる価額であっても、一般に常に合理的なものとして是認されることになろう。」
この中の「純然たる第三者間取引」という文言が一人歩きしたものと推測します。
ところで、国税不服審判所平成11年2月8日裁決において、課税庁側の主張として、「法人税法上、売買取引における取引価額については、それが純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、一般には常に合理的なものとして是認されるが、本件譲渡のように、親会社と子会社の代表者との譲渡で純然たる第三者間の取引ではなく、かつ、その合意価額が合理的に算定されていないと認められる場合には、当事者間の合意があったとしてもその合意価額は客観的交換価値を示すものとは認められない。」とされていますので、課税庁は、この見解に依拠しているものと思われます。
そこで、時価を作り出すために、本来意図する株取引の前に、第三者間取引をかませて、「時価」を作りだそう、と考える人が出てきます。
つまり、本当は馴れ合いで価格を決めているにもかかわらず、純然たる第三者同士が交渉した結果、価格が決まったように装う、ということです。
しかし、この方法を採用すると、後日の税務調査で否認され、もし、税理士が助言した場合には、税理士損害賠償に発展する恐れがあります。
なぜなら、ここで注意すべきなのは、上記基準は、「純然たる第三者間取引」であれば、それだけで時価と認定されるわけではない、ということです。
たとえば、純然たる第三者間取引だったとしても、売り手の都合によってどうしても早期に売却したく、買手の言い値で、即座に本来の時価の3分の1で売却したとしたら、どうでしょうか?
この場合には、客観的交換価値で売買されたことにはなりません。
株価によっては、大きな経済的利益が売主から買主に移転したことになります。
つまり、そこに担税力が生じていることになります。
時価と認められるためには、「純然たる第三者間取引」というだけでは足りず、要件がもう一つ加わります。
(1)純然たる第三者間取引であること
(2)取引価格が種々の経済性を考慮して定められたこと
つまり、純然たる第三者間取引であるだけではダメで、(2)の要件を満たして、はじめて合理的なものとして、是認される、ということになります。
簡単に言うと、
・お互いが「自分の方が相手より得をしたい」という関係性において、
・できる限り自分に有利な価格になるよう交渉した
ということになります。
そういう場合には、利害対立間の交渉で決められた価格であるので、「客観的交換価値であると推認できる」ということだと思います。
そして、税務否認するためには、課税庁が時価についての立証責任を負担しますが、上記の要件が満たされる場合には、それを覆して異なる時価を立証するのが困難、と判断しているものと推測します。
この点について、東京地裁平成19年1月31日判決(税務訴訟資料257号順号10622)では、納税義務者が親族関係のない独立第三者間取引であると主張したのに対し、裁判所は、譲渡価格が譲渡人と納税義務者との間でのせめぎ合いにより形成された客観的価値ではないとして、納税者敗訴判決をしています。
したがって、「純然たる第三者間取引」のように見えても、それだけで安心せず、その取引価格が、きちんと売主と買主の経済合理性に根ざしたせめぎ合いによって決定されたかどうか、を確認しておく必要があります。
そして、税理士としては、その交渉過程を証拠化して、保存していく必要があると思います。