【動画解説】脱税でマルサ(査察)が入ったら、どうなるか
国税庁の発表によると、令和3年度において査察調査に着手した件数は、116件であり、検察庁に告発した件数は75件ということです。
ということは、調査着手した案件で、脱税の告発率は64.6%でした。
そして、査察事案に係る脱税額は総額で102億1200万円。
気になる脱税の有罪率ですが、令和元年100%、令和2年98.9%、令和3年100%です。
実刑判決は、令和3年で5人ということです。
さらに詳しくは、国税庁のホームページでご確認ください。
脱税で査察調査が開始された場合には、高い確率で刑事告発され、起訴された場合には、非常に高い有罪確率になる、ということがわかります。
この記事では、脱税について、包括的かつ網羅的に解説していきます。
脱税とは?
脱税の罪は、各税法に定められています。
代表的なものは、所得税法と法人税法でしょう。
所得税法238条1項
偽りその他不正の行為により、・・・・所得税の額・・・につき所得税を免れ、又は・・・所得税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
罰金は、1000万円が上限とされていますが、脱税額が1000万円を超えるときは、脱税額まで増額されます。
法人税法159条1項
偽りその他不正の行為により、・・・法人税を免れ、又は・・・法人税の還付を受けた場合には、法人の代表者・・・、代理人、使用人その他の従業者・・・でその違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
罰金の増額については、所得税と同じです。
このように、脱税の罪は、「偽りその他不正の行為により」「税を免れ」た場合に成立することになります。
最高裁昭和42年11月8日判決(刑集21巻9号1197頁)は、「詐欺その他不正の行為とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのを相当とする」と判示しています。
このほか、申告書不提出の罪、租税不納付の罪、虚偽申告の罪などもあります。
単純無申告犯=正当な理由がなくて提出期限までに申告書を提出しない場合(法人税法160条)。
刑罰は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金。
申告書不提出犯=故意に提出期限までに申告書を提出しない場合(法人税法159条3項、4項)。
刑罰は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科(罰金につき4項加重あり)。
などです。
脱税の犯行の手口としては、売上除外、架空経費の計上などが典型的なものです。
脱税犯の成立に必要な故意とは?
脱税犯は故意犯なので、犯罪が成立するには故意であることが必要とされます。
具体的には、以下の認識が必要となります。
①納税義務の存在の認識
所得があり、かつ納税する義務があるという事実を認識していること。
②偽り、その他不正の行為の認識
自分の行為が、偽り、その他不正の行為であることを認識していること。
③逋(ほ)脱の結果についての認識
所得が存在するにもかかわらず、これに対する正当な税額の一部、または全部を免れる結果になることを認識していること。
ちなみに、「逋脱」とは裁判実務上の慣用的な用法で、ここでは単純に、税をのがれること=脱税=逋脱、と理解してください。
また、報道などを見ていると「申告漏れ」という言葉を目にすることがあります。
では、「申告漏れ」と「所得隠し」の違いは何かというと、過失か故意かの違いということになります。
たとえば、計算の誤りによって所得が少なくなっていた場合、税法の解釈の誤りによる過少申告、所得を得ていることを知らなかった場合、申告手続きが遅れてしまった場合など意図的ではない場合は、申告漏れとして取り扱われます。
脱税事件は、国税局の査察部(通称「マルサ」)による調査から始まるのが通常です。
マルサは、納税者にバレないように調査を進め、証拠を収集していきます。
当該納税者の預金、貯金関係はもちろん、関連会社や取引先についても調査し、長期間をかけて張り込み、尾行等の内定調査を行います。
そして、脱税の疑いが濃厚になったところで、会社や自宅、関連先に同時にガサ入れに入ります。
そこで、帳簿やパソコンその他関連資料をごっそりと持って行ってしまいます。
また、金庫その他に脱税した現金や金、その他の財産が隠されていないかどうか探すことになります。
これを通称「たまり」と言います。
脱税した場合、そのお金を預金などに入れておくとすぐにバレてしまうので、隠しておくことが多いのです。そして、その「たまり」は、脱税の有力な証拠ともなります。
収入が決まっているのに、それに見合わない多額の資産があるのは、脱税した証拠ではないか、ということです。
この調査のことを「租税犯則調査」といいます。
以前は、手続が国税犯則取締法に規定してありましたが、平成29年度税制改正で国税通則法に手続きに関する規定が移されました。
租税職員は、犯則調査のため、犯則嫌疑者や参考人に、質問し、物件を検査し、物件を領置することができます(通則法131条1項)。
裁判所の許可を得て、
・臨検(一定の場所に立ち入ること)、
・捜索(犯則嫌疑者の身体や所持品を調べ、住居その他の場所に立ち入って探索すること)、
・差押えをすることができます(通則法132条1項)。
裁判所の許可を得て行われるもので、強制力があります。したがって、この強制調査は拒否することができません。
そして、調査中については、何人に対しても、許可を受けないでその場所に出入りすることを禁止することができることとされています(通則法149条)。
その後、マルサによる取り調べが長期間続き(平均すると6ヶ月程度でしょうか)、調書を取られ、刑事処分相当、ということになると、刑事告発されることになります。
ところで、通常の所轄税務署による税務調査では、「質問検査権」というものが定められており、質問に答えなかったり、検査妨害等をした 場合には、罰則が定められています。
租税反則調査においても、「質問検査権」が定められていますが、租税犯則調査における質問検査に対する検査妨害等については、罰則規定が平成29年度改正で削除されました。
これは、犯則調査は、実質的には刑事手続に準ずる手続であるから、憲法38条1項の黙秘権の保障が及ぶことが考慮されたものと考えられています。
脱税事件における告発・起訴の目安
以前は、刑事告発されるのは、脱税額が3年間で1億円以上というのが目安とされていたのですが、近年ではその額はどんどん下がってきています。
2011年には茨城県守谷市の金属売買・建築物解体会社の代表取締役と知人のホテル従業員が共謀して法人税約1104万円を脱税したとして逮捕されています。
なお、悪質性が高い場合は、もっと低くても告発されることがあり、不正還付を指導した人が、600万円の不正還付を指導した、として刑事告発された事例もあります。
税理士や脱税請負人などが絡んでいると、悪質事案として刑事告発されやすいです。
刑事告発されて起訴された場合、有罪率は極めて高いです。
脱税で逮捕されるか?
国税局に告発されと、事件が検察庁に引き継がれます。
刑事事件になる、ということです。検察庁の準備が整うと、検察庁に呼び出しを受けて、取り調べを受けることになります。
実は、脱税事件については、近年、逮捕されず、在宅による捜査および刑事裁判が多い傾向にあります。
しかし、安心はできません。逮捕される場合もあります。
逮捕される場合というのは、
- 逃亡のおそれがある場合
- 罪証隠滅のおそれがある場合
の2つです。
脱税の場合には、国税局の調査によってある程度証拠が固まっており、被疑者が自白していることが多く、証拠隠滅のおそれが比較的低いと言えるでしょう。
また、事業が継続していることも多いので、逃亡のおそれも比較的低いと言えるでしょう。
そこで、逮捕の要件を満たさない事案が多いということです。
しかし、脱税を否認しており、共犯者が複数人いて、口裏合わせをしていることが疑われたり、捜査に協力しないと、罪証隠滅のおそれがある、ということで、逮捕される場合もあるでしょう。
捜査にどこまで協力するかは、弁護士に相談しながら進めていくとよいでしょう。
脱税事件での量刑は、どうやって決まるか?
脱税事件で刑事上、考慮される量刑の事情には以下の要素があります。
これらを総合的に判断し、刑の種類や程度が決められます。
ということは、私たち弁護士の関心事も以下にあり、量刑で有利になるように被告人を指導してゆくことになります。
①逋脱税額
②逋脱率
③逋脱の手段・方法
④逋脱の動機
⑤逋脱した資金の使途
⑥逋脱所得の取得原因
⑦罪証隠滅工作の有無および、その方法
⑧修正申告・納税状況
⑨経理体制の改善
⑩同種の前科・前歴
脱税が刑事事件になった時、どの程度の量刑になるか、もっと詳しく知りたい方は、以下の参考記事もご覧ください。
罰金の目安
罰金刑の場合、その額の目安は脱税額のおよそ10~30%が一般的です。
東京国税局管内で告発された脱税事件における第一審において、
令和元年度は、1件あたり犯則税額4700万円に対し、1人(社)あたり罰金額は1200万円ですから、25%
令和2年度は、1件あたり犯則税額5700万円に対し、1人(社)あたり罰金額は1300万円ですから、22%
令和3年度は、1件あたり犯則税額6400万円に対し、1人(社)あたり罰金額は1500万円ですから、23%
という結果になっています。
課される税金
本税のほかに、過少申告加算税などの各種加算税、延滞税、重加算税など多額の納税が科せられます。
特に重加算税は高率です。
国税通則法68条に定められています。
1項
第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額・・・に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
条文上の要件を分解すると、以下のようになります。
①過少申告加算税の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)
②納税者が
③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、
④隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた
以上の要件を満たすと、効果として、隠ぺい又は仮装した部分に相当する税額につき、過少申告加算税に代えて、35%の割合を乗じた重加算税が課せられます。
重加算税の課税要件を知りたい方は、以下をご参照ください。
また、重加算税に関する通達も参考にしてください。
各税目別に通達が出されています。
ここでは、法人税に関する事務運営指針のみ示しておきます。
本来支払うべき税金に、これら加算税等と罰金を加えると、もともとの脱税額の2倍を超える金額を追加で払わなければならないケースもあります。
さらに懲役も科せられるのですから、言葉は悪いですが、脱税は割に合わない行為であるということを経営者の方には今一度認識してほしいと思います。
脱税事件は、いつ弁護士に相談すべきか?
私は弁護士資格とともに、税理士資格も持っていますので、
マルサの査察の相談や脱税の相談も多く受けております。
脱税事件をいつ弁護士に相談したらよいか、についてですが、一番望ましいのは、マルサによる犯則調査が始まる前です。
できる限り早期に弁護士に相談し、脱税事件になってしまうのを回避することをおすすめします。
マルサによる犯則調査が始まってしまったら、その後は事情聴取が続いていきますので、適宜弁護士に相談しながら対応していきます。
検察庁に告発されてしまうと、刑事事件になっていきますので、後は、どのように対応するのが最も望ましい結果になるか、よく弁護士と相談しながら進めていくことになります。
・脱税の弁護士相談SOS
弁護士法人みらい総合法律事務所では、脱税・査察調査(マルサ)のご相談を受け付けています。