税理士が、依頼者ではなく、第三者から損害賠償請求をされてしまった、という事例についてです。
仙台高裁昭和63年2月26日判決(TAINS Z999-0002)です。
(事案の概要)
●損害賠償請求人は、昭和53年6月ころ、訴外会社の代表者から、訴外会社のために事業資金の融通並びに金融機関からの借入に必要な保証と担保の提供方を依頼された。
●損害賠償請求人は、訴外会社の2期分の黒字の確定申告書の写を確認し、その内容を信実と誤信して、損害賠償請求人とその身内の者が訴外会社のために連帯保証をし、不動産を提供した。
●ところが、訴外会社は、営業実績赤字であり、昭和52年4月1日から昭和53年3月31日までの事業年度分については5099万5807円の欠損を出した旨の赤字の確定申告書を税務署に提出していた。
●訴外会社は、昭和55年4月14日に倒産した。そのために損害賠償請求人らはこれらの債権者に対し昭和55年8月に保証人として総額2億円余の支払をした。
●税務署に提出した赤字の確定申告書および損害賠償請求人に示された黒字の確定申告書は、税理士が作成したものである。
●そこで、損害賠償請求人は、税理士が作成した虚偽の確定申告書に基づいて連帯保証及び担保提供をしたことにより損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。
(裁判所の判断)
●税理士は、訴外会社の代表者の依頼を受けて、黒字の虚偽の確定申告書を作成するとともに毎月訴外会社の試算表(作為された疑いがある。)を作成して損害賠償請求人に送付していた。
●税理士は訴外会社の代表者がこれを利用して融資先を欺いて訴外会社の金融を得ることを知りながら、訴外会社の実情を粉飾し、このような虚偽の内容を記載した書類を作成した。
●税理士はこれにより訴外会社に対して融資をするものが損害を受けるかもしれないことを予見しながらあえてこのような虚偽の内容を記載した書類を作成したものであることが認められる。
●税理士は、損害賠償請求人に対し、その作成した書類の虚偽の記載内容を真実の内容と誤信したことにより蒙つた前記損害を賠償すべきである。
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税理士に対する損害賠償は、依頼者からのものが多いのですが、本件は、第三者から訴えられたものです。
確定申告書が赤字である依頼者から、黒字の確定申告書の作成を依頼されれば、税理士であれば、その黒字の確定申告書は金融機関等に示されて融資の申し込みや返済条件の交渉に利用され、あるいは、本件のように第三者への依頼に利用されたり、取引先に示されたり、という目的があることは、容易に予想しうるところです。
そして、それを信じた金融機関や第三者が損害を被った場合には、確定申告書を作成した税理士が損害賠償請求を受ける可能性がある、ということです。
したがって、税理士としては、真正の事実に反した税務書類を作成することのないよう細心の注意を払うとともに、そのような依頼がされたときは、これを拒絶、是正指導し、場合によって委任契約を解除することを検討すべきということになります。
なお、当然のことながら、税理士に故意または過失がない場合には、損害賠償責任は成立しません。
・弁護士による税理士損害賠償SOS
弁護士法人みらい総合法律事務所では、税理士損害賠償のご相談を受け付けています。