今回は、税務調査を拒否して仕入税額控除を否認され、その損害について税理士に対して損害賠償請求をした裁判例をご紹介します。
千葉地裁令和3年12月24日判決です。(税理士敗訴)
(事案)
●原告はパチンコ店を営む株式会社である。
●原告と被告税理士は税務顧問契約を締結した。
●東京国税局は、原告に対し、平成26年2月4日、事前通知なく原告店舗等に臨場した。
●被告は、事前通知を要しない理由を説明することができない調査は違法であるとして退去を求めた。
●被告は、その後も調査の拒否を続け、国税局担当者から「今後も帳簿書類の提示がなければ、法人税法127条1項1号に規定する帳簿の備付け等が法令の規定に従って行われていないものとして、青色申告の承認の取消処分の対象となる場合があり、消費税の仕入税額控除を否認せざるを得ない場合もある。」旨記載された連絡票を受け取ったが、調査拒否の対応は変わらなかった。
●平成27年6月5日に税務署は、消費税の仕入税額控除を否認した消費税の更正処分等の通知書を発送した。
●原告は、被告税理士に対し、損害賠償請求をした。
(税務調査拒否と帳簿の保存の関係)
税務調査において、帳簿提示を拒否した事案で、青色申告承認取消処分をした事例の最高裁平成17年3月10日判決(TAINS Z255-09954)は、次のように判示しています。
「法人税法126条1項は、青色申告の承認を受けた法人に対し、大蔵省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法126条1項の規定に違反し、同法127条1項1号に該当するものというべきである。」
(被告税理士の主張)
被告は、本件担当者に対し、本件調査への協力や帳簿等の提示を拒否したものでなく、質問調査を行う法的根拠を確認していたにすぎず、本件調査に対する対応について、被告に税務代理委任契約上の善管注意義務違反及び指導助言義務違反はない。
(判決)
●被告は、原告の税務代理人として、本件調査に対する対応を行うに当たり、本件担当者から、本件各連絡票の送付を受け、その求めに応じなければ、青色申告の承認の取消処分を受け、消費税の仕入税額控除を否認されるおそれがある状況となり、後にはそのような重大な不利益処分がされる可能性があることが明示された。
●それにもかかわらず、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するというそれまでの方針を維持することの可否について、課税当局の対応見込みを踏まえて原告(X2)と真摯に検討することがないまま、最後まで、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するという自らが立てた方針に拘泥し、その方針に基づいた対応をとった。
●被告は、他人から税務代理を受任した税理士が負う義務に違反し、原告は、そのことによって、帳簿書類を提示し税務調査に応ずる機会を失い、本件各更正等を受けるに至ったと認めることができるから、被告に対し、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。