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弁護士法人みらい総合法律事務所

弁護士が解説|国税不服審判所への審査請求のポイント

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
 代表社員 弁護士 谷原誠

最終更新日 2025年1月7日

この記事を読むとわかること

 
本記事では、国税に関する法律に基づく税務署の処分に不服がある納税者が、処分の取消しなどを求めることができる「国税不服申立制度」について、次の項目を弁護士が解説していきます。

  • ・国税不服申立制度の内容
  • ・審査請求を行なう国税不服審判所の概要
  • ・審査の手続きと内容
  • ・審査請求の主張立証のポイント
  • ・弁護士に相談・依頼すべき理由

 
所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税などを申告したものの、それに対する処分に不服がある場合、納税者は「再調査の請求」または「審査請求」をすることができます。

これは選択制になっており、再調査の請求は、簡易な手続により処分の見直しを行なう事後救済手続です。

3か月が経過しても再調査の決定が出ない場合、あるいは再調査の請求を経ずに審査請求を行なう場合は、国税不服審判所に審査請求をします。

審査請求において、課税要件事実の立証責任は、処分庁にありますが、納税者側でも、課税要件事実の立証を妨害するような事実を発見し、主張・立証をしていく必要があります。

申告した税金について納得がいかない処分をされた方、不服な方は、ぜひ最後まで本記事をお読みになってください。

国税不服申立制度を利用する際の注意ポイント

国税不服申立制度とは?

確定申告や税務調査の結果に対して、税務署長などが行なった、①更正などの課税処分、②差押えなどの滞納処分、に不服がある場合は、「再調査の請求」または「審査請求」をすることができます。

2016(平成28)年4月1日に「国税不服申立制度」が改正され、現在は次のようなシステムになっています。

国税不服申立制度の概要と流れ

①再調査の請求または審査請求のいずれかを選択

②再調査の請求
処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長などに対して再調査の請求をすることができます。

③審査請求
・3か月を過ぎても再調査決定がない場合、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができます。

・再調査の請求についての決定から1か月以内に、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができます。

・納税者の選択により、再調査の請求をせず、直接、国税不服審判所長に対して審査請求を行なうこともできます。
この場合は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に審査請求を行ないます。

④裁決
裁決までには、およそ1年間が標準的な期間です。

⑤原処分取消訴訟等
・審査請求を経ずに、いきなり処分取消訴訟を提起することはできません。

・3か月を経過しても国税不服審判所長から審査請求に係る裁決がない場合には、裁決を経ずに訴訟を提起することができます。

・裁決の内容に不服の場合は、6か月以内に訴訟を提起することができます。

・訴訟の管轄は、地方裁判所になります。

【参考資料】:平成28年4月1日から 国税不服申立制度が改正されます(国税庁)

審査請求と再調査の請求、訴訟の違いを解説

再調査の請求

税務署長などが行なった処分に不服のある場合、国税不服審判所長に対する審査請求を行なう前に、処分を行なった税務署長等に対して、その処分の取消しや変更を求めて不服を申し立てる制度です。
請求期限は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内です。

再調査の請求か、あるいは審査請求か、申し立てる人が選択することができます。

再調査の請求は、簡易な手続により処分の見直しを行なう事後救済手続です。
※すでに実地の調査が行なわれた期間について、新たに得られた情報に照らして、非違(ひい)があると認められるときに、改めて行なわれる税務調査(新たに得られた情報に基づく再調査)とは異なります。

※非違=法に違反すること、違法、違法行為。

税務署長などは、処分が正しかったかどうか改めて見直しを行ない、その結果を「再調査決定書」により納税者に通知します。

再調査の請求に係る決定により、納税者に不利益になる変更がされることはありません。

審査請求

税務署長などが行なった処分に不服がある場合に、取消しや変更を求めて国税不服審判所長に対して不服を申し立てる制度です。
請求期限は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内です。

審査請求は選択制になっており、次のいずれの場合でも行なうことができます。

  • ・再調査の請求を経ずに直接行なう
  • ・再調査の請求を行ない、その決定後の処分になお不服がある時に行なう

 
請求期限は、調査決定の通知を受けた場合は、その日の翌日から1か月以内です。

国税不服審判所長は、税務署長などの処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と税務署長に通知します。

国税庁長官が行なった処分に不服がある場合は、 国税庁長官に対して審査請求を行ないます。

審査請求をするには、必要事項を記載した審査請求書(正副2通)を提出します。
手数料を納める必要はありませんが、証拠書類等の写しの交付を請求する場合は、写しの作成費用として、1枚につき所定の手数料が発生します。

審査請求人にとって、国税不服審判所長の裁決は、税務署長等が行なった処分より不利益なものになることはありません。

【参考資料】:審査請求書の提出(国税不服審判所)

訴訟

国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服な場合は、地方裁判所に訴訟を起こすことができます。
※裁決があったことを知った日の翌日から6か月以内

【参考資料】:税務署長の処分に不服があるとき(国税庁)
国税の不服申立制度の概要図(国税不服審判所)

国税不服審判所の役割や特色について

国税不服審判所とは?

国税不服審判所は、財務省設置法第22条に基づき設置されている国税庁の特別の機関です。

国税に関する法律に基づく処分(税務署長や国税局長などが行なった更正・決定や差押えなど)についての審査請求に対する裁決を行ないます。

※国税には、課税主体が国である所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税などがあります。

※国税の更正と決定は、税務署が納税申告について行なう処分で、処分内容に不服がある場合、納税者は不服申立ができます。

※期限内申告で税額を修正する場合の手続きが「更正」です。
本来の適正な額に直す手続きで、増額更正と減額更正があります。

※期限後申告で税額を修正する場合の手続きが「決定」です。
期限までに申告書を提出せず、無申告だった場合は「決定」の手続きとなります。

国税不服審判所の役割について

国税不服審判所は次のような役割を担っています。

  • ・税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の救済を図る。
     
  • ・税務行政の適正な運営の確保に資することを使命とし、税務署長や国税局長などと審査請求人との間に立つ公正な立場で、審査請求事件を調査・審理して裁決を行なう。

国税不服審判所の組織

本部は東京(千代田区霞が関)にあり、その他、全国にある12の支部と7の支所により構成されています。

<支部・支所>
●札幌国税不服審判所(札幌市)
●仙台国税不服審判所(仙台市)
●関東信越国税不服審判所(さいたま市)
・新潟支所
・長野支所
●東京国税不服審判所(千代田区)
・横浜支所
●金沢国税不服審判所(金沢市)
●名古屋国税不服審判所(名古屋市)
・静岡支所
●大阪国税不服審判所(大阪市)
・京都支所
・神戸支所
●広島国税不服審判所(広島市)
・岡山支所
●高松国税不服審判所(高松市)
●福岡国税不服審判所(福岡市)
●熊本国税不服審判所
●国税不服審判所沖縄事務所

国税不服審判所の特徴

①争点主義的運営
国税不服審判所は、審査請求人と処分を行なった税務署長等の双方から、事実関係や主張を聴き、争点に主眼を置いた調査・審理を行ないます。

②審理の公正性
国税不服審判所長が行なう審査請求に対する裁決は、それぞれ独立した立場にある3名以上の国税審判官等(担当審判官および参加審判官)で構成する合議体の議決に基づいて行なわれます。

③裁決は行政部内の最終判断になる
国税不服審判所長の裁決は行政部内における最終判断となるため、税務署長等は裁決の内容 を不服として訴訟を提起することはできないようになっています。

④裁決は国税庁長官通達に拘束されない
国税不服審判所長は、国税庁長官通達に示された法令解釈に拘束されることなく裁決をすることが可能となっています。
次の場合は、あらかじめ国税庁長官に意見を通知することとされています。

  • ・国税庁長官通達に示された法令解釈と異なる解釈により裁決をする場合
  • ・他の国税に係る処分を行なう際における法令解釈の重要な先例となると認められる裁決を行なう場合

 

【参考資料】:国税不服審判所の概要等(国税庁)
審判所ってどんなところ?~国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし~(国税不服審判所)

審査請求における主張・立証のポイント

立証責任

審査請求においては、納税者と原処分庁がそれぞれ主張・立証を尽くすことになります。
しかし、事実があるかどうか認定できない、という場合があります。
このような場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益または負担のことを「立証責任」といいます。

たとえば、重加算税の賦課要件の立証責任が原処分庁にある場合に、隠蔽または仮装の行為を認定できない場合には、立証責任を負う原処分庁が不利益を負うことになり、処分が取り消される結果となります。

一般には、「法律要件分類説」がされており、行政処分の権利発生事実は行政庁が、権利障害および消滅事実は国民が立証責任を負うとされます。
たとえば、取消を求められた行政処分(更正)が法規を適用した行政処分のときは、国が立証責任を負い、法規の適用を拒否した行政処分のときは、国民が立証責任を負う、ということになります。

最高裁判決は、所得税事案に関し、「所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである。」 (最高裁昭和38年3月3日判決、月報9巻5号668頁)としており、課税要件事実の主張立証責任は国にあるとしています。

しかし、課税要件事実の立証責任が原処分庁側にあるからといって、納税者において何らの立証活動をしなくてよいわけではありません。

裁判例において、「必要経費について、控訴人が行政庁の認定額をこえる多額を主張しながら、具体的にその内容を指摘せず、したがって、行政庁としてその存否・数額についての検証の手段を有しないときは、経験則に徴し相当と認められる範囲でこれを補充しえないかぎり、これを架空のもの(不存在)として取り扱うべきものと考える」(広島高裁岡山支部昭和42年4月26日判決行集18巻4号614頁)とされているので、国の立証を妨害する反証活動を尽くす必要があります。

また、利息のような特別経費など納税者が立証する必要があるものもあるので、注意が必要です(大阪高裁昭和46年12月21日判決、税務訴訟資料63号1233頁)。

そして、事実認定においては、立証責任を負担する当事者が、「どの程度まで立証」すれば、証明できたことになるのか、という「証明度」も考える必要があります。
立証責任を負担する者の立証が、証明度に達しないときは、その主張する事実が認定できず、不利益または負担を負うことになります。
課税要件事実でいえば、原則として原処分庁が立証責任を負い、その立証が証明度に達しない場合、課税要件事実の認定ができず、処分が取り消されることとなります。

証明度に関しては、「ルンバール事件」の最高裁昭和50年10月24日判決(民集29巻9号1417頁)があります。
この事件は、化膿性髄膜炎に罹患した幼児の治療として、医師が「ルンバール」という治療をした後に幼児にけいれん発作等および知能障害等の病変が生じたことについて、同病変等がルンバール施術のショックによる脳出血によるものと認定できるかどうかが争われた事案です。

この事案において、最高裁は証明度について、「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」 と判示しました。

したがって、審査請求をするかどうか検討するにあたっては、原処分庁の収集した証拠が、この証明度に達しているかを吟味する必要があります。

裁決例における主張・立証のポイント

事案

令和4年5月10日裁決は、以下のような事案です。

本件被相続人の相続が開始。
本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人及び本件被相続人の長男であるGの2名です。

請求人は、いくつかの金融機関の残高証明書を取得しましたが、2つの貯金口座については、残高証明書の発行を依頼しませんでした。
また、請求人は税理士法人に依頼して相続税の申告をしましたが、2つの貯金口座は申告から漏れていました。

そこで請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受けた後、本件貯金の申告漏れがあったなどとして、修正申告書を原処分庁に提出しました。

原処分庁は、請求人が、本件貯金は本件被相続人の財産であると知りながら、これを隠蔽して本件申告をしたとして、令和3年1月26日付で請求人に対し、重加算税の賦課決定処分をしました。

主張・立証のポイント

争点は、(1)本件貯金口座の残高証明書を取得しなかったことは過少申告の故意に基づくものか、および(2)請求人は本件貯金の存在を本件会計事務所に故意に伝えなかったのか、の2つです。

これらの事実認定を障害する事実、すなわち納税者に有利な事実としては、

  • (ア)過少申告の意図と矛盾する行動。
  • (イ)過少申告の意図がない(申告意図がある)からこそとった行動。
  • (ウ)隠蔽または仮装の意思の一貫性と矛盾する行動。
  • (エ)隠蔽または仮装の意思があるならば、当然行なっているであろう行動の不存在
  • (オ)過少申告の故意以外の可能性がある事情。

 
などが考えられます。
これらの事実を見つけ出して、主張・立証していく必要があります。

裁決では、これらについて、次のように判断しました。
まず、本件貯金口座の残高証明書を取得しなかったことは過少申告の故意に基づくものかについては、

①本件各預金の総額281,843,369円の5%程度でしかない(上記(エ)に該当し、過少申告する意図があるのであれば、もっと過少申告額が大きくなるのが自然です)。

②本件払戻金が入金された本件請求人貯金口座は、解約されることなく、本件払戻金の入金前後を通じて、請求人において継続的に使用されており、本件払戻金に相当する金銭の払出しがない(上記(エ)に該当し、過少申告する意図があるのであれば、見つけられないように本件払戻金を払い戻している方が自然です)。

③本件被相続人の遺産のうち、請求人が取得したいと希望していたものは自宅のみであり、それ以外の財産について特段の関心があったとは認められない(上記(オ)に該当し、本件払戻金について特段の関心がないのであれば、申告の際、本件払戻金について失念していても不自然ではありません)。

④請求人は、本件調査の際、本件調査担当職員に対し、本件貯金が本件申告から漏れていた旨を自ら申し出ている(上記(ウ)に該当し、指摘を受ける前に自ら申し出るのは、隠蔽または仮装の意思が一貫していません。)。

次に、請求人が本件貯金の存在を本件会計事務所に伝えなかったことは請求人の故意によるものかについては、

①本件業務に関する打合せのほとんどが、本件事務員と本件長男との間で行なわれた(上記(オ)に該当し、本件貯金口座が申告書に計上されているかどうか認識しにくいといえます)。

②本件税理士や本件事務員は、本件業務の過程で本件相続人らに対し、本件被相続人の相続財産にQ銀行の貯金があるか否かを確認していない(上記(オ)に該当し、発覚しにくいといえます)。

③本件遺産分割協議書および本件申告書の原案は、本件事務員および本件長男により作成され、請求人が令和元年9月4日までこれらの原案を見ていない(上記(オ)に該当し、請求人が本件貯金口座が申告書に計上されているかどうか認識しにくいといえます)。

④請求人は、令和元年9月4日および翌5日、本件遺産分割協議書や本件申告書への押印等のため、本件長男と本件事務員との打合せに同席したものの、その際、本件事務員から本件遺産分割協議書や本件申告書の内容について入念に確認するよう指示を受けていない(上記(オ)に該当し、発覚しにくいといえます)。

⑤請求人は、本件調査の際、本件調査担当職員に対し、本件貯金が本件申告から漏れていた旨を自ら申し出ている(上記(ウ)に該当し、指摘を受ける前に自ら申し出るのは、隠蔽または仮装の意思が一貫していないといえます)。

以上により、「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした」ことが真偽不明となった結果、その立証責任を負う原処分庁が不利益を受け、処分が取り消されました。

国税の審査請求は弁護士にご依頼を

国税の審査請求は、法律構成、事実の主張、立証など、専門的知識が必要な分野です。

弁護士には得意不得意があり、日常的に税法を扱う弁護士は多くありません。

しかし、国税の審査請求では税法解釈が必須であり、税法に関する高度の知識が必要となります。

したがって、国税の審査請求を提起しようとする場合には、税法に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人みらい総合法律事務所では、国税の審査請求のご相談を受け付けています。

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