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弁護士法人みらい総合法律事務所

税理士の懲戒処分とは

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
 代表社員 弁護士 谷原誠

最終更新日 2024年11月7日

税理士の行う業務

1 税理士の使命

税理士法第1条は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定している。
すなわち、税理士の使命は、「納税義務の適正な実現を図ること」であり、そのために、
・独立した公正な立場であること。
・申告納税制度の理念にそっていること。
・納税義務者の信頼にこたえること。
が前提とされている。

ここで、「独立した公正な立場」とは、納税義務者及び国のいずれにも偏しない独立かつ公正な立場で業務を行うということである。また、日本の多くの租税においては、申告納税方式が採用されているが、税務の専門家である税理士が納税義務者を援助することにより、適正な申告納税がなされることによって納税義務の適正な実現を図ることが期待されている。さらに、税理士は、国家資格であり、有償無償の税理士業務を独占しているが、税理士業務の独占は、納税義務者の信頼の上に成り立つものであることから、納税義務者の信頼にこたえることも税理士の使命として第1条に規定されているものである。

申告納税方式とは、税額が納税義務者の申告によって確定することを原則とし、例外的に無申告の場合または申告が不適法な場合に課税庁の更正または決定によって税額を確定する納税方式である(国税通則法第16条1項1号)。

申告納税方式が採用されている租税については、課税標準および税額の計算が複雑であり、納税義務者と課税庁において見解の相違が生ずることもある。そこで、申告納税手続において、税務の専門家である税理士が申告納税制度の理念にそって納税義務者を援助し、適正な申告納税がなされるよう期待されているものである。
税理士法第1条の規定は、税理士法人にも準用されている(税理士法第48条の16)。

2 税理士の行う業務

(一)総論
税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税、法定外目的税その他の政令で定めるものを除く。)に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談の事務を行うことを業とする(税理士法第2条第1項)。

税理士又は税理士法人でない者は、税理士法に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとされている(税理士法第52条)。ここでいう別段の定めには、次のものがある。

①国税局長(地方税については、地方公共団体の長)は、租税の申告時期において、又はその管轄区域内に災害があつた場合その他特別の必要がある場合においては、申告者等の便宜を図るため、税理士又は税理士法人以外の者に対し、その申請により、二月以内の期間を限り、かつ、租税を指定して、無報酬で申告書等の作成及びこれに関連する課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることを許可することができる。ただし、その許可を受けることができる者は、地方公共団体の職員及び公益社団法人又は公益財団法人その他政令で定める法人その他の団体の役員又は職員に限るものとする(税理士法第50条)。
②弁護士は、所属弁護士会を経て、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができる(税理士法第51条、いわゆる通知弁護士・通知弁護士法人・通知弁護士外国法事務弁護士共同法人)。
③行政書士又は行政書士法人は、それぞれ行政書士又は行政書士法人の名称を用いて、他人の求めに応じ、ゴルフ場利用税、自動車税、軽自動車税、事業所税その他政令で定める租税に関し税務書類の作成を業として行うことができる(税理士法第51条の2)。
そして、これらに反して税理士業務を行った場合には、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金の罰則が規定されている(税理士法第59条)。

(二)税理士業務の対象となる租税
税理士業務の対象となる租税は、租税全般であるが、一定の租税については、税理士が業務を独占する租税から除外されている。

税理士業務から除外されている租税は、以下のとおりである(税理士法施行令第1条)。
・印紙税
・登録免許税
・自動車重量税
・電源開発促進税
・国際観光旅客税
・関税
・とん税
・特別とん税
・狩猟税
・法定外普通税
・法定外目的税

ここで、「法定外税」は、課税自主権の観点から、地方税法に定められた税以外の税であって地方団体に認められている税である。法定外普通税には、例えば、広島県廿日市市の「宮島訪問税」などがあり、法定外目的税には、例えば、「産業廃棄物税」などがある。
これらについては、あえて税理士独占業務とし、税理士の専門的援助が必要とは解されないものである。

(三)「業とする」
「業とする」とは、「当該事務を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しないものとし、国税又は地方税に関する行政事務に従事する者がその行政事務を遂行するために必要な限度において当該事務を行う場合には、これに該当しないものとする。」(税理士法基本通達2-1)とされている。

「反復継続」して税理士業務を行うことが必要であるから、1回限りにおいて税務書類の作成等をしても、「業」として行ったことにはならない。しかし、1回しか税務書類等の作成をしたとしても、その後も反復継続して行う意思をもっていた場合は、「業」として行ったことになる。例えば、税務書類の作成を行う旨の広告を出して、1人目の顧客の税務書類を作成した場合は、その後も反復継続して税理士業務を行う意思があることから、税理士業務を「業」として行ったと認定されるであろう。

(四)税務代理
税務代理とは、税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法第二章の規定に係る申告、申請及び審査請求を除くものとする。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいう(税理士法第2条第1項1号)。

税務代理には、税務官公署に対してする主張又は陳述の前提となる税務官公署から納税者に対して発する書類等の受領行為を含むほか、分納、納税の猶予等に関し税務官公署に対してする陳述につき、代理することを含むものとされている(税理士法基本通達2-3)。
また、「代理」とは、代理人の権限内において依頼人のためにすることを示して同号に規定する事項を行うことをいい、同号に規定する「代行」には、事実の解明、陳述等の事実行為を含むものとされている(税理士法基本通達2-4)。民法では、「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。」(民法第99条)とされている。

要件としては、
①代理権限があること。
②本人のためにすることを示してすること。
③意思表示であること。
である。
代理または代行行為としては、租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく行為として、次の行為が該当する(税理士法第2条第1項1号、税理士法施行令第1条の2)。
①申告
所得税、法人税、消費税、相続税などの納税申告等をいう。
②申請
納税猶予の申請、青色申告承認申請、納期の特例に関する承認の申請、法人税の確定申告の提出期限の申請、相続税の物納の申請などをいう。
③請求
欠損金の繰戻しによる還付請求、更正の請求等をいう。
④不服申立て
処分行政庁に対する再調査の請求、国税不服審判所などに対する審査請求をいう。
⑤届出
事業年度を変更した場合等の届出、開業等の届出、消費税課税事業者選択の届出等をいう。
⑥報告
事業所得等に係る総収入金額の報告、納付受託者による報告等をいう。
⑦申出
税金の予納の申し出等をいう。
⑧申立て
再調査の請求または審査請求における請求人等による口頭意見陳述の申立等をいう。
⑨その他これらに準ずる行為
不服申立てに関して行う補正、①から⑧までの行為に関連して行う書類等の提出等をいう。
また、申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする行為として、次の行為が該当する(税理士法第2条第1項1号)。
①主張
税務調査または処分に関して行う納税者による意見の表明をいう。
②陳述
税務調査または処分に関して行う納税者による意見の表明を除く事実の説明等をいう。

なお、「税務官公署に対してする主張又は陳述の前提となる税務官公署から納税者に対して発する書類等の受領行為」には、国税通則法(昭和37年法律第66号)第117条第1項に規定する納税管理人又は同条第5項に規定する特定納税管理人が、その処理すべき事項として行う税務官公署から納税者に対して発する書類等の受領行為は含まれないこととされている(税理士法基本通達2-3(注)。

(五)税務書類の作成
税務書類の作成とは、税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)で財務省令で定めるものを作成することをいうとされている(税理士法第2条第1項2号)。

したがって、税理士業務として作成する税務書類は、申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(税理士法2条1項2号)、及び届出書、報告書、申出書、申立書、計算書、明細書その他これらに準ずる書類(税理士法施行規則1条)ということになる。

財務諸表は、申告書等の添付書類として提出が義務付けられているが、会社法等税法以外の法令により作成が義務付けられているものであり、税務書類には該当しないものと解される。したがって、税理士または税理士法人でない者が財務諸表を作成することは許される。

税務書類を「作成する」とは、税務「書類を自己の判断に基づいて作成することをいい、単なる代書は含まれないものとする。」(税理士法基本通達2-5)とされている。

税理士又は税理士法人が税務書類の作成をしたときは、当該税務書類の作成に係る税理士は、当該書類に署名しなければならない(税理士法第33条第2項)。また、税理士又は税理士法人が税務代理をする場合において、租税に関する申告書等を作成して税務官公署に提出するときは、当該税務代理に係る税理士は、当該申告書等に署名しなければならない(税理士法第33条第1項)。

(六)税務相談
税務相談とは、税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法第二条第六号イからヘまでに掲げる事項及び地方税(森林環境税及び特別法人事業税を含む。)に係るこれらに相当するものをいう。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいうとされている(税理士法第2条1項3号)。

「税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関」は、前記のとおり、申告、申請、請求、不服申立て、届出、報告、申出、申立て、その他これらに準ずる行為であり、これらに関して、「(国税通則法)第二条第六号イからヘ」に掲げる事項及び地方税に係るこれらに該当する課税標準等の計算に関する事項について相談に応じるのであれば、税務相談となり、税理士のみが行うことができることになる。

「(国税通則法)第二条第六号イからヘ」は、以下のとおりである。
イ 課税標準(国税に関する法律に課税標準額又は課税標準数量の定めがある国税については、課税標準額又は課税標準数量。以下同じ。)
ロ 課税標準から控除する金額
ハ 次に掲げる金額(以下「純損失等の金額」という。)
(1) 所得税法に規定する純損失の金額又は雑損失の金額でその年以前において生じたもののうち、同法の規定により翌年以後の年分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除し、又は前年分の所得に係る還付金の額の計算の基礎とすることができるもの
(2) 法人税法に規定する欠損金額又は連結欠損金額でその事業年度又はその連結事業年度以前において生じたもの・・・・のうち、同法の規定により翌事業年度以後の事業年度分若しくは翌連結事業年度以後の連結事業年度分の所得の金額若しくは連結所得の金額の計算上順次繰り越して控除し、又は前事業年度以前の事業年度分若しくは前連結事業年度以前の連結事業年度分の所得若しくは連結所得に係る還付金の額の計算の基礎とすることができるもの
(3) 相続税法第二十一条の十二(相続時精算課税に係る贈与税の特別控除)の規定により同条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合における当該金額の合計額を二千五百万円から控除した残額
ニ 納付すべき税額
ホ 還付金の額に相当する税額
ヘ ニの税額の計算上控除する金額又は還付金の額の計算の基礎となる税額

以上より、たとえば、節税セミナーや課税標準等の計算までは行わない相続対策コンサルティング等については、税務相談には該当しないこととなる。
税理士法基本通達2-6では、「法第2条第1項第3号に規定する「相談に応ずる」とは、同号に規定する事項について、具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいうものとする。」と規定している。

東京地裁平成24年7月13日判決(TAINS Z999-0144)は、税理士「法上罰則付きで税理士の独占業務とされる税理士業務であって、「税務官公署に対する申告等、税務官公署に対してする主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずること」をいい(同法2条1項3号)、この「相談に応ずる」とは、具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいう(税理士法基本通達2-6)、し、各種コンサルティングにおいて単に仮定の事例に基づき計算を行うことや一般的な税法の解説をすることなどは「税務相談」には含まれない、と判示している。

(七)付随業務
税理士は、税理士業務のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる(税理士法第2条第2項)。

財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務は、税理士の独占業務ではなく、税理士及び税理士法人以外の者も行うことができる。たとえば、税理士でない者が記帳代行会社を設立して記帳代行業務を行うような場合である。本規定は、「税理士が」「税理士の名称を用いて」これらの業務を行うことに関して定めたものである。したがって、税理士が記帳代行会社を設立して記帳代行業務を行う場合には、税理士の名称を用いるものではないから、税理士業務に付随して行う必要はない。

税理士業務に付随して行う財務に関する事務の例としては、税理士業務に付随して行われる社会保険労務士業務が挙げられる。
社会保険労務士法(以下、「社労士法」という。)第27条は、「社会保険労務士でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。」と規定する。社労士法2条第1項1号および2号は、以下の業務を掲げている。

・労働保険、社会保険等の申請書作成
・申請書等の提出代行
・その審査請求等の代理等
・労働社会保険等の帳簿書類作成

これらは、社労士の独占業務である。

しかし、社労士法第27条但書では、「政令で定める業務に付随して行う場合」は、行うことができることになっている。これについては、社労士法施行令第2条で、税理士または税理士法人が行う税理士業務が規定されていることから、税理士及び税理士法人が税理士業務に「付随して行う場合」は、社労士業務を行うことが許される、ということになる。

この点、その範囲について、平成14年6月6日に、日本税理士連合会と全国社会保険労務士連合会で確認書が締結されており、その結果、「租税債務の確定に必要な事務」としての計算や書類作成は許されるけれども、「提出代行」や「事務代理」は、許されない、ということが確認されている。あわせて、年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反することも確認された。

税理士法第2条第2項但書は、「他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。」と規定する。たとえば、財務書類の監査または証明は、財務に関する事務であるが、公認会計士法第2条第1項は、「公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする。」と規定し、同法第47条の2は、「公認会計士又は監査法人でない者は、法律に定のある場合を除くほか、他人の求めに応じ報酬を得て第二条第一項に規定する業務を営んではならない。」と規定するのがその例である。

(八)所属税理士業務
税理士は、他の税理士又は税理士法人の補助者として税理士及び税理士業務に付随する業務に従事することを妨げないとされています(税理士法第2条第3項)。この規定に基づき、他の税理士または税理士法人に雇用され、税理士の事務所または税理士法人を税理士登録の登録先としている者を所属税理士という(税理士法施行規則第8条第2号ロ)。

所属税理士が他人の求めに応じ自ら委嘱を受けて税理士業務または税理士業務に付随する業務に従事しようとする場合には、その都度、あらかじめ、その使用者である税理士又は税理士法人の書面による承諾を得なければならない(税理士法施行規則第1条の2第2項)。
そして、この承諾を得た所属税理士は、次に掲げる事項を記載した書面に承諾を得たことを証する書面の写しを添付した上、これに署名し、委嘱者に対して交付し、当該事項につき説明した上で、説明をした旨を記載した書面に委嘱者の署名を得た上で、使用者である税理士又は税理士法人に提出しなければならない(同条第3項~6項)。

所属税理士は、上記の業務が終了したとき又は委嘱者の承諾を得たにもかかわらず委嘱を受けるに至らなかつたときは、速やかに、その使用者である税理士又は税理士法人にその旨を報告しなければならない(同条第7項)。
税理士は、税務書類を作成した場合には、当該税務書類に署名をしなければならないが(税理士法第33条第3項)、所属税理士が署名する場合には、その勤務する税理士事務所の名称又はその所属する税理士法人の名称の他、所属税理士が他人の求めに応じ自ら委嘱を受けて業務に従事する場合には、直接受任(自らの責任において委嘱を受けて当該業務に従事することをいう。)である旨を付記しなければならない(税理士法施行規則第16条)。

(九)裁判所における補佐人業務
税理士は、租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる(税理士法第2条の2)。
この業務で代表的なものは、税務官公署の処分に対する処分取消訴訟であるが、これに限られない。税理士損害賠償請求訴訟、国税債権不存在確認訴訟、国会賠償請求訴訟、などが含まれるとされている(「新税理士法第6訂版、日本税理士連合会編」)

税理士の懲戒処分とは

1 懲戒処分の趣旨

税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談の事務を行うことを業とする(税理士法第2条第1項)とともに、税理士又は税理士法人でない者は、税理士法に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとされている(税理士法第52条)。
この税理士独占業務を前提として、国民が負う納税義務(憲法第30条)に関し、申告納税手続において、税務の専門家である税理士が申告納税制度の理念にそって納税義務者を援助し、適正な申告納税がなされるよう期待されている。

かかる税理士の業務は、税務行政に対して重大な影響があるとともに、納税義務者が税理士の援助を得るには、国民一般の税理士に対する信頼が高くなければならない。
そこで、税理士の業務の適正な執行及び国民の税理士に対する信頼を確保するため、財務大臣による税理士の懲戒処分という行政処分を定めている。

2 懲戒処分の種類

税理士法は、税理士に対する懲戒処分として、①戒告、②2年以内の税理士業務の停止、③税理士業務の禁止、の3種類を定めている(税理士法第44条)。
(一)戒告
戒告は、税理士に対し、将来を戒める旨の申し渡しをする懲戒処分である。
戒告の懲戒処分をされても、税理士業務は引き続き行うことができる。しかし、税理士の懲戒処分は、官報に公告されるとともに、特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとることとされている(税理士法第47条の4)。具体的には、後述のように、国税庁のホームページに一定期間掲載されることによって一定程度信用が失墜することになる。このような措置により、懲戒処分に実効性を確保し、税理士による業務の適正が図られることが期待されている。

(二)2年以内の税理士業務の停止
税理士業務の停止の懲戒処分は、処分で示された2年以内の期間、税理士業務を停止することを命ずる処分である。
2年以内の税理士業務の停止処分を受けた税理士は、遅滞なく税理士証票を日本税理士会連合会に返還しなければならない(税理士法第28条1項)。そして、その期間、税理士業務ができなくなるので、顧客との税理士業務に関する契約を全て終了させる必要がある。
税理士証票は返還するものの、税理士登録は抹消されないので、税理士会会員の資格は喪失しない。

(三)税理士業務の禁止
税理士業務の禁止の懲戒処分は、当該税理士に税理士業務を行うことを禁ずる処分である。税理士が税理士業務の禁止処分を受けると、日本税理士連合会は、当該税理士の税理士登録を遅滞なく抹消することとされている(税理士法第26条第1項第4号)。そして、懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で、当該処分を受けた日から3年を経過しないものは、税理士登録ができないこととされている(税理士法第4条6号)。また、税理士業務の禁止処分を受けた税理士は、税理士業務の禁止を受けた時に、所属税理士会を退会する(税理士法第49条の6第7項)。

(四)公告等
税理士の懲戒処分は、官報に公告されるとともに、特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとることとされている(税理士法第47条の4)。
この規定を受け、税理士法施行規則第20条の2は、「法第四十七条の四に規定する財務省令で定める方法は、財務大臣が、法第四十五条又は第四十六条の規定により懲戒処分をした旨を、相当と認める期間、インターネットに接続された自動公衆送信装置に記録する方法とする。」と規定する。

そして、この「相当と認める期間」は、税理士法基本通達47の4-1により、おおむね以下のように定められている。
(1) 税理士業務の禁止の懲戒処分又は税理士法人の解散の命令の公告である場合
 税理士又は税理士法人(以下「税理士等」という。)がその処分を受けた日から3年間
(2) 税理士業務の停止の懲戒処分又は税理士法人の業務の停止命令(以下「懲戒処分等」という。)の公告である場合
 税理士業務の停止の期間又は税理士法人の業務の停止の期間
(3) 戒告の懲戒処分等の公告である場合
 税理士等がその処分を受けた日から1月間
(4) 懲戒処分を受けるべきであったことについての決定の公告である場合
 税理士であった者が受けるべきであったその懲戒処分の種類に応じ、(1)から(3)までに定める期間に準ずる期間
(5) 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令の公告である場合
 税理士等でない者がその命令を受けた日から3年間
これら公告等により、税理士が懲戒処分を受けた事実を多くの人が知る機会が与えられることにより、処分の実効性を高めることになる。

3 税理士法人の懲戒処分

(一)懲戒処分の種類
財務大臣は、税理士法人がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反し、又は運営が著しく不当と認められるときは、その税理士法人に対し、戒告し、若しくは2年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又は解散を命ずることができる(税理士法第48条の20)。

税理士法人の懲戒処分は、次の3種類である。
①戒告
②2年以内の業務停止
③解散

税理士の懲戒処分との違いは、②である。税理士に対して2年以内の税理士業務の停止がされる場合、その対象は、「税理士業務」に限定されている。しかし、税理士法人には、「税理士業務」という限定がないため、定款所定の全ての業務の停止が命じられることになる。
税理士法人に懲戒処分の可能性が出てきた場合において、自ら税理士法人を解散することにより懲戒処分を免れることを企図する者が現れる可能性がある。そこで、懲戒手続きの通知がなされた後の税理士法人は、清算が結了した後においても、この条の規定の適用については、当該手続が結了するまで、なお存続するものとみなされる(税理士法第48条の20第3項)。

(二)税理士法人と社員税理士の懲戒処分
税理士法人を処分する場合において、当該税理士法人の社員等につき懲戒処分に該当する事実があるときは、その社員等である税理士に対し、懲戒処分を併せて行うことを妨げるものと解してはならないとされている(税理士法第38条の20第4項)。

税理士法第48条の4は、税理士法人の社員税理士の資格として次のとおり規定する。
1 税理士法人の社員は、税理士でなければならない。
2次に掲げる者は、社員となることができない。
一第四十三条の規定に該当することとなつた場合又は第四十五条若しくは第四十六条の規定による税理士業務の停止の処分を受けた場合において、当該業務の停止の期間を経過しない者
二第四十八条の二十第一項の規定により税理士法人が解散又は業務の停止を命ぜられた場合において、その処分の日以前三十日内にその社員であつた者でその処分の日から三年(業務の停止を命ぜられた場合にあつては、当該業務の停止の期間)を経過しないもの
税理士が税理士業務の禁止の懲戒処分を受けた場合には、税理士登録を抹消されることから、第1項により、改めて税理士登録を受けるまでは、税理士法人の社員税理士になれない。

同条第2項2号に規定する第43条は、次のような規定である。
税理士は、懲戒処分により、弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、弁理士、司法書士、行政書士若しくは社会保険労務士の業務を停止された場合又は不動産鑑定士の鑑定評価等業務を禁止された場合においては、その処分を受けている間、税理士業務を行つてはならない。税理士が報酬のある公職に就き、その職にある間においても、また同様とする。

これら他の士業の資格において業務の停止あるいは業務の禁止の処分を受け、または報酬のある公職にある間には、税理士業務を行うことはできない。
また、税理士が2年以内の税理士業務の停止の処分を受けたばあいには、業務の停止の期間を経過しなければ税理士法人の社員税理士になれない。
仮に、税理士法人が2人の社員税理士であり、社員の1人が税理士業務の停止または税理士業務の禁止の懲戒処分を受けた場合には、社員となることができず、税理士法人の社員税理士は1人となる。
この場合、税理士法人は、社員が1人になり、そのなつた日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかつた場合、その6月を経過した時に解散するとされている(税理士法第48条の18第2項)。

4 懲戒処分の効力発生時期

一般に行政処分については、相手方に告知された時にその効力を生ずるものである。しかし、税理士に対する懲戒処分がいつ効力を生ずるかについては、税理士法に規定がなかった。そこで、この点について、昭和50年6月27日判決(Z999-2010)で争われた。

最高裁は、この点について、「同法4条7号は、税理士の欠格事由の一として、懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で、当該処分が確定した日から3年を経過しない者と定め、また、同法28条1項は、税理士が税理士業務の停止の懲戒処分を受け当該処分が確定した場合には、遅滞なく税理士証票を日本税理士会連合会に返還しなければならない旨を定め、また、同法48条は、国税庁長官は、懲戒処分が確定したときは、遅滞なくその旨を官報をもつて公告しなければならない旨を定め、さらに、同法61条4号は、税理士業務の停止の懲戒処分が確定した場合において、その処分に違反して税理士業務を行つた者を処罰する旨を定めている。このように、税理士法が懲戒処分の効力の発生に伴う処置やこれを前提とする不利益な効果の付与を懲戒処分の確定にかからせていることから考えると、同法は、税理士に対する懲戒処分の効力の発生時期をその処分の確定した時としているものと解するのが相当である。」として、税理士に対する懲戒処分の効力発生時期を、懲戒処分の確定した時と判示した。

しかし、税理士は、申告納税手続において、税務の専門家である税理士が申告納税制度の理念にそって納税義務者を援助し、適正な申告納税がなされるよう期待されており、税理士の業務は、税務行政に対して重大な影響があるものである。税理士法所定の手続において懲戒処分がされた時には、その確定を待たずにただちにその効力を生じさせるのが望ましいといえる。

そこで、昭和55年改正において、各条文の文言を改正し、「処分の時」に効力が発生するものとした。具体的には、第4条の6項で、懲戒処分により税理士業務を行うことを禁止された者で、当該処分を受けた日から三年を経過しないものは税理士となる資格を有しないとし、第47条の4で、財務大臣は、第懲戒処分をしたときは、遅滞なくその旨を、公告等をするものとし、第26条1項4号は、日本税理士連合会は、税理士が税理士業務の禁止の処分を受けた時は遅滞なく税理士登録を抹消するものとしている。

5 懲戒処分の除斥期間

除斥期間とは、一定の期間内に権利を行使しないとその期間の経過によって権利が消滅場合のその期間をいう。民法の消滅時効が、消滅時効期間が経過した時といえども、債務者の援用を待ってその効力を生ずる点で時効制度と異なる。

税理士法第47条の3において、「懲戒の事由があつたときから十年を経過したときは、懲戒の手続を開始することができない。」と定めている。当初、この除斥期間は定められていなかったが、令和4年度税制改正により規定されたものである。

ここで、「懲戒の手続を開始すること」とは、税理士に対して、懲戒処分に係る聴聞又は弁明の機会の付与について行政手続法第15条第1項又は第30条に規定する通知を発することをいう。
また、「懲戒の事由があったとき」とは、懲戒の事由に当たる税理士法違反行為が終了した時点をいうとされている。

具体的には、以下のように判定される(税理士法基本通達47の3-1)。
(1) 単独の税理士法違反行為が行われた場合
 税理士法違反行為の除斥期間は、違反行為が終了した時点から開始する。例えば、委嘱者から脱税相談を持ちかけられ、一定の期間が経過した後に、その相談に応じ回答した場合は、脱税相談を持ちかけられた時点ではなく、委嘱者に脱税相談の回答をしたときが違反行為の終了した時点となり、その時点から除斥期間が開始することとなる。
 また、税理士法違反行為による違法状態が継続する場合の除斥期間は、その違法状態が解消された時点から開始する。例えば、委嘱者から預かった納税資金を着服する信用失墜行為を行った場合には、着服後、その資金を返還するまで非行事実と評価すべき違法状態が継続しており、その資金を返還したことなどにより、違法状態が解消された時点から除斥期間が開始することとなる。
(2) 複数の税理士法違反行為が行われた場合
 複数の税理士法違反行為が行われた場合の除斥期間は、原則として、それぞれの違反行為が終了した時点からそれぞれ開始する。例えば、不真正な税務書類の作成又は提出のほか、非税理士に対する名義貸しを行った場合には、不真正な税務書類の作成又は提出と非税理士に対する名義貸しのそれぞれの行為が終了した時点から除斥期間がそれぞれ開始することとなる。
 ただし、複数の税理士法違反行為のそれぞれが密接に関連して、一方が他方の手段となり、他方が一方の結果となる違反行為を行った場合の除斥期間は、最後に行われた違反行為が終了した時点から開始する。例えば、不真正な税務書類の作成又は提出を依頼され、その前提として脱税相談に応じた場合には、不真正な税務書類の作成又は提出の行為が終了した時点から除斥期間が開始することとなる。

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