相続税申告にあたり、相続人が損害保険契約について税理士に嘘をついて隠蔽したとして重加算税が賦課された事案において、重加算税賦課決定が取り消された裁決例をご紹介します。
令和3年6月25日裁決です。
(事案)
被相続人は、建物更生共済契約を締結しており、解約返戻金相当額の相続財産があった。
相続税申告を依頼した税理士は、請求人(相続人)に対し、「損害保険はどうなっていますか?」と質問した。
これに対し、請求人は、「共済は掛け捨てに移行している」と回答した。
そこで、税理士は、申告すべき損害保険契約に関する権利はないと誤解して相続税申告書を作成し、提出した。
課税庁は、税理士に対し、共済契約は掛け捨て型のものであると故意に虚偽の説明をし、解約返戻金証明書を取得していたにもかかわらず、これを税理士に提出せず、隠蔽したものであると認定し、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとして、重加算税賦課決定をした。
請求人は、国税不服審判所に審査請求をした。
(裁決)
本件税理士による質問は、相続財産の確認をするための聞き取りでなされた質問であるが、税理士による上記の質問の文言のみからは、被質問者である請求人に上記趣旨であることが明示されているとは認められず、そのような趣旨を被質問者に明示せずに損害保険についてどうなっているかと質問した場合には、被質問者において、損害保険の状況一般についての質問であると誤解する可能性も否定できないことから、請求人が主張するように、請求人において、本件税理士による上記の質問の趣旨を取り違えて、損害保険の状況一般についての質問であると誤解していた可能性がある。
実際に、賃貸不動産の損害保険は、建物更生共済契約から掛け捨ての損害保険へと移行された。
請求人が税理士に預けた農協支店の被相続人名義の各普通貯金通帳の中には、摘要欄に「建更」と表示された出金が記録され、本件各共済契約に係る共済掛金の支払が確認できるものもあったことに照らすと、本件税理士が各普通貯金通帳を子細に確認すれば、本件各権利の存在に気付き、請求人にその事実照会等を行うことも考えられたことに鑑みると、請求人が本件税理士に対して、本件各共済契約、ひいては、本件各権利を秘匿しようという意図があったとまで認めることはできない。
請求人が、本件税理士からの「損害保険はどうなっていますか。」との質問を受けて、損害保険の状況一般についての質問であると誤解し、各賃貸物件の損害保険の状況を念頭において、「共済は掛け捨てに移行している。」との回答をした可能性を否定できず、請求人が本件税理士に対して故意に虚偽の説明をしたものと認めることはできない。
そうすると、請求人が本件税理士に当該回答をした事実をもって、請求人が、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできず、他にこれに該当すべき事情も見当たらない。
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以上です。
相続人が税理士からの質問に対し、事実と異なる回答をした場合であっても、課税庁側が、相続人の「故意の隠蔽または仮装」を立証できない限り、重加算税は取り消される、ということです。
本件では、請求人の主張は、
「税理士の質問を誤解したために事実と異なる回答をした」
というものです。
そして、その主張と整合する
・実際に掛け捨て型の契約に移行していた
という事実があり、
「隠蔽又は仮装」の故意と矛盾する
・「建更」という記載がある預金通帳を税理士に預けた
という事実があったものです。
つまり、
・自分の主張と整合する客観的証拠を探して提出する
・隠蔽又は仮装と矛盾する客観的証拠を探して提出する
ことが大切です。
本件では、主張されていませんが過去の裁決例を見ると、
・税務調査で隠そうとせず、素直に資料提出等をした
という事情も重視されますので、この点を主張してもよかったと思います。
いずれにしても、重加算税賦課決定があった時は、税理士は要件を満たしているかどうか、必ずチェックすることが肝要と考えます。
国税不服審判所に対する審査請求・税務訴訟は、ご相談ください。