相続税の申告でことさら過少申告が重加算税賦課要件を満たす、とされた裁判例をご紹介します。
東京地裁平成30年4月4日判決(TAINS Z888-2238)です。
隠ぺい仮装の内容としては、相続財産である預金あるいは現金を相続財産から除外して申告した、というものです。
裁判所は、
●架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべき
という最高裁7年4月28日判決の規範を立てます。
(認定事実)
●相続人は、被相続人預金口座から2000万円以上を引き出した
●その現金を複数の封筒に入れて自宅等に保管していた
●本件現金が相続財産であることを認識しつつも税理士にその存在を伝えず、本件申告から除外したことを自認した
●申告した相続財産である現金の額は70万円だった
→相続人は、本件現金が被相続人の相続財産であることを認識しつつ、本件申告に係る現金から除外する意図を有していた
●支出(被相続人のために支払った費用)の記載額が収入(本件各口座等からの引出し)の記載額を上回っているため本件現金の存在を認識することが困難な内容の書面を作成して税理士に交付した
●申告までの期間が短く、税理士がその内容について十分な検証ができないという状況下で、税理士からの現金の有無に関する質問に対する回答を殊更に避けた
●実際に保管されている現金の額と著しく異なる金額が相続財産である現金の額として本件申告書に記載されていることを認識しつつ、あえてこの相違につき税理士に指摘しなかった
→相続財産を過少に申告するという上記の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たる
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重加算税の事案において、納税者の積極的な行為がないような場合には、この裁判例で引用されている
●当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした
という規範を用いられることが多いです。
重加算税通達では「調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。」としています。
税務調査において虚偽答弁があっただけでは隠ぺい仮装を認定することはできず、その他の事情も総合的に判断して、
「当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした」
と言えるかどうか、がポイントとなります。
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