過去の故意ではない過誤を放置したことが隠蔽又は仮装とされ、重加算税が課せられた裁判例を解説します。
大阪地裁平成3年3月29日判決です。
(事案)
原告は、昭和48年12月ころ、A社から台湾産の輸入材を購入することとし、額面914万1263円の約束手形を振り出し、元帳の仕入勘定欄に同金額を計上した。
原告が右約束手形を振り出した後、右輸入材を確認したところ、粗悪な商品であることが判明したことから、原告は右輸入材の仕入を取り止めることとしたが、右元帳の記載を訂正しなかつたため、914万1263万円の仕入の過大計上が発生した。
税務署長は、重加算税賦課決定をした。
原告は、税務訴訟(処分取消訴訟)を提起した。
(処分庁の主張)
この事案において、処分庁は、以下の2つの主張をしました。
・本件過大計上は、架空取引である。
・架空取引でないとしても、過大仕入れを放置していたものである。
(判決)
判決では、以下のとおり、過大計上は故意ではないものの、過大計上を放置したことが隠蔽又は仮装であるとして、重加算税賦課決定を適法と判断しました。
・過大計上は、原告が輸入材の仕入を取り止めたにもかかわらず、元帳の訂正をしなかつたために生じたものであるが、本件仕入金額が914万1263円と高額に上ることに鑑みれば、単に訂正を失念していたものということはできず、訂正が必要であることを認識しながらこれを放置していたものというべきであるから、原告は故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、または仮装したものといえる。
・したがつて、A社からの仕入の過大計上分914万1263円については、重加算税の対象となるものというべきである。
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以上です。
ポイントとしては、重加算税の賦課要件を満たすには、「故意」の隠蔽又は仮装が必要であるところ、過大計上自体は、隠蔽又は仮装の「故意」はなかったとしても、過大計上を訂正すべきことを知りながら放置することが故意の隠蔽又は仮装にあたるという点です。
そして、訂正しなかったことが「失念」か「故意の放置」かもポイントとなります。
その判断においては、金額の大小が故意の推認に重要な要素となります。
この裁決の判断自体は、そのまま受け入れることはできませんが(証拠を見ていないので、認定できるかどうかなんとも言えません)、
税理士の変更により、新規顧問先ができることがあり、その場合において、過去の税務処理が過少申告である経理処理を見つけることがあります。
その場合、顧問先にその旨指摘するも、「過去のことは知らない」ということで放置した場合、顧問先は過去の過少申告を知っていたことになるので、税務調査で指摘を受けて、故意の放置と認定された場合には、重加算税賦課決定を受ける可能性がある、ということに注意が必要です。
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