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社長のクラブ利用代金で重加算税適法
社長のクラブ利用代金の支払いについて損金計上が否認され、重加算税が課せられた裁判例を解説します。
東京地裁令和2年3月26日判決(TAINS Z888-2321)です。
事案
原告らは、人材派遣業、飲食店経営などを営む株式会社であり、Aが代表者あるいは実質的な経営者であった。
Aは銀座のクラブ4店舗を合計372回利用して、利用代金を業務のための交際費として計上して法人税及び消費税の申告をした。
その後、税務調査により、本件クラブ利用代金の中に、個人的な飲食代金が含まれていると指摘を受け、うち6607万1110円をAに対する貸付金として計上した修正申告書を提出した。
税務署長は、本件過少申告について、重加算税賦課決定をした。
判決
(事実認定)
●各クラブに反面調査を行い、売上集計表から来店者の88%が1名での来店であった。
●Aはひいきにしているホステスが移籍するたびにそのクラブを利用していた
●本件ホステスと頻繁に同伴出勤及びアフターをしていたこと
●修正申告を前提として個人的な飲食代金を抽出した書面に異議を述べていないこと
●税務調査において、個人的利用であることを自認したこと
●原告らを名宛人とする本件各クラブの領収証に基づいて、本件各支出額を交際費に計上した総勘定元帳を作成することにより、本件各支出額を交際費と仮装した
(結論)
結論としては、重加算税賦課決定を適法とした。
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以上です。
中小企業の場合、社長が1人でクラブに行った時に、会社宛の領収証をもらって交際費に計上しているケースが少なくないように推測されます。
この場合、税務調査で各クラブ店舗に反面調査をされることあること、仮に会社の代表者を妻などにしている場合には、「社長にも話を聞かなければならない」などと言われることもあります。
そして、個人的な飲食費だった場合には、会社宛の領収証及び会計帳簿で仮装していたと認定され、重加算税を賦課される可能性がある、ということになります。
香典メモを破棄しても重加算税取消裁決
平成28年3月30日裁決です。
事案
・被相続人は、平成24年3月に死亡し、被相続人は請求人である配偶者と子2人。
・請求人らは、法定申告期限までに相続税の申告をしなかった。
・平成26年9月に、税務調査が開始された。
・調査担当職員から証券会社との取引はなかったか、と問われ、請求人らは、「知らない」と回答したが、実際には取引があった。
・切り取られた香典メモが発見され、同メモには、「A証券 5,000」の記載があった。
請求人らは、平成27年1月に期限後申告をした。
・処分庁は、重加算税賦課決定をした。
処分庁の主張
・請求人らは、相続税の申告をしない旨の合意をして、法定申告期限までに申告をしなかった。
・請求人は、調査担当職員に対し、P証券と取引していたことを隠すため、虚偽答弁、香典
・メモ破棄行為をし、相続財産を隠蔽する態度、行動をできるだけ貫こうとしている。
・請求人には、不申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動がある。
裁決
・請求人らは、申告義務は認識していた。
・法定申告期限までに相続税申告をしない旨の意思の合致があったとまではにわかに認めることはできない(合意の合致の立証責任)。
・請求人らは、事前通知から実地調査までの間に、調査に対し積極的には協力しない旨の漠然とした合意が形成された。
・虚偽答弁やメモ破棄は、申告期限から約1年8ヶ月後であり、準備を要するような計画的なものではなく、とっさにとった行動とも評価しうる。
・相続税を申告しない意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたとまでは認めることができない。
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以上です。
この裁決例の規範は、次の最高裁判決に則っています。
(1)最高裁平成7年4月28日判決(民集49巻4号1193頁、TAINS Z209-7518)
「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる」
(2)最高裁平成6年11月22日判決
「各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図を持って」いることが必要。
⇒無申告の場合、申告期限後に隠蔽仮装の確定的意図が生じても要件を満たさない。
⇒本件では、①申告期限までに不申告の意思の合致が認定できない、②虚偽答弁、メモ破棄は、とっさにとった行動とも評価できる。
また、相続税の重加算税通達に次のような記述があります。
「1(4) 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。
そして、この要件は、法定申告期限において必要である、ということになります。
ポイント
(1)隠蔽又は仮装の意図は、法定申告期限又は申告時点で必要です。
(2)虚偽答弁や証拠破棄などがあった時は、とっさに行ったものか、あるいは、当初より計画され、又は予定されていたものかどうかを検討します。
(3)申告時点等から調査時点まで、隠蔽又は仮装の意図が一貫しているか、あるいは意図と矛盾した行動があるか、などを検討します。
契約日を仮装でも重加算税取消裁決例
契約日を仮装したにもかかわらず、重加算税が取り消された裁決例です。
平成16年5月19日(J67-1-08)です。
事案
請求人は、AB2社との間で不動産証券化アドバイザリー契約を締結した。
契約締結日は平成14年10月1日であったが、実際の調印日は11月25日であった。
請求人は、平成14年10月期の確定申告において、アドバイザリー業務にかかる消費税額を控除対象仕入税額に含めて申告した。
税務調査により否認され、重加算税賦課決定がされた。
原処分庁の主張
請求人は、本件契約書の真実の契約締結日が平成14年11月25日であるにもかかわらず、これを同年10月1日であるかのごとく契約締結日を仮装した。
本件アドバイザリー業務は、平成13年11月20日から平成14年11月25日にかけて行われ、その対価である本件アドバイザリー報酬は同月28日に本件各相手方に支払われている。
裁決
請求人は、本件契約書の真実の契約締結日が平成14年11月25日であるにもかかわらず、これを同年10月1日であるかのごとく契約締結日を仮装した。
本件アドバイザリー業務は、平成13年11月20日から平成14年11月25日にかけて行われ、その対価である本件アドバイザリー報酬は同月28日に本件各相手方に支払われている。
ポイント
●契約締結日の仮装を認めたものの重加算税を取り消した。
●重加算税賦課要件を満たすには、「過少申告に向けられた隠蔽仮装」が必要。
●本件では、仮装と過少申告行為は無関係。