令和元年6月24日裁決です。
運送業を営む請求人(納税者)が、売上金額の一部とそれに対応する必要経費の金額を含めなかったほか、適当な金額を記載した収支内訳書を作成したことについて、重加算税が課せられた事例です。
請求人(納税者)の主張が認められ、重加算税賦課決定が取り消されています。
事例のポイントは、以下のとおりです。
(原処分庁の主張)
(1) 請求人は、本件従業員の運送分の売上げを本件各年分の売上げの集計から除外し、売上金額が1,000万円を超えないように調整した過少な売上金額を算定するためのメモを本件妻に作成させた。
(2) 請求人は、本件売上メモに基づいて算定した過少な売上金額を、本件各収支内訳書に記載した。
(3) 請求人は、本件各年分の所得税等を申告した後に、本件売上メモを廃棄した。
(4) 請求人が本件各収支内訳書において記載した「売上(収入)金額」は、本件事業に係る売上金額の半分以下の金額であった。
(5) 請求人は、本件給与など、本件従業員分の経費が毎年合計600万円以上ありながら、これらを本件各収支内訳書に必要経費の金額として計上しなかった。
⇒当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものといえる。
(裁決)
●請求人には、過少申告の意図があった。
●請求人は本件従業員分の売上げや費用の存在を認識しつつこれらを本件各収支内訳書に計上せず、過少の申告をした。
●しかし、通則法第68条第1項に規定する重加算税を課すためには、上記・・・のとおり、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する。
●請求人が架空名義の請求書を作成し、架空名義の本件各支払明細書を作成させ、あるいは、他人名義の預金口座に売上代金を入金させたというような事実は認められず、本件各支払明細書や領収証等の取引に関する書類を改ざんし、あるいは本件売上メモを作成し、又はこれらの書類を意図的に破棄・隠匿したなどの事実も認められない。
●そして、本件妻が、本件各支払明細書や領収証等の書類の一部(本件従業員に係るもの)を売上金額及び必要経費の金額の集計計算の基礎から作為的に除いていたという行為自体についても、上記・・・の認定事実のとおり、請求人が本件各支払明細書や本件各預金通帳の全てを保存し、本件調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。
⇒隠蔽又は仮装は認定できない。
====================
本裁決のポイントは、
・過少申告の意図があり、
・意図的に売上を除外するなどして過少申告をした
にもかかわらず、「隠蔽又は仮装」の事実が立証されていないため、処分が取り消された、というところにあります。
つまり、「故意の過少申告」をしたとしても、それとは「別に」「隠蔽又は仮装」行為がなければ、重加算税賦課要件を満たさない、ということです。
実際の税務調査では、本件のような事例は、重加算税認定がされやすいと思います。
しかし、納税者が税務調査において、基礎資料などを普通に開示して、それに基づき過少申告が判明したような場合には、もともと納税者には、「隠蔽又は仮装」の意図がなかったのではないか、という推定も働くところです。
この点は、税務の専門家である税理士が十分検討すべき点だと思われます。
重加算税、国税不服審判所に対する審査請求・税務訴訟は、ご相談ください。